2022年6月15日~18日の4日間、アリババが主催する「深センギフトショー(深圳礼品展)」が、深センの巨大エキシビジョンセンター「国際会展中心」で開かれた。2000年代から年に複数回開かれているこのギフトショーは、今回で30回を数える。もともとは名前の通り、ギフトになるような手軽で安価な陶器やオモチャなどが目立ったが、近年は家電なども含めた消費者向け製品が、BtoBでやりとりされる総合的なフェスになっている。
今回行われたギフトショーも、エキシビジョンセンターの大半のホールを使う。24万㎡もの面積を使い、100万点を超えるプロダクトが展示される大規模な展示会になった。東京ビックサイトの展示面積が約8万㎡なので3倍近い大規模なものだ。
以前の記事でも紹介したように、アリババは完成品の売買をするだけではなく、顧客の要望に応じて、オンライン上のやり取りでカスタム品の製造ができ、OEMの発注も行える。
中国国内のEC市場をほぼ確保したアリババグループにとって、今後の売上拡大のためには、ショップ1件あたりの取引金額を上げていくしかない。それは中国のGDPを、まるごと上げていくような大規模なビジネスとなる。
2022年のギフトショーでは、「1688工厂直来季」「找工厂」など、「工場を直接探そう」という意味のスローガンが各所に掲げられ、B2BのOEM、カスタマイズを更に押し出す意図が感じられた。ちなみにスローガンにある数字「1688」は中国語の読み「YaoLiuBaBa」でアリババと読め、アリババのドメイン名(https://www.1688.com/)にもなっている。
アリババグループの中で、個人向けのECプラットフォームである「タオバオ(淘宝網)」に比べ、大口取引に向いており、卸のような「アリババ」は、B2Bの取引に向いており、もともとEコマースによって商品を安価に販売するプラットフォームとして進化してきた歴史を持つ。それを更に進化させ、販売するだけにとどまらず、製品を最適化して、顧客それぞれのより細かい要求に答えることができる、マス・カスタマイゼーションを提供するプラットフォームになろうとしている。
カスタム、差別化といっても、テック企業で行われているような、「研究開発を伴う高度な付加価値の提供」とは異なり、その多くは「アイデア勝負」の簡単なものだ。
写真の枕は、飛行機などで使われている昼寝用の枕で、この会社の製品はマッサージ機を組み込んで、首の後ろを揉んでくれるように改良している。もともとマッサージ機のメーカーで、こちらは新分野の開拓でもある。逆方向の開発で、昼寝枕の会社がマッサージ機能を組み込んで、結果としてよく似た製品になったものも別のブースに展示されていた。
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中国人は水筒を持ち歩いている人が多い。日本では冷たい麦茶やスポーツドリンクを入れて携帯しているが、中国では水筒の中に茶葉をいれ、そこにお湯を注ぎ入れて抽出したお茶をもち歩く。写真にある水筒は、お湯と茶葉を別々に入れて、飲む際に茶葉部分にお湯を注入するというタイプの水筒で、それにもうひと工夫を加え、温度計とタイマーも組み込んでいる。これでお茶をさらに美味しく抽出できるようにしている。抽出する温度で味は変わるので面白い工夫だ。
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熱転写プリンタは、ラベルを印刷するたびに異なる「受験勉強用の問題」が出てくる。ただ、今回会場に展示されていたのは普通のプリンタだけで、「まだ出来上がっていなくてデモができない」ということだった。熱転写プリンタそのものは多くの企業が出展しているありふれた製品なので、ソフトウェアとスマホアプリだけで、差別化できるこの製品はいいアイデアだ。
会場で紹介されているが、このように簡単にできそうな小さい改善ばかりなのは、テクノロジーイベントでなく、ビジネスのしかも細かな差別化をプロデュースするためのイベント、という性質がよく現れている。
ホールのひとつにTOP100のOEM企業を集めた、アリババおすすめの特集スペースがあった。「TOP100」とはいうものの、紹介されているのは他のホールと大差ない製品ばかりで、派手なプレスリリースに目が集まりがちなテクノロジーショーとは全く違う。
ここに集まったような、成功しているOEM工場は、革新的な製品というよりもむしろ、顧客とのコミュニケーションや、納期含めた品質管理がしっかりしているなど、サービス含めた細部の良さを売りにしている。この会場には、分野ごとにOEMの成功例を語るプレゼンテーションブースがそれぞれのコーナーに設置され、うまくビジネスを成功させる方法が、効率よく来場者にもシェアされるように設計されていた。
小売ではマーケットが飽和すると、売上の見込める分野を自社ブランドの製品で取りに行く。既存のスーパーが手掛ける、プライベートブランドがその例だ。ECでも同じくamazonは、「amazonベーシック」という名前で自社ブランドのOEM製品を販売している。
アリババのスタンスはそうした企業と違い、自らはあくまでプラットフォームの活性化に注力し、メーカーの創意工夫を促すべく、今回のギフトショーのようなイベントを運営している。アリババには強力なCVCがあり、流通サービスやスマートハードウェアなどのスタートアップに多く出資し、アリババのブランドでサービスを展開しているが、コンシューマ向け製品を大きく展開する動きは見られない。
その理由としては、中国のハードウェア製造業は飽和しており、簡単に儲からない市場になっているため、プラットフォーマーに徹する方が良いのだろう。ただ結果として、この姿勢はプラットフォームの顧客である各社のビジネスと、競合しないことになる。
今回のギフトショーでも、「小さいカスタマイズでも差異を作ることはでき、どこにでも商売の種は転がっている」というメッセージが明確に打ち出されていた。とにかく安く・大量にという時代から、それぞれの製品に市場があり、大量生産と独自性を両立させるマス・カスタマイゼーションに向かうのは、中国市場の成熟の表れでもある。中国全体のビジネスを支える存在となったアリババは、それをさらに進める役割を担っているのだ。