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「溺れる人」をドローンで発見・救助することはできるのか?沖縄で実証実験

アラハビーチ(沖縄県)での実証実験の模様(日本ドローン機構・アジラ提供)

アラハビーチ(沖縄県)での実証実験の模様(日本ドローン機構・アジラ提供)

 日本財団が2018年に取りまとめた資料『水辺の事故の現状と分析』によると、わが国では毎年約1,000件の水辺の死亡事故が起き、約700名が海で命を落としている。実は海水浴客の数は年々減少気味なのだが、海での死亡事故数は横ばいのままだ。さらにライフセーバーのいる海水浴場はわずか15%ほどにすぎない。救護体制の充実が望まれるが、かけられる人手には限りがあるのが現状だ。

「ドローン+行動認識」による“溺れのサイン”検知と救助

「溺れのサイン」(海上保安庁ウォーターセーフティガイドより)
「溺れのサイン」(海上保安庁ウォーターセーフティガイドより)

 そんな中、2021年10月26日、沖縄県北谷町アラハビーチで、日本ドローン機構株式会社(沖縄県那覇市)と株式会社アジラ(東京都町田市)が、海で「溺れる人」を行動認識AIによりリアルタイムで検知し、要救助者を救助する実証実験を実施した。

 この実証実験では、入水中のエキストラが、水泳、水遊びをしてもらうとともに、さまざまなパターンの「溺れる行動(海上保安庁の『溺れのサイン』(図版)を参考)」も行い、その様子をドローンで空撮する。監視中のドローンが行動認識AIによって「溺れる行動」のみを検知すると、救助用具を運搬する別のドローンに伝える。このようにして、監視・発見・救助に向かうまでの技術、運用面での実現可能性を調査した。

 ドローン運行は日本ドローン機構、行動認識AIによる分析はアジラが受け持ち、一連の流れを試行した。実証を通して実用化に向けての、運用面・技術面の課題が明確になったとしている。

若い社長に託されたドローン事業

 実証実験を取りまとめた日本ドローン機構代表取締役佐多大氏は現在28歳。沖縄生まれ沖縄育ちで、沖縄の自然や海をこよなく愛している。そんな佐多氏に会社の成り立ちや今後の展開について伺った。佐多氏は琉球大学在学時から教育系のNPO法人を立ち上げるなど、アントレプレナーとして活動を始めていたという。さらにドローンにも強い興味を持ち、自らドローンの操作や撮影などを身につけた。

 日本ドローン機構の前身の会社は2006年に設立され(当時は別の社名)、2017年にドローン事業をスタートさせていた。そこに佐多氏が参加し、社名も現在の日本ドローン機構に改まった。2020年には佐多氏が代表取締役に就任。ドローン事業にはさまざまな許認可が必要であり、同社は官庁とのパイプ作りのため、中央官庁OBなどドローン関係に影響力の強い顧問も数名迎え入れて舞台を整えた。20代のトップが、自身の親ぐらい年の離れた顧問に支えてもらっていると佐多氏は語った。

 こうした体制を整えたことで、日本ドローン機構は2021年4月に国土交通省航空局からドローンの管理団体、講習団体として認定された。2017年から2020年まではドローンによる撮影などが同社事業の中心だったが、今後は『JDO(日本ドローン機構)認定スクール』に関する事業に力を注ぐと佐多氏は話した。

「弊社が国から認可を得たことにより、ドローンを勉強したい人たちにライセンスを提供できるようになりました。」(佐多氏)

閉ざされた実証実験への道

 しかし、それだけではない。佐多氏はドローンをセキュリティ事業にも使いたいという思いがあった。それが今回のアジラとの実証実験だ。ドローンとAIによる水難事故防止のアイデアをまとめた佐多氏は、AI分析可能な事業者にいくつか声をかけた。その中で一番可能性が高いと感じたのがアジラだった。同社の行動認識AIは、人の異常なふるまいをカメラで検知する警備システムなどに活用可能な技術だ。佐多氏は大きな期待を寄せ、沖縄県の補助金事業に応募した。しかし、そこに思わぬことが起きてしまう。東京の企業とのタッグでは沖縄県の補助金が使えないことが判明した。佐多氏はアジラに採択されなかった旨を伝えたところ「意義のある実証実験なので無償でも参加したい」との返答があり、実証実験の開始にこぎつけた。

 実際に泳ぐ人を監視してみると課題が見つかったと佐多氏は実証実験を振り返った。それは誤検知である。誤検知が起きる理由は明らかで「水の中で遊ぶ人」と「水の中で溺れる人」を見分けるための学習がAIの側で不足しているためだ。

 そこで解決策として、まず海水浴場へのドローン販売を進めるという。

「ビーチからはカメラとしてのドローンのニーズは高いのです。ですからAIを少し横においてドローンをどんどん提供し、モデルとなる画像を貯めていくことにします」(佐多氏)

ドローン×AIによるビーチ管理システム概念図(日本ドローン機構・アジラ提供)
ドローン×AIによるビーチ管理システム概念図(日本ドローン機構・アジラ提供)

堅実な飛行をめざす日本ドローン機構

日本ドローン機構代表取締役佐多大氏
日本ドローン機構代表取締役佐多大氏

 現在、『JDO(日本ドローン機構)認定スクール』が事業の中心だが、AIを活用してのセキュリティ事業との二本柱を目指しているのだろうか。

「そこです。ちょっと組み合わせが悪いので、セキュリティ事業は別会社にしていくことを検討しています」(佐多氏)

 そういった展開になれば、資金需要などもあるだろう。

「いや、できるだけ借り入れなど自己資金で行うつもりです」(佐多氏)

 自身が最初ドローンを買ったときもアルバイトで貯めた30万円を使ったという。

 沖縄に本社を置きながらも日本全国を視野に事業を広げつつある佐多氏は、堅実さと大胆さを併せ持ち、ことを進めているようだ。

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ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。