Open Innovation Platform
FOLLOW US

世界は再び変化を始めた web3関係者の視点で見る世界

世界は再び変化を始めた web3関係者の視点で見る世界(写真はイメージ)

世界は再び変化を始めた web3関係者の視点で見る世界(写真はイメージ)

 この先の世の変化のすべてを、web3やメタバースと結びつけて語るのは無理がある。過去20年あまりに起こった社会の変化には、インターネットの普及が大きな役割を果たしているが、もちろんそれがすべてではないのと同様に。

「web3やメタバースこそが未来を作るのだ」とは言わないし、もしかすると、未来から振り返って見たときにそれらは主役ですらないかもしれない。しかし、web3やメタバースに注目し、それを使って何らかの新しい価値を社会に生み出そうとしている人たちの話は、なるほどと腑に落ちることが多い。

 6月14日に渋谷で開催された『THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2022(主催:株式会社デジタルガレージ)』に集まったスピーカーの3人に、登壇後に話を聞いた。そこからいくつかの発言を拾い上げてみたい。

働く場所はこれからもオフィス以外に

Vishal Punwani氏 NCC2022でのプレゼンにて撮影
Vishal Punwani氏 NCC2022でのプレゼンにて撮影

 人による新しい技術がきっかけになったのではなく、ウィルスによる新しい感染症によって、世界中で人々の働き方はすっかり変わってしまった。その変化に対応するためのさまざまなツールが現れた。ワークプレイスメタバースの「SoWork」もそういったもののひとつだ。ハーバード大学のイノベーションラボ(通称i-Lab)でSoWorkを設立したのが、CEO 兼 共同創業者で医学博士でもあるVishal Punwani氏だ。

 最近になって、どうやらウイルスとの共存が可能だと考えられるようになりつつあるが、働く人々は再びオフィスに戻ってくるのだろうか。Vishal Punwani氏はこう話す。

—(以下、インタビュービデオから引用要約)

確かに何割かの人々が戻ってくるのは事実だと思います。しかし、全員が戻ってくることはないでしょう。

最近グーグルのシニアディレクターと食事をしたのですが、その時、彼はグーグルから出社するように通達があったと言っていました。ですが彼は、それをメールで「No」と一言で断ったそうです。会社はその回答を受け入れその後の手続きを案内したみたいです。

こんな反応があることで、企業は多くの人が国や都市のさまざまな地域に定住していることにすぐ気づくと思います。

 彼の会社が手掛けるSoWorkは、リモートワークのツールでもあるので、人がオフィスに縛られずに働くスタイルを歓迎するのは当然だが、そのことを差し引いても「仕事をする場所を選択する際の条件」の優先順位は明らかに変化した。

 ネット接続できる環境があれば、世界中どこにいても仕事はできる。ならば、ニューヨーク、ロンドンのように住居も食費も高い巨大都市に住む必要はない。身近に豊かな自然があり、安価に暮らせる都市のほうが良いのではないか。米国ではテキサス州のオースティン、欧州ではポルトガルのリスボンなど、住環境に恵まれた、そこそこの規模の都市を探し出し、そこにクリプトビジネス業界の若い世代が集うようになった。

web3のスキルセットは多種多様

NCC2022においてプレゼンを行う五十川舞香氏
NCC2022においてプレゼンを行う五十川舞香氏

 web3界隈で仕事を見つければ、働き方の自由度が上がるかもしれない。では、どんなスキルを持っていればweb3関連の仕事につけるのか。NFTアートなら、絵描きの才能とデジタルの知識が必要なのか。DiFiなら複雑な金融の知識と数学能力。そして、すべてにおいてプログラム能力、もちろん英語力も。そのハードルは結構高いように感じられるが、実際はどうなのだろう。

 スタンフォード大学卒業後、マイクロソフトで政府のサイバーセキュリティのエンジニアとして働き、その後デジタル資産を保護するためのWebacyを立ち上げ、共同創業者兼CEOを務める五十川舞香氏はこう話す。

(以下、インタビュービデオから引用要約)

私はもともとテクノロジーやサイバーセキュリティについての知識を持っていたので、ブロックチェーンの仕組みやDAOの仕組みを学ぶのは、比較的簡単でしたが、友人と話すと、それがどれほど難しいことなのかがわかります。Web2.0や、そもそもインターネットをあまり使っていない方には、特に難しいと思います。

追加で学んだことは新しいコーディング言語です。すでにPythonやC++などでコーディングしていたので、それがどう機能するのかだけを学びました。今は、会社を経営していて、もうあまりコーディングはしていないのですが、最低限の技術的なスキルは身につけています。

しかし、web3では、異なるカテゴリーのスキルセットを持つことができると思います。DeFiでは、金融市場に関するかなりの基礎知識が必要かもしれません。NFTでは、何が起こっているかを必ずしも理解していなくても、web3の世界で成功することができます。 自分のスキルセットによって、自由な道を歩むことができるのです。

 web3といってもそれがカバーする業界は広い。アート、音楽などのエンタテインメントから金融まで。さらにはアーティストとして参加するのかプログラマーとして参加するのか。あるいは投資家、経営者などなど果たすべき役割によって身につけるスキルセットも異なる。自分に今どんな情報や知識、スキルが必要なのか。この先必要となるのは何なのかをきちんと見極め、着実に学習を進めていけばいい。

 そして、インタビューの中で五十川氏も話しているが、必要なスキルは多くの場合、ネット上に存在している。というか、今のところ、この分野の最新知識はネット以外で得ることが難しい。飛び交う情報は英語なので、英語力も必要だが、ネット上の情報を日本語に翻訳する技術も年々進化している。

ゲームの世界にも変化をもたらすメタバース・web3

アート作品のような講演資料は自らの手書き Mundi Vondi氏
アート作品のような講演資料は自らの手書き Mundi Vondi氏

 フィジカルな世界では働き方が変わり、人々が必要とするスキルや学び方が変化している。では、ゲームの世界にもweb3の影響はあるのだろうか。Mundi Vondi氏は、映画監督でもありさらにグラフィック、インスタレーション、絵画、パフォーマンスなどのアート活動でも著名だ。「EVE online」というゲームを開発したCCPという企業を経て、現在はベルリンでゲーム会社「Klang Games」を共同設立し、「SEED」という新たな世界観を持ったゲームを制作している。

(以下、インタビュービデオから引用要約)

現在私たちは基本的に各プレイヤーが24時間365日ゲーム内で生活するキャラクターの家族を持っていて、例えば1000人のコミュニティが一緒に街を作ることができるゲームを開発しています。その街はいつも活気に満ちていて、人々は道を歩き、私たちはすべてのキャラクターを24時間連続でシミュレーションしています。ひとつの惑星に各々の世界があるのです。バーで他の「SEED」プレイヤーと出会ったら、ゲーム内で出会うことができ、ゲーム内で起こった過去の出来事や、ゲームの世界の方向性、自分が住んでいる場所について話すことができます。私たちはそのようなメタバース空間を目指しています。

「EVE online」を開発するCCPのCEOであるHilmarがブロックチェーンとゲームについて話し始めたのは非常に昔のことです。「EVE online」では経済が基幹となっており、それと並行してプレイヤー主導の経済が成り立っていると考えています。

ブロックチェーンは、それを実現する能力を加速させるものです。私たちは最初、セカンドライフのようなものを実現しようと考えていました。セカンドライフでは、お金を振り込んだり、振り込まれたお金を出したりすることができます。web3で見ているものと非常によく似ていますね。

 ベルリンは少し前まで、欧州における“クリプトキッズ”たちが集う都市だった。その影響もありMundi Vondi氏はゲーム内の経済圏でクリプト関連技術を使い、web3で利用できる技術をすべて取り込みたいと考えている。「web3には多くの発展へのチャンスがあるので、本当にわくわくしています」(Mundi Vondi氏)

 しかし、暗号通貨などでアイティムを購入し、ゴールに早く到達するためにはより多くのお金が必要になる。といったような単純な仕掛けを考えているわけではない。イベントでの講演でも繰り返し語っていたが、Mundi Vondi氏は現時点ではクリプトにはまだ大きな課題が多数あると感じている。こうした諸問題が、ゲーム世界にも及ぼす負の面にも大きな関心を払っており、未来に汚点をつけるようなことはしたくはない考えている。

* * *

 「NFT」「DAO」「メタバース」などの言葉に群がり集まる人は多い。一方、最近暴落した暗号通貨の様子を見て「それ見たことか」と冷笑する人も。

 そうした出来事がある一方で、稼ぎ方やワークスタイル、つまり人と仕事の関係の変化や、国境を軽々と超える価値や人に対応するための、税や金融ルールを見直しが各国で進行しつつある。こうしたことは、ブロックチェーンや仮想現実関連の技術の進展と大きな関係がある。変化の源を全く無視していては、次の時代に備え、対応するることはできない。web3の本質的な価値を感じている人たちは、そこで何が起きているのかを正しく見極め、今後の備えを着々と進めているようだ。

Written by
朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。