マサチューセッツ工科大学でデジタル技術を主に研究するメディアラボの所長を務め、株式会社デジタルガレージの共同創業者でもある伊藤穰一が、ニッポンのデジタルDXの未来について考えるポッドキャスト「JOI ITO’S PODCAST ―変革への道― 」。
今回は、台湾のデジタル担当大臣であるオードリー・タン(鳳唐)氏が登場。今年の10月でデジタル担当大臣就任から5年を迎えたオードリー・タン氏に、これまでの成果と次世代の人材育成について伺った。
* * *
伊藤穰一:「就任から5年が経過しましたが、これまでを振り返っていかがでしたか?」
オードリー・タン(敬称略 以下、タン):「いまからちょうど5年前、デジタル社会と民主主義の関係が変わり始めました。それまで、デジタル社会と民主主義は水と油のような関係でした。デジタルが民主主義に流入することで『ポピュリズムに陥る』、『フェイクニュースが増える』『民衆が分断する』だのと、さまざまな憶測が流れました。それから5年、現在ではみんな、デジタルの介在しない民主主義は物足りない存在であり、また、民主的な原理原則のないデジタルは長続きしないことを十分に理解できるようになりました。デジタル社会と民主主義は今や、水と油の関係ではありません。デジタルが介在することで、民主主義は信頼を取り戻すことができました。」
就任以降、オードリー・タン氏はさまざまなデジタルDXを実現させてきた。コロナ禍では、マスク販売店の在庫がリアルタイムで把握できる「マスクマップ」アプリを開発。さらに、デマや虚偽報道の流布を阻止するフェイク・インフォメーション調査室では、コロナに関するデマの抑制に成功。また、就任前に開発した政府の合意形成プラットフォーム「vTaiwan」についても、これによって市民を巻き込んだ議論が進められるようになった。
現在も精力的に活動を続け、次々とデジタルDXを実現させている彼女に、その秘訣をうかがうと意外な答えが返ってきた。
タン:私は政府のために働いたり、市民のために働いているのではありません。私は政府や市民と一緒に働くという意識で行動しています。またフリーウエアやオープンソース・コミュニティを駆使しながら、分散型の行政を作り上げています。こうすることで、チームの一人ひとりがコンピューターの知識だけでなく、行動規範に基づいて行動できるようになるのです
オードリーがプロジェクトを細かく指示するのではなく、プロジェクトが自走していくような仕組みを作ることで、迅速なシステム構築が可能になっているという。実際、プロジェクトの中には、彼女が不在であっても猛スピードで開発が進行する案件も多いという。
このように数々の頭脳プレーをこなしてきたオードリー・タン氏にも、「これは、不可能だ」と頭を抱えた事例があったいう。
タン:「今年の5月、新型コロナウィルスの第1波が台湾を襲いました。この時、一刻も早く濃厚接触者の追跡システムを構築する必要に迫られました。しかし、パンデミックの間は、新しいデータ収集方法は取り入れるべきではないという先入観に囚われた考え方が存在していました。このような状況下では、濃厚接触者の追跡ツールを開発し、テストを行った上で、2億カ所以上の店舗や交通機関などで展開していくことは無理だと私は思いました。到底、開発などできないだろうと思っていたのです。」
コロナ禍で未曾有の事態に直面する中、濃厚接触者の追跡システム開発を課せられたオードリー・タン氏。開発の条件は十分にそろっておらず、彼女自身が「到底無理だ」と半ば諦めるほど大きなハードルがあったという。しかし、このような事態においても、オードリー・タン氏は窮地を脱することに成功している。その成功を後押ししたのは、とあるデジタル集団の存在だったーー。
この話の続きは、JOI ITO’S PODCAST ―変革への道―でお楽しみいただけます。
【JOI ITO 変革への道 -Opinion Box】
番組では、リスナーからのお便りを募集しています。番組に対する意見だけでなく、伊藤穰一への質問なども受け付けます。特に番組に貢献したリスナーには番組オリジナルのNFTをプレゼントすることも予定しています。
https://airtable.com/shrKKky5KwIGBoEP0
【編集ノート】
伊藤穰一からのメッセージや、スタッフによる制作レポート、そして番組に登場した難解な単語などはこちら。
https://joi.ito.com/jp/archives/2021/11/22/005739.html
■「JOI ITO’S PODCAST ―変革への道―」
#6 台湾のデジタル担当大臣オードリー・タン。その功績から、我々が学ぶべきものとは?