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マイカーで走るだけで副収入に 屋外広告の課題に挑むWithDrive

株式会社Essen 代表取締役社長の橘健吾氏。現役東大生でもある(画像提供:Essen)

株式会社Essen 代表取締役社長の橘健吾氏。現役東大生でもある(画像提供:Essen)

副業を認める企業が増えたこともあり、副収入を得る手段も多様化している。

「私たちのパートナードライバーになると、いつものドライブが収入源になります」と話すのは、今年8月18日に設立されたばかりのスタートアップ株式会社Essen (本社・神奈川県川崎市中原区)の代表取締役社長 橘健吾氏(東京大学大学院 天文学専攻)だ。

 Essenでは、AI(人工知能)を活用した車両屋外広告サービス「WithDrive」を開発している。これは、街中を走る車の表面を広告媒体と捉え、地域の企業や店舗の広告を掲載するものだ。同社のパートナードライバーに登録した人は、車両のリアガラスに広告ステッカーを貼り、指定されたエリアを運転することで広告収入を得られるようになる。

 WithDriveの仕組みや強み、広告業界に与える影響について、橘氏に話を聞くことができた。

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 WithDriveは具体的にどういったビジネスモデルなのか。橘氏によると、全体の仕組みとしては、「広告媒体となるマイカー」と「広告を掲載したい企業など」を結びつける「ドライバーと広告主のオンライン完結型のマッチングプラットフォーム」になっている。広告主側の出稿手続きはオンライン上で完結する。

WithDriveについて説明する橘氏
WithDriveについて説明する橘氏

「どのエリアで広告を見せたいか、どんな人をターゲットにしたいかなどの情報と、広告ステッカーの画像データをいただければ、それで出稿手続きは終わります。SNS広告のような手続きをイメージしています」(橘氏)

 一方、パートナードライバーとして登録した人は、車両に貼りたい企業の広告ステッカーを選ぶ。後日広告ステッカーが郵送されてくるので、それを車に貼った上で、車両の位置情報を送信するアプリを起動し、指定されたルートに沿って運転すると、自動的に広告料金の一部が支払われる仕組みとなっている。

「ドライバーにとっては、普段のドライブが、特別な資格や資産なしに収入源になります。広告効果の高い場所を走る場合は、ガソリン代以上の広告費をお支払いする予定ですので、走れば走るだけ、得するようになっています」(橘氏)

「効果を可視化できる」屋外広告

 WithDriveの仕組みで特に興味深いのが、独自開発したAIで「広告閲覧確率」を算出できることだ。これは、人や車の流れに関するビッグデータを利用して、独自開発したAIが算出するもので、広告閲覧確率の高い場所をマップ上に提示できる。

 これがWithDriveの大きな強みになっている。というのも、この広告閲覧確率と、車両の位置情報を送信するアプリからの走行情報を掛け合わせることで、実際に車を走らせたときの「広告閲覧回数」を提示できるからだ。これは費用対効果を算出したい広告主への大きなアピールになるだろう。

 現在すでに街中には、看板やバス広告など多くの屋外広告が存在し、その市場規模は年間5360億円(2022年見込み、電通グループ「世界の広告成長率予測(2020〜2022)」より)とも言われている。しかし屋外広告には2つの問題点がある。

「ひとつが、設置された屋外広告が何回見られたかという評価が難しく、費用対効果も算出できないこと。あとは、広告の設置に手間と費用がかかり、一度設置すると、簡単に場所を変えられないこと。この2つの問題から、5360億円もの広告投資が有効に活用されていないことが問題となっています。広告効果をAIで可視化でき、車両ルートも自在に変更できるWithDriveは、こうした課題を解決するためのソリューションとなっているのです」(橘氏)

WithDriveのプロダクト(画像提供:Essen)
WithDriveのプロダクト(画像提供:Essen)

従来の「約70倍」長く見られる

タクシーやバスなど車両を使っての広告はすでに存在しているが、橘氏は、「広告閲覧の回数を広告料金の根拠にしている」ことと「設置コストが低い」ことでWithDriveには競合優位性があるという。

「例えば、車(バスやタクシー)に広告を貼り付ける他社のサービスだと、広告料金の根拠としているのは、広告の掲載期間や走行距離です。それに対して閲覧回数という、広告効果に対してより説得力のある根拠を用いているところが、WithDriveの強みです。また、例えばバス広告を出す場合は、一台一台にかかる設置コストが非常に高くなる。これに対して、広告ステッカーを貼るだけのWithDriveは設置コストが安価です。このことも大きな強みになると考えています」

 また、Essenが実施した実証実験から、ポスターなど一般的な屋外広告が見られる時間が約0.3秒なのに対してWithDriveの広告は約20秒間見られることがわかっている。

「0.3秒だと15文字ほどしか情報を入れ込めないのですが、私たちの広告サービスではその70倍の情報を入れ込むことができる。そういう意味でも質のいい広告を提供できると考えています」(橘氏)

 ただ現時点では、事業を開始して間もないということもあり、「ドライバー確保で後れを取っている」と課題を挙げる。

「他社のドライバーのレビューなどを見ると、せっかく契約したのに(掲載する)広告が少な過ぎるという不満の声がけっこう上がっています。こうした中で『(ここには)広告主がたくさんいますよ』とアピールするなどすれば、意外とスムーズに集められるのではないかと考えています」

 ドライバー募集を進めながら、1年ほどかけて実績作りに力を入れ、その間に運用マニュアルやスキームを整備していく。その後は規模の拡大をしていきたいという。常時30社程度の広告を掲載・運用する規模になれば「アクティブなドライバーが1000人ほど必要です。アクティブでない人も含めると、その頃には数千人の規模になっていればと考えています」(橘氏)

 資金調達については、会社設立時に正式サービス開始にあたって必要となる資金をJ-KISS型新株予約権にて調達している。更に、「事業の加速化に加え、研究開発にもいろいろお金が必要なため、現在シード期の資金調達に向け動き始めています」とのことだ。

 屋外広告のイノベーターになれるのかどうか、Essenの今後に期待したい。

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有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。