6月14日、『THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2022(主催:株式会社デジタルガレージ)』が渋谷パルコDGビル18階の「Dragon Gate」で開催された。
「web3 Summer Gathering @Tokyo〜未来からのテクノロジーの波をサーフしろ」をテーマにしたこのイベントは、株式会社デジタルガレージ 取締役 兼 専務執行役員Chief Architect の伊藤穣一による基調講演「web3がもたらす社会変革」で幕を開けた。NFTや暗号資産、メタバースなどweb3界隈で注目を集める起業家、クリエイターなどが多数集結し登壇した。
ブロックチェーンを基盤技術とした、web3が次なるイノベーションの核となる可能性は高い。非中央集権的な利便性を持ち、「参加」の概念を変えてしまうweb3を社会実装し、そのメリットを最大限に引き出すには企業など民間の組織はもちろん、国家レベルで変革に対応する必要がある。「長い停滞期を無為に過ごしたため、競争力を失いつつある日本は、web3の波を捉えて、再び浮上できるか?」今回のイベントを通して、問いかけのひとつはこれだ。
今回の登壇者には、アジアの各国・エリアからの参加者に加えて日本人のスピーカーも多く、その大半は若い世代の男女でそのこと自体は心強く感じた。しかし、問題はこうした未来を担う人たちの活躍の場がそろって、海外の国や都市であることだ。イベントの中で、ホストの伊藤穰一も繰り返し言及していたが、日本の現在の税制下では暗号資産を使ったビジネスを行うことは非常に困難だ。ゆえにweb3のビジネスを担う人材は海外に流失してしまう。むろん、こうしたイノベーションには英語でのコミュニケーションや情報収集が欠かせないため、米国、シンガポール、香港などに人材が集まることは仕方がない。しかし、登壇者の大日方祐介氏(Web3 Foundation, Next Web Capital / CryptoAgeファウンダー)の講演によれば、欧州でのweb3の中心地は、ドイツのベルリンからポルトガルのリスボンに移りつつあるという。ポルトガル人は、欧州の中では英語を苦手としている方だ。しかしリスボンは、治安や気候の良さ、食事の美味しさなど街の魅力にあふれており、活動の拠点としては理想的だという。
web3関係者は若く、既存のワークスタイルにこだわらないため、心地よい環境を求めてグローバルに移動することに何ら支障を感じない。
そうなると、日本にもチャンスはある。都市の治安の良さや食事の美味しさはよく知られている。円安が進んでいる今は、世界的に見ても日本滞在は割安だ。さらに、日本にはweb3との親和性がある文化がある。アニメやマンガだけでなく、最近ネットを通して再発見され注目を集める独自の音楽や美術、工芸……。税や労働のルールが整えば、日本にはweb3の人材が集まる条件はそろっている。
ポテンシャルはある。しかし、もどかしさもありなんとかしたい。そういう気分は国家レベルでも一部では共有されている。
今回は与党議員の中から、自民党デジタル社会推進本部長平井卓也氏が登壇。自民党デジタル社会推進本部 において3月30日、「NFTホワイトペーパー(案) ~ web3.0時代を見据えたわが国のNFT戦略 ~」をとりまとめたこと、さらには5月英国ロンドンで岸田総理がブロックチェーンや、NFT、メタバースなどweb3推進の環境整備を含め、新たなサービスが生まれやすい社会を実現すると会見で言及したとを挙げ、日本の成長戦略にweb3は欠かせないという認識を示した。
その平井卓也氏、さらには地方自治体から渋谷区の区長である長谷部健氏に伊藤穣一が加わり3名によるパネルディスカッションが行われた。
伊藤穰一は、「みんなすごく日本でやりたい。渋谷に代表される若者文化がみんな好き。だけど日本でできないいろんな理由がある。」そしてその“できない理由”についても「自民党のホワイトペーパーにも細かく全部書いてある。こんなに分かっているならもう大丈夫」と持ち上げたうえで、単刀直入に「こんなに分かっているのに何で動いていないの?」と。
日本では、消費者保護とかマネーロンダリングを心配する人の声が大きく、そういった声にも配慮し進めなければいけないという難しさがある、とその困難さにふれつつも、平井氏は「基本的にはウェルカムという方向性」をまず示すための岸田総理のロンドンでの発言であり、さらには『新しい資本主義』の中にも組み込まれたのだと。そうすることで前に進めなければいけない状況を作り、法律の整備に結びつけたいという流れだ。
「(web3起業家の)みなさんが日本を出て行く理由『グレーゾーンでとんでもなく税金取られるのは困る』とか、『今までやってきたことが全部否定されたら困る』とかいうことは無くしたい」(平井氏)
ところで、web3の人材や情報が集まる場所として、ポルトガルがリスボンなら「日本ではどこ?」となると海外でも有名な渋谷は有力候補だろう。
「もともと渋谷というのは、新しいことにチャレンジする街の気質」と長谷部区長も。
伊藤が感じたのは、渋谷には外国人社長が増えているのではということ。長谷部氏も「東京なら渋谷といってくれる人が増えている」と答える。こうした特性をいかし、リスボンに「Web Summit」があるように、渋谷も グローバルなカンファレンスを開催してはといった話も出たが、区の財源は住民税で、それは住民サービス主体に使う必要がある。渋谷に企業があるといっても法人税などは都や国に入るので、そうした試みは都や国の力をかりて一緒にということだった。
立法や行政の最前線にも、課題の在り処はどこなのかということは届いているようだ。しかし法律やお金の流れなど、今あるルールを変えることは簡単ではない。web3界隈には、日本のポテンシャルが感じられることは多い。どこにボトルネックとなる課題があるのかを広く共有し、少しでも早く若い世代が日本で活躍できる環境が整備されることを期待したい。