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副業事故だけではない 変化し拡大する仕事のリスクに幅広く対応するフクスケ

株式会社フクスケ代表取締役小林大介氏 (株式会社フクスケ提供)

株式会社フクスケ代表取締役小林大介氏 (株式会社フクスケ提供)

 2018年、「働き方改革」の一環として政府はモデル就業規則を改定し、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」の規定を削除した。それまでも、DeNAやミクシィ、サイボウズのように積極的に社員の副業を認める企業も存在したが、これを機会に副業解禁へと舵を切る企業がさらに増えた。しかし副業を認めた人事の現場には悩みが多い。悩む理由のひとつは「副業事故」だ。

副業事故について(株式会社フクスケ提供)
副業事故について(株式会社フクスケ提供)

 副業を認める企業の制度設計・運用を助けるクラウドサービス「フクスケ」を展開する株式会社フクスケ(本社・東京都千代田区)の代表取締役小林大介氏によると、副業事故とは「副業者」が「本業先」である自社の情報を外部に漏えいする不正などの他、「副業先(副業者が副業に従事する会社)」で業務過失やコンプライアンス違反を起こすことをいう。自社の社員が、副業先で起こす「副業事故」は、副業先での業務についての知識がなければ、その事故内容を想定することさえ難しい。場合によっては、副業先の企業と自社が法的に争うリスクも考えられるという。しかし、これまで社員の副業を前提とした労務管理を行ってこなかったため、そのようなリスクに対応する制度を組み上げるのは困難だ。

「そんな課題に応えるのがフクスケです」と小林氏。フクスケは、クラウド上で副業の諸問題に精通した専門家によってリスクヘッジされた副業制度・規定が容易に作成・運用できるサービスだ。小林氏によると、フクスケは副業の承認1件に必要な副業事故の情報と連動した130項目のリスクチェック体制をクラウド上で構築している。さらに新たな副業事故のキャッチアップも行い、毎年見直される副業規定68条(厚生労働省モデル就業規則)にも自動準拠するようになっている。

 実際の運用では、社員が副業を1件届け出する度に、フクスケに入力した情報を元にその副業のリスクが自動診断される。リスク診断は専任のリスクリサーチャーが監修している。例えば、診断結果のリスクの度合いが「A」又は「B」と判定された副業は認可する。「C」判定は自社・副業先・副業者個人にとってリスクが高いということで、同時に副業内容に連動した事故情報が事前に共有される。これを元に、副業を実施するかどうかを事前に会社と個人、双方で協議をする運用となる。フクスケを利用し、この手続きを経て社員が副業に従事した場合、万一副業事故が起きても、その損害を補償する損害保険(三井住友海上火災保険)が自動付帯されている。

副業と新規事業とは変わらない

 副業にはこうしたリスクがあるにも関わらず、それを推進しようと政府が旗を振っているのはなぜなのか、小林氏に尋ねた。

「“副業”って“業”がついていますよね。小さなビジネスであっても事業性があるため個人で新規事業を始めるのと変わりません。事業を作るって、人にサービスを提供したり、世の中の課題を見つけて解決する能力が必要です。高度成長期で終身雇用が約束された社会では、会社に外で自律的に稼ぐ必要性が薄く、その中で積み重ねて硬直してしまった労働慣行と人事制度が、キャリア自律の低下につながったのではないでしょうか」(小林氏)

 政府はそれを課題として認識し「働き方改革」を展開する中で、副業・兼業の解禁を進めている。(人材版伊藤レポート:経済産業省)。大企業もそれに従い、社員に「もっと会社の外に出て“業”を起こすキャリア自律の必要がある」と副業解禁を進めているが、そのためには人事制度を変更する必要がある。前述のように管理部門にとっては前例のない変革であり、副業が原則禁止されていたがゆえにナレッジもなく、リスクも高く、制度運用の難易度が非常に高くなりやすい。そこにフクスケの価値がある。

 フクスケのサービスは、2020年11月に三菱地所株式会社に導入された。同社では1月に副業を解禁したが、競合にあたる企業との線引きなどが難しいと考えた。副業を届け出た社員には、副業先での秘密保持契約の結び方などコンプライアンスにまつわる情報提供も行い、複数人が副業に従事しているもようだ。

副業だけではなく本業でも

ニューリスクに事業を広げると語る小林氏
ニューリスクに事業を広げると語る小林氏

 こうしてフクスケのサービスを展開し、毎月100件近くさまざまなリスク診断を取り扱う中で、小林氏は「副業だけでなく、(企業の)本業でも副業事故のような新種のリスク対策がされていないのではないか」と気づいた。

「今、フクスケでやっている副業リスク診断のスキームを、そのまんま本業のリスク診断に使うとかなり効果が高いのではないかと考えました。リスクは幅広くて、情報漏えいだけではない。従業員のコンプライアンス違反もハラスメントも、炎上などの風評被害もそうです。各事業で何が一番起こりやすいのか。フクスケをやっていると、多種多様な事業の最新の事故情報に触れることになるのです」(小林氏)

 つい先日も、大手外食チェーンの役員が社外の講義の場の発言で大炎上し、本業の新商品PRにも大きなダメージを与えた例もあったが、このように所属企業が目配りしきれない場で起きる「新しいタイプのリスク」は企業にとっても悩ましい問題だ。

 小林氏は、こうした“ニューリスク”への対策を新たな事業としていくという。具体的には、フクスケが持っている新しいリスクのデータを元に、クラウドで自社事業に応じたリスク情報が活用できるサービスだ。

「『この事業ではこういう事故が起きる可能性が高い』と内部担当者の代わりに弊社が未然防止から事故発生後の復旧対策まで対応します」

 このサービスは、経営者層や新規事業部門に受けがよいと小林氏は自信を見せる。すでに副業のリスク診断事業を上回る勢いで引き合いが来ており、会社のガバナンス強化とリスク体制の自動化に今後注力していきたいと力強く述べた。

 副業事故に限った話ではないが、社会の変化、技術の進化によって新種のリスクが日々増えている。メタバース内でのハラスメントやプライバシー侵害など、これまで想定しなかったところで「事故」は起きている。フクスケのサービスは「副業」だけではなく、ビジネスのメイン領域でも今後ますます必要とされるだろう。

Written by
ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。