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もうアマゾンは使わなくてもいい 米国Z世代は「ソーシャル・コマース」へシフト

年末商戦が本格化するアメリカでは、コロナの影響で店頭での買い物客の姿は減った

年末商戦が本格化するアメリカでは、コロナの影響で店頭での買い物客の姿は減った

 今年もアメリカでは年越しを前に、ホリデー商戦が賑わいをみせている。長引くコロナウィルスの影響で、オンラインでの買い物需要が急増しているが、その中でもインスタグラムなどのSNSを利用したオンライン・ショッピング「ソーシャル・コマース」が、米国においても盛んになっている。ニューヨーク在住の筆者が、最新トレンドを取材した。

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ペンシルベニア州の大学に通うアマンダさん
ペンシルベニア州の大学に通うアマンダさん

 米東部ペンシルべニア州ピッツバーグの大学に通うアマンダ・ルーカスさん(18)は、朝起きると先ずスマホを手に取り、インスタグラムで家族や大学の友人などが投稿した写真をチェックするのが日課である。

 タイムラインにアップされた、さまざまな写真をスクロールして見ていると、自然と広告が目につく。その中でお気に入りのアクセサリーや服を見つけると、最初は買い物するつもりがなくても、ついついクリックして購入してしまうという。

 この様な消費のスタイル「ソーシャル・コマース」は、今アメリカの若者の間でごく当たり前の日常の風景になりつつある。

 「買い物をするつもりがなくても、いつも私が好んで使うような商品を(SNS上で)表示してくるから、思った以上についつい購入しちゃうの」

 そう語るアマンダさんは、数ヶ月前からオンライン・ショッピングはインスタグラムが中心だ。以前は、アマゾンなどの大手通販サイトを利用していたが、商品の数が多すぎるのと、出品者が不明瞭な場合が多く、あまり信頼できないと感じたため、今では使うのをやめたという。

 また、通販サイトは、自分が「何を欲しいのか」、「何を買いたいのか」といった特定の目的を持ってわざわざ利用しなければならないが、インスタグラムでは自分の好みに合った商品が自然と目に入って来るため、ショッピングがしやすいとアマンダさんは語る。さらに、フォローしている人気歌手が、インスタグラムで紹介する化粧品や洋服などは、買い物の参考にしているという。

■なぜ若者に人気があるのか?

WARCのキャサリン・ドリスコル氏
WARCのキャサリン・ドリスコル氏

 イギリスに本社を置くマーケティング調査会社WARCのコミッショニング・エディター、キャサリン・ドリスコル氏によると、ソーシャル・コマースの人気には2つの理由がある。

 ひとつは、数多くのフォロワーに支持されるインフルエンサーによる、商品のプロモーションである。人気のあるインフルエンサーとSNSユーザーとの間には、すでに信頼関係が確立されているため、彼らが勧める商品に対する信頼度は高く、購入されやすい。

 もうひとつは、SNS上ではショッピングとエンターテイメントが、融合している部分である。ユーザーは、自分が興味のあるコンテンツを求めてSNSを利用するが、そのコンテンツに関連するような商品の広告が掲載されているので、購入の可能性がより高まる。

インスタグラムのショッピング機能
インスタグラムのショッピング機能

 ドリスコル氏は、「コロナ禍で在宅を余儀なくされた消費者は、社会との関わり、エンターテイメント、そしてショッピングと、この3つを求めていて、(ソーシャル・コマースへの)需要が加速しています」と説明する。

 英ソフトウエア会社ブライトパールが10月に発表したデータによると、調査を行ったアメリカにおける18〜24歳までのZ世代の70%が、「今年のホリデー・ショッピングは、小売店のサイトや大手通販サイト以外の、SNSなどで商品の購入を予定している」と回答している。

 プラットフォーム別にみてみると、最も人気があったのがインスタグラム(47%)。それに続くのが、フェイスブック(40%)、アレクサの音声ショッピング(35%)、ピンタレスト(32%)、TikTok(29%)、ライブストリーム・ショッピング(25%)となっている。

 ドリスコル氏によると、最近のオミクロン変異株によるコロナ感染再拡大で、この傾向は今後ますます進んでいくことになると予想されている。

■ソーシャル・コマース市場では中国が独走

 米アドビが10月に発表したレポートによると、今年のホリデー・シーズン(11月1日〜12月31日)の米市場におけるオンライン・ショッピングの売上高は、前年に比べ10%増の2070億ドル(約23兆5000億円)に達すると予測し、過去最高額に達する見込みである。コロナ禍前の2019年の同時期と比べると、約45%の増加である。

 そのなかでソーシャル・コマースの規模は、米市場調査会社eMarketerのデータによると2021年中におよそ366億ドル(約4兆2000億円)に達する見込みだが、米小売業界のEC市場全体における4%ほどである。

一方、世界最大規模を誇る中国のソーシャル・コマースは、3500億ドル(約40兆円)以上とみられ、それに続くアメリカ市場は10分の1程度でしかない。

WARCのアレックス・ブランゼル氏
WARCのアレックス・ブランゼル氏

 WARCのドリスコル氏によると、この差は中国がソーシャル・コマースの可能性にいち早く目を付け、SNS上で買い物が出来る機能などを早くから開発してきたことなどが功を奏していると指摘する。

 さらに、同社のシニア・エディターを務めるアレックス・ブランゼル氏は、アメリカにおけるソーシャル・コマースの発展は中国に1〜2年の遅れを取っていると見ており、フェイスブックやインスタグラム、スナップチャットなどの米SNS大手も、ようやくここ数年でアプリ上のショッピング機能に力を入れ始めたのだと語る。

 両氏は今後アメリカにおいて、ソーシャル・コマースの利用はさらに増加していくはずだとみている。市場の一層の拡大のため売り手の企業や小売店などがすべきことは、各プラットフォームでの消費者の特徴を理解し、自分たちに合った場を選ぶことが大切だという。また、プラットフォーム上では、商品の広告から検索、購入から支払いまでの、「シームレス」な顧客体験を提供することが重要であると強調する。

クリスマス・カラーの冬のNY
クリスマス・カラーの冬のNY

 クリスマス・イルミネーションに彩られ、賑わいを取り戻したニューヨーク。しかし、再び感染拡大の気配もあり、もうしばらく在宅の時間は続きそうだ。こうした状況で、新しいオンライン・ショッピングの体験は一層の広がりを見せることになるかもしれない。

Written by
ニューヨーク在住フリージャーナリスト。米首都ワシントンのアメリカン大学国際関係学科を卒業後、現地NGOジャーナリスト国際センター(ICFJ)に勤務。その後TBSニューヨーク支局での報道ディレクターの経験を経て、現在フリージャーナリストとして日本とアメリカで活動中。東京都出身。