新型コロナウイルスの影響や働き方改革によって、オフィスを離れリモート環境で働く人が増えている。しかし、いくら在宅勤務の環境が整っても、オフィスに郵便物が届くと、それを開封・確認するために出社しなければならない。また、「在宅」「出社」さらには「ワーケーション」と従業員があちこちに分散しながら働くようになったことで、総務やメール室担当者など、郵便物や配達物を管理・保管する側の負担も大きくなっている。
こうした「オフィスへの届けもの」の課題にビジネスチャンスを見出し、急成長中のスタートアップがある。それが、オフィスの郵便物や配達物を管理するアプリケーションやサービスを提供する株式会社トドケール(本社・東京都千代田区)だ。
トドケールが提供するサービスは2つ。そのひとつが、総務やメール室担当者を主な対象とした、オフィス内での書類や荷物の受け渡しを効率化するサービスだ。
このサービスの利用者には、郵便物や配達物を一元管理できるクラウド型システム「オフィスでトドケール」が提供される。総務など、配達された書類や荷物を一括して受け取る部署の担当者は、届いたものの写真をスマートフォンなどで撮り、受取人情報とともにシステム上に登録。すると、受取人には自動通知メールが届き、それを見た受取人が、自ら社内担当部署に足を運び受け取る。
この仕組みにより、管理者側は仕分けや配達の手間を減らせるうえ、渡し忘れなどのトラブルも防止できる。受け取る側も、自分宛に届いているものの量が常に把握できるので、在宅勤務者が出社のタイミングを決めるのにも役に立つ。
もうひとつのサービスはさらに一歩踏み込んだもので、出社なしのリモートワーク化を実現することができる「クラウドメール室」だ。
これは郵便物や配達物の管理業務をトドケールが代行するもので、同社のスタッフが契約企業のポストから書類や荷物を回収し、写真とともに受取人に通知する。受取人はその通知を見て、オフィスで受け取るか、PDF化した書類をメールで受け取るか、自宅など指定した場所に転送してもらうかを選ぶ仕組みとなっている。
このサービスを導入することで、従業員は自分宛てに届いたものをチェックするために出社する必要がなくなり、企業はリモートワーク化をさらに進めることができる。
こうした「オフィスへの届けもの管理」に特化したトドケールのサービスは、コロナ禍もあり、多くの企業から注目を集めている。設立の経緯や今後の展望について、代表取締役CEO 野島剛氏に話を聞くことができた。
まずは設立の経緯から。野島氏は、もともと大手会計事務所やコンサルティング会社で働いていたが、「自分がやりたいことじゃない」と感じ、アメリカに留学し、MBA(経営学修士)取得を目指した。
その際「現地のテック系の企業を経験したい」と、インターンで入ったのが、電子宅配ロッカーを提供する会社だった。そこで「日本の宅配ロッカーと、すごい違いがある」ことに気づいたという。
「アメリカの宅配ロッカーは誕生したそのときからインターネットにつながっています。そうすると、誰が、いつ、どれくらい利用したのかなど、取れるデータ量が日本のロッカーとは比べものにならないほど大きくなり、ビジネスの幅が一気に広がるのです」
宅配ロッカーがインターネットにつながっていれば、利用者への通知機能も搭載することができる。通知機能を使えば、不在票が不要になるなど、日本の宅配ロッカーよりもはるかに満足度の高い顧客体験を提供できる。
「また当時(2016年〜2017年頃)の日本の物流業界では、物流量が多すぎて、大手物流の宅配スタッフが疲弊し、荷物を乱暴に扱う様子などがネットに流れて話題になっていました。そうした状況を見ても、ビジネスの可能性があると思い、ずっと動向を見つめていました」
やがて留学を終え帰国した野島氏は、物流業界での起業を決意する。
「物流がデジタル化で進化していくときに、最終的にどのプロセスが残るのかと考えたら、やはり『物の受け渡し』だと思いました。それはまさにアメリカで見た宅配ロッカーの世界なのですが、(米国で見た宅配ロッカーには)欠点が2つあった。高額であることと、容量に制限があったこと。だから僕はこれの真逆、機械ではなく、“人”が受け渡す部分をやろうと決めました」
国内で人が荷物の受け渡しをしている場を探したところ、「企業のメール室」が思い浮かんだ。
「企業の郵便物の受け渡しを効率化するアプリケーションの試作版を作って出したら、大企業から次々と問い合わせがありました。それで大企業でもこんなところで困っているのかと、資金を投じ、プロダクトを作った。それが、今の我々の事業につながっています」
「オフィスの郵便物管理の効率化」という斬新な切り口で事業を生み出した野島氏。サービスを考える上で大切にしているのは、「未来がどうなるかを考えること」だという。
「例えば、今の自分たちが、物流業界の巨人企業とまともに勝負しても勝てるはずがありません。でもそんな中でも、ときどき勝てるスタートアップが出てくるのはなぜか。たぶん彼らは未来の世界を予測し、そこに合わせてプロダクトを作っているからです。
つまり、最初は“Nice to Have”(あったらいいかも)なものが、周りの環境が変わっていくことで、“Must Have”(絶対必要)なのものになる。そういったものを我々は考えないといけません」
野島氏は、リモートワークなどで働く場所の分散化が進み、従業員があまりオフィスに来なくなったときに、最終的にオフィスに残る価値は「住所」であると考えている。
「住所があるということは、つまり郵便物が届くということ。すると、未来のオフィスで必要となるのは郵便物を管理するアプリケーションで、それが我々の製品であると大きな価値を提供できるわけですね。そんな風に、未来に踏み込みながら、Must Haveを生み出していければと考えています」
今後の展望をたずねると、「まずは今のビジネスをちゃんと広げていきたい。そして、将来的にはオフィスの中のモノの動きを全てデジタルで管理できるサービスを生み出したい」と話す。
トドケールがどのようなサービスを創り出し、オフィスのあり方をどう変えていくのか。今後の動きに注目したい。