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建設業界2024年問題の救世主になるか ~ 建設現場のスマート化を進めるフォトラクション

フォトラクション社 代表取締役中島貴春氏(右)と建設BPO統括部部長野崎華弥氏(左)

フォトラクション社 代表取締役中島貴春氏(右)と建設BPO統括部部長野崎華弥氏(左)

 慌ただしく人が動く、ビルやマンションの工事現場における現場監督の大切な仕事のひとつが写真撮影だ。各工程でどのような作業がなされたかを写真で残し、発注通りの基準で工事が進行していることを、施主や元請けに報告しなくてはならない。そのため現場監督は、山のように撮った写真をパソコンで整理するという、面倒な作業に向き合わなくてはならない。ただ整理すればいいというものではない。図面と付き合わせ、作業内容に問題がないかチェックを行う。何か問題を見つけたらすぐに現場にフィードバックしなくてはならない。こうして多くの現場監督は、昼間の現場が終わった後の夜間に、黙々とデジタルカメラのSDカードを抜き差ししながらの孤独な作業を強いられる。

 こうした負担を軽減する建設業向けクラウドサービスで、すでに多くのプロジェクトで採用されているのが「Photoruction(フォトラクション)」だ。開発したのは2016年設立のスタートアップ、株式会社フォトラクション(本社・東京都中央区)。同社代表取締役中島貴春氏と野崎華弥氏に会社設立の経緯や、Photoructionの強み、今後の展開について聞いた。

きっかけはプログラミング学習

建築現場のスマート化をめざす中島氏
建築現場のスマート化をめざす中島氏

 中島氏は芝浦工業大学大学院(建設工学)在籍時より、建設業のスマート化に興味を持ち、特にBIM (Building Information Modeling)の研究していた。BIMとは、コンピュータ上に3D の建設モデルを作成し、設計、施工ばかりではなく完成後の運用、保守などのシミュレーションを可能にするものだ。中島氏は、「建築×IT」で業界を変えられないかと夢を持って、卒業後は株式会社竹中工務店に入社した。「ITを使い、どうやって工事現場の利益率や生産性を上げるかといった仕事に取り組みました」(中島氏)

 現場を経験し、他社の話を聞くうちに、建設の世界は想像以上にアナログだとわかった。既存のソリューションも存在したが、本当の意味で現場の役に立つツールやサービスはないとわかった。ちょうどその頃、建設現場にもiPadやクラウドサービスが導入され始めた。そこで、中島氏もデジタルツールを活用したサービスを自作できないかと、週末にプログラミングスクールに通い始めた。スクール修了時には、自作プログラム発表会が行われ、そこには多くのVCやスタートアップも参加していた。そこで中島氏は現在のPhotoructionのもとになる「建設現場での写真管理を楽にするクラウドサービス」を披露した。

「建設現場では本当に非効率なことが行われていたのです。BIMとかいう前にもっとできることがある。それが写真管理でした」(中島氏)現場をよく知る中島氏には、まずは多忙な現場監督の負担を少しでも減らしたいという思いがあった。

 そのプレゼンで、中島氏の提案は最優秀賞に選ばれた。当時、勤務する会社に不満はなく、起業することは頭になかった中島氏だが、VCから話を聞くうち、独立のチャンスなんて、そうそうないのではないかと考えた。

 そして、ついに2016年中島氏は竹中工務店を退社。“建設現場を限りなくスマートにする”をビジョンにフォトラクションを創立するに至った。古巣の建設会社からの資金的な支援があったのかと聞くと、「ゼネコンなど建設関係からは出資を受けていません。すべての建設会社とお付き合いしたいから」と将来ビジョンとの整合性を考慮しつつ、資金調達を行っていることを中島氏は話してくれた。

実態に合致したサービス

Photoruction利用イメージ(提供:フォトラクション)
Photoruction利用イメージ(提供:フォトラクション)

 建設関係の写真管理ソフトはすでにいくつも存在する。その中でPhotoructionが受け入れられているのはなぜかだろうか。中島氏によると「クラウド」と「モバイル」に最適化したソリューションであることが強みだと言う。今までの写真管理ソフトは「事務所に帰ってきてデスクトップパソコンで作業する」ことを前提に作られたものが多く、タブレット端末やスマートフォンが普及した今となっては使いづらい面がある。 

 現在、Photoructionの機能を拡張し、建設図面の管理など「建設現場で使えるモバイルアプリ」としても導入企業を増やしているのだが、もう一つ、フォトラクションの柱になる事業が育ちつつある。それは「AIプラスBPO(Business Process Outsourcing)」だ。

 同社では芝浦工大などと提携して、Photoruction に蓄積されたデータのAIによる解析を進めてきた。それにより、写真や図面の突き合わせなどAIによる判断が可能となりつつある。そこでフォトラクション社は、建設業に特化したAIのクラウドサービスの提供を検討した。しかし検討をすすめる中でわかったのは、多くの建設会社や工務店では、写真管理アプリは使用できたとしても、クラウドサービスを活用できるIT人材が少ないということだ。単にクラウドサービスを提供するだけでは、その機能を使いこなせず、受け入れられない。こうした現状を踏まえ考え出したのが、顧客の業務の一部を請負う「建設BPO」のサービスだ。

 新しいサービスでは、これまでデータの蓄積も突き合わせもすべて自分たちでやってきた建設会社や工務店は、写真、図面、書類などのデータをアップロードするだけで済むようにした。これで現場の作業負担を大幅に減らすことができる。

 それ以降の雑務は、フォトラクション社側で行う。突き合わせの作業などは、最初は人手を介して行うが、AIを併用することによって、その企業向けの作業が積み重なればAIによる分類・突き合わせの精度も速度も上がっていく。やがて学習済みのAIが人に変わって多くの作業を行うようになる。

 建設業界の業務フローはさまざまであり、携わる業者のIT対応力にも差異がある。フォトラクション社のサービスのように、AIを駆使しながらもポイント、ポイントを人が受け持つサービスが現実解ではないかと思えてくる。

2024年問題とは

 日本の建設業全体に2024年問題という大きな危機が迫っている。2018年、働き方改革の一環として労働基準法が改正され、時間外労働(休日労働は含まず)の上限は「原則として月45時間、年360時間」と定められた。大企業は2019年に、中小企業も2020年に適用済みだが、建設業界、物流業界などは2024年まで実施が猶予されている。それは、これらの業界は残業、休日出勤の規制をしては成り立たない部分があったからだ。

 しかし、冒頭に述べたような、現場監督に夜間の残業を強いる写真整理とチェックは、早期に見直しが必須となる。また、そもそもこうした勤務体系では、この先現場監督のなり手がいなくなるという危機感も業界にはある。

「業務アウトソーシングを受ける大手は他にもあります。しかし、それは結局オペレーターが人手でやっているわけです。人手が不足する問題の解決にはならず、結局人件費が高騰してしまいます。そこを弊社のAIプラスBPOで解決していければ」(建設BPO統括部部長野崎華弥氏)

 2024年はもうすぐそこだ。建設業界のDX化と働き方改革が急がれる。さらに建設現場と似たような作業を抱える自治体やインフラ関連企業で、老朽化した建築物や施設などを管理する現場にも同様の課題があり、ここでも間違いなく人手不足に陥る。フォトラクションの事業範囲は大きく広がるかもしれない。

Written by
ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。