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急減する中国の出生数 「少生快富(少なく生んで早く豊かになる)」の行き着く先

14億人の人口を抱える中国。日常生活のインフラ整備は大きな課題(高速鉄道ハルピン駅)

14億人の人口を抱える中国。日常生活のインフラ整備は大きな課題(高速鉄道ハルピン駅)

 中国の出生数が2020年、対前年比で一気に15%近く減少したことが明らかになった。昨年初めに発生したコロナウイルスの感染拡大で自宅籠もりの傾向が強まり、年末には出生数が急増するのではとの予測もあったが、完全にあてが外れた格好だ。少子化の進展速度は政府の予測を大きく上回っており、危惧する声は強まっているが、もともと過去数十年間、人口増を食い止めようと国民を動かしてきた背景があるだけに、有効な対策はないのが現状だ。

出生数、1年で15%減の衝撃

 国民の戸籍を管轄する中国公安部の発表によると、2020年1月1日~12月31日の届出新生人口は1003万人で、2019年の1179万人から14.9%の減少となった。公安部の数字は届け出ベースの速報値で、出生届の出し遅れなどのため、後日正式に発表される国家統計局の数値とは例年かなりのズレがある。その点は考慮する必要があるが、大飢饉が発生した建国後の混乱期などを除き、少なくとも改革開放後の40数年間では例のない大幅な出生数の減少が起きたことは間違いない。

 その原因のひとつにコロナ禍があるのは確かだ。武漢で爆発的な感染が発生した20年1月下旬以降、病院に行くことへの不安感から出産をためらう気分が広がった。しかし感染急拡大の時点で、同年の出生数の大半はすでに妊娠していたと考えられ、その後の出産断念が一定数あったとしても、コロナ禍がそこまで大きく影響したとは考えにくいとの見方もある。

 いずれにせよコロナ禍をきっかけに中国でも社会構造の激変が避けられないといわれる中、対前年比15%減という「崖から転がり落ちるような」(あるウェブメディアの表現)出生数の減少は、国の将来に大きな影響を与えかねないインパクトがある。

「一人っ子政策」で出生数は急速に減少

 中国では1949年の建国後、毛沢東時代の「人の多さは力」という発想で出生数が急増した。しかし78年、改革開放政策が始まると「迅速な経済成長には人口の抑制が不可欠」との方針で、いわゆる「一人っ子政策」が実施された。公権力による半ば強制的な出生数の管理が全国で展開され、年間出生数は1987年の2508万人をピークに減少が始まり、2010年には1588万人まで減少した。

 この頃になると、若年労働力の不足が顕在化し、このままでは人口構成がますます歪み、社会の高齢化に耐えられないとの危惧が高まった。そのため2013年からは、両親のどちらかが一人っ子であれば2人までの出産を認める政策に転換、2015年には全ての夫婦が2人までの出産を認めることが決定され、「一人っ子政策」は事実上、廃止された。

 しかし、政策変更の効果は短命だった。翌2016年の出生数こそ1786万人とやや増加したものの、17年からは再び減少に転じ、17年1723万人、18年1523万人、19年1465万人(国家統計局発表)と減少ペースは衰えていない。

 あるメディアが上海市で過去30年、毎年1月1日に市内で生まれた子供の数を調べたところ、1990年には2784人だったが、2000年は1148人、2010年には380人、2020年156人と10年ごとに半分以下に激減し、2021年にいたっては27人しかいなかったという。これはいささか極端な例としても、大都市での出生数の減少ぶりがうかがえる。

「きょうだい」が 存在しない世界

 出生数の減少の理由は、所得の向上や高学歴化、都市化の進展など、基本的な部分では中国も他の国と変わらないが、中国特有の背景も存在する。

 第1に挙げられるのは「一人っ子政策」による観念の変化だ。2020年現在、中国で出産の主力となっているのは23~35歳、1985~97年に生まれた女性である。この期間はすでに「一人っ子政策」の真っ只中で、農村部や辺境地区などでは例外もあるが、ほとんどの子供に兄弟姉妹がいない。つまり「きょうだい」というものが事実上存在しない世界で育ち、成人した人たちが自ら親になる時代に入っている。

 日本だと「私は一人っ子だから、○○さんはきょうだいがいて羨ましい」といった話を聞くが、中国では周囲が全て一人っ子なので、そういう感覚に乏しい。その結果、あえて2人以上の子供をつくろうとは考えない傾向が強くなっている。

持ち家なくして子育てなし

次々と進むマンション建設。価格も年々高騰している
次々と進むマンション建設。価格も年々高騰している

 第2の背景は(不動産としての)「家」に対する中国社会の異様なまでの強いこだわりだ。もともと中国の社会には「他人に家賃を払うぐらいなら借金をしてでも自分の家を買う」という強烈な持ち家志向がある。その根底には、歴史的に長く混乱の時代が続いた経緯から、まずは他人に侵されない自分の「城」として、安定した不動産を持つという切迫感があるように感じられる。中国では賃貸住宅の場合、賃借人の立場が弱く、いつ法外な賃料の値上げを要求されたり、追い出されたりするかわからないという事情もある。

 そのような雰囲気の社会で若い夫婦が子供をもうけるとなると、まずはその基盤となる安定した家を確保しないと、社会的に「一人前」と見てもらえない。中国は面子(メンツ=他人からどう評価されるか)が非常に重要な社会だから、そんな中途半端な状態のまま子供を生むのは恥ずかしいことだ――といった感覚が強くなってしまっている。

 ところが、中国の都市部の不動産は高騰につぐ高騰で、若い人の給料ではとても手が出る水準ではなくなっている。仮に家を買おうと無理をしてローンを組めば、今度は子供の養育費、教育費が足りなくなる。

 ここでも状況は同じで、自らの子供に満足な教育も施せないようでは親として「一人前」とは言えず、恥ずかしいことである--という感覚がある。さらには、山のように出る学校の宿題をこなすために、疲れて帰った親が夜、何時間も子供の宿題に付き添う。こうなるとそれなりの収入がある夫婦でも、体力と気力の限界、自らのキャリア上の機会損失を考えると、2人以上の子供を持つなどとても考えられないというケースが多い。

 こうしたさまざまな状況から、結婚はしても子供は諦めて夫婦で可処分所得の大きい生活を送る、もしくは結婚そのものにこだわらないといった生き方を選ぶ人が増えている。

親にとって子供の「経済的な価値」が低下

 そして第4の、おそらく最も本質的な理由が、中国人の人生が「社会化」してきたことである。

 中国社会は日本と比べて家族の関係が近い。特に親子の絆(きずな)は極めて強い。親は子供が苦労しないよう、なんとか資産を残そうとするし、子供は親が年老いたら世話をするのは当然だと思っている。親と子の相互依存関係が強い。少なくともこれまでは、それが中国では当然のことだった。

広場で太極拳に励む人たち。平均寿命も着実に伸びている
広場で太極拳に励む人たち。平均寿命も着実に伸びている

 しかし、社会が富裕化し、都市化が進むにつれ、養老年金など社会福祉制度の整備が進み、設備の整った高齢者向けのサービス施設なども充実してきた。親は親で自分の資産を使っていわば自立した老後を送り、子供は子供で自分の人生を考える。これまで「家」単位で解決してきた問題を社会的な仕組みで解決する、いわば「人生の社会化」が都市部を中心に急速に進んでいる。

 そのため親が老後を子供に頼る必要性が低下し、割り切った言い方をすれば「親にとっての子供の経済的価値」が下がってきている。要は子供がいなくてもなんとかなる社会になってきた。これが最も本質的な少子化の理由ではないかと思う。

無理を承知で減らした4億人

 中国の過去40年ほどの奇跡的ともいえる急速な経済成長は、過酷な人口抑制策の結果であることは否定できない。仮に「一人っ子政策」を導入せず、それまでのペースで出生数が増え続けたと仮定した場合に比べ、中国はこの間、4億人の人口を「削減」したと試算されている。現在なら人権問題として世界中から非難を浴びるであろう、かなり乱暴なやり方で、「少生快富(少なく生んで早く豊かになる)」を実現しようと突っ走ってきたのが中国という国である。

 1970年代末、世界最大の人口を抱えた国が貧困のどん底から這い上がろうとした時、かなり無茶な手段を取らない限り、目標は到底実現できないことは明らかだった。そして中国はその無茶な政策をやり通し、目標は大きく実現に近づいた。評価の分かれるところではあるが、このことが中国の社会や人々の暮らしを大きく変えたことは事実で、いたずらに現在の急激な出生数の減少を政策の失敗とみるだけでは不十分だろう。

 しかし今、その反動が噴出してきている。長い時間をかけて成熟してきた先進国より、その反動もまた急で、大きい。中国の急激な出生数の低下は、そのように理解するべきだろう。

田中信彦 Written by
BHCCパートナー。亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科(MBA)講師。1983年早稲田大学政治経済学部卒。新聞社を経て、90年代初頭から中国での人事マネジメント領域で執筆、コンサルティング活動に従事。(株)リクルート中国プロジェクト、ファーストリテイリング中国事業などに参画。上海と東京を拠点に企業等のコンサルタント、アドバイザーとして活躍している。近著に「スッキリ中国論 スジの日本、量の中国」(日経BP社)。