マサチューセッツ工科大学のメディアラボ元所長で、株式会社デジタルガレージの共同創業者でもある伊藤穰一が、ナビゲーターを努めるポッドキャスト「JOI ITO’S PODCAST ―変革への道― 」。今週は、宗教とNFTをテーマにした座談会の模様を配信する。
この座談会は、千葉工業大学変革センターのレクチャーシリーズのひとつ。同センターで研究員を務める僧侶のテンジン・プリヤダルシさん、バチカン(ローマ教皇庁)の顧問を務めるエリック・サロビア神父、日本で初めて御朱印のNFTアートを発表したことで知られるアーティストの浅田真理さん、そして伊藤穰一の4人で開催されたものだ。
昨今ブームとなっているNFTを、宗教の観点から改めて見直し、新たな活用方法を模索している。
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伊藤穰一(以下、伊藤):神の祝福を届ける方法はいくつもありますが、宗教的な価値というものは、お金では買えない前提になっています。ですが、既にお守りや祈祷などにお金を払って、対価を得ています。人やモノに祈りを捧げ、神聖なものに聖変化できるのであれば、NFTに祈りを捧げ宗教的な価値を入れ込むことはできないものでしょうか?
エリック·サロビア神父(以下、サロビア神父):テクノロジーの進歩によって、信頼や信仰、さらには宗教性を証明することができるようになってきています。キリスト教の伝統が大きく変わりつつある今、信者の中にはもう少し現実的で目に見えるものに回帰したい、という思いがあるように思います。NFTは、新しい宗教的生活を模索するにはいい方法かもしれません。
テンジン・プリヤダルシ(以下、プリヤダルシ):我々聖職者が、宗教的な芸術品を神聖化し、清めたりするときに、さまざまな技術を使います。そうすることで、そこに生命が宿り、信者にとっては、ある意味でより大きな意味と価値が生まれるのですが、そこで大きな疑問が生じるわけです。NFTに祈祷を捧げ、清めたり神聖化することはできるのでしょうか。お守りや曼荼羅などと、同じご利益があるのでしょうか。もうひとつの疑問は、それがどのくらい持続するかということです。ご利益や祝福はいつまで続くのでしょうか。現実世界では、何度もお寺や教会に足を運び、更新する習慣がありますよね。バーチャルに更新が可能なのか、それとも別のプロセスが必要なのでしょうか。そのあたり何かご意見はありますか。エリック神父、NFTの神聖化や聖変化は、キリスト教ではどのような意味を持つのでしょうか。
サロビア神父:カトリックの観点から言うと、カトリックでは聖人を崇拝します。そのため、聖人の骨や遺品などを聖遺物として信仰の対象としています。NFTがあれば、聖ペテロの帽子や聖ヨセフの骨が本物であることを証明することができるかもしれません。この場合、NFTには祝福があることはもちろんですが、それよりも、より信頼を置くための証明手段となるでしょう。
伊藤:スマートコントラクトは、頻繁にアップグレードが行われ、新しいブロックチェーンも登場していきます。岩のように強固な技術ではないので、常にアップグレードする必要があります。お寺や教会の新しいビジネスモデルとして、NFTを常に最新の状態に保ち、継続できるようにすることかもしれません
座談会では、宗教施設によるNFTの発行で金銭的価値はどう変わるのか。テクノロジーの導入によって、信仰の美学はどう変容するのか。などさまざまな問いが、禅問答のように次々提議された。詳しくは番組をお聴きいただきたい。
【JOI ITO 変革への道 – Opinion Box】
番組では、リスナーからのお便りを募集しています。番組に対する意見だけではなく、伊藤穰一への質問なども受け付けます。特に番組に貢献したリスナーには番組オリジナルのNFT会員証をプレゼントします。
https://airtable.com/shrKKky5KwIGBoEP0
【編集ノート】
伊藤穰一からのメッセージや、スタッフによる制作レポート、そして番組に登場した難解な単語などはこちら。
https://joi.ito.com/jp/archives/2022/10/03/005828.html
■「JOI ITO’S PODCAST ―変革への道―」
#48 NFTに宗教的価値は込められるのか?