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「人の役に立つ」 寄付のみで運営のスタートアップ4年目の到達点

プログラミング中のbondavi株式会社代表取締役・戸田大介氏

プログラミング中のbondavi株式会社代表取締役・戸田大介氏

 近年、さまざまなスタートアップが誕生しているが、その多くが、収益を増やすことを目的に事業活動を行なっている。営利の追求が一般企業の目的であるから、これは当然だと言える。

 その一方で、利益増や事業拡大ではなく、純粋に「人の役に立つこと」を目的に事業活動を続けるスタートアップもある。それが、2018年設立のアプリ開発会社、bondavi株式会社(神奈川県横浜市)だ。

 bondaviは、広告代理店出身の戸田大介氏が立ち上げたスタートアップ。三日坊主を克服し、習慣化を促す「継続する技術」アプリや、集中力向上を支援する「集中」アプリなどを開発・提供し、その総ダウンロード数は400万回を超えている。

 また最近では、ウェブ上で表示される、「人が苦手と感じる言葉」を「ひよこマーク」に変換してしまい、ユーザーを誹謗中傷などのダメージから守ってくれる「ひよこフィルター」をリリースし、注目を集めた。

「ひよこフィルター」で苦手な文字を変換した様子(画像提供:bondavi)
「ひよこフィルター」で苦手な文字を変換した様子(画像提供:bondavi)

 bondaviの大きな特徴は、アプリ内課金や広告掲載を行わず、「ユーザーの善意(寄付)」のみで運営されているところだ。「それだけで大丈夫なの?」と誰もが感じるところだが、同社代表取締役の戸田氏に、そのユニークな収益モデルや商品群について話を聞いた。

* * *

「集中」アプリの利用画面(画像提供:bondavi)
「集中」アプリの利用画面(画像提供:bondavi)

 bondaviが提供するアプリのうち、最もダウンロード数が多いのが、「集中」(ダウンロード数約200万回)アプリだ。

 戸田氏によると、「集中」アプリは、イタリア出身のコンサルタント、フランチェスコ・シリロ氏が考案した「ポモドーロ・テクニック」を応用したものだという。

「ポモドーロ・テクニックは、『仕事や勉強などのタスクを25分間続け、5分間休んだら、また25分間行い、5分休む』というサイクルで行うことで、集中力や生産性を高めるという技術です。時間制限を設けると、人の生産性や集中力が上がるということは、いろいろな研究や文献で言及されています。こういったことを、あまり難しいことを考えずとも、自然に行えるよう促すのが『集中』アプリです」(戸田氏)

 使い方は至ってシンプルだ。例えばユーザーがある仕事に集中したいときには、「この仕事を40分やって、5分休もう」と決め、アプリのタイマーを設定する。すると、40分後に休憩を促す通知が来るので、5分休む。5分休むとまた通知が来るので、40分間仕事をする。つまり、アプリのタイマーに合わせて仕事をすることで、集中力の高まりや生産性向上を促す仕掛けになっている。

「継続する技術」アプリの利用画面(画像提供:bondavi)
「継続する技術」アプリの利用画面(画像提供:bondavi)

「集中」アプリに次ぐダウンロード数(約100万回)を記録するのが、「継続する技術」アプリだ。

「『継続する技術』は、ランニングや読書など、何かを習慣化したい人を支援するアプリです。例えば、読書を習慣化すると決めたら、都合がいい時間に読書を促す通知が来るよう設定します。それで一日一回、読書をしたらアプリ上に記録をする。これを30日間続けられたら『目標達成』となります。目標を決めて、実施したら記録する、それだけのシンプルなアプリです」(戸田氏)

 bondaviのアプリは、どれもシンプルな内容だ。しかし、アプリ内にユーザーの興味をひく関連コラムが掲載されていたり、デザインが洗練されていることもあり、ユーザーからの反応は良好のようだ。特に「集中」と「継続する技術」アプリは、Apple Storeのユーザー評価でジャンル内1位を獲得するなど、高い評価を得ている。

「寄付のみで運営」を選んだ理由は?

 冒頭で触れたように、bondaviの大きな特徴は、ユーザーからの「寄付」だけで運営していることだ。一般にはまず見られないこのような収益モデルを、なぜ選んだのだろう。

bondaviについて説明する戸田氏
bondaviについて説明する戸田氏

 その理由として戸田氏は、「自分で使いたいアプリを作る」ことを信念にしており、「自分がユーザーの視点で見たときに、広告や課金があるアプリは単純に使いたくないから」だと説明する。

 さらにbondaviが提供しているアプリは、「人間の弱い部分を助ける」ものとなっている。広告を掲載することはその趣旨に反することになる。

「一般的に広告は、人の弱い部分に働きかけるものなので、我々が提供するアプリの効果と相反します。例えば、『集中』アプリを使って何かに打ち込もうとしているときに、楽しい漫画の広告が出てきたら、やっぱり見ちゃうじゃないですか。だから、ユーザー視点で考えたときに、広告は載せるべきじゃないと考えたのです」

 とはいうものの、「寄付」というユーザーの善意に頼る収益モデルでは、収入が安定せず、事業拡大も難しい。その点について戸田氏は、「一般的な企業とは目指す場所が違う」と説明する。

「我々は、『会社を大きくしよう』とか『社員数を増やそう』といった気持ちが全くありません。そのため単純に、売上を増やす必要がありません。また現在bondaviの社員数は3名で、今後増やすとしても数人程度。この規模であれば、寄付だけで黒字化することは不可能な目標ではありません。」

「ただし、所帯が小さいからといって、世の中へのインパクトが小さくてもいいとは考えていません。同じ人数のまま、より大きな仕事ができたらいいなというのが、我々の考えです」

 設立から4年。寄付のみによる収益は「目標値の6割まで達成」しているという。

「経営状況は年々良くなっています」(戸田氏)

「人の役に立つ経験」が独立の契機に

 bondaviはどのような経緯で設立されたのだろう。

 大学を卒業した戸田氏は、広告代理店に入社し、データ分析の業務に就く。その一方、プライベートでアプリ開発をしており、あるとき「継続する技術」をリリースしたが、ユーザーからの反響が強く印象に残ったという。

「感謝のメールをたくさんいただきました。その一方で広告代理店の仕事は、充実しているものの、大企業のシェアの取り合いに加勢しているようで、本当に世の中のためになっているのか、よくわかりませんでした。そんな中で、アプリユーザーからの反応は、きちんと人の役に立てていることがわかり、すごく嬉しかったのですね。それで、アプリ開発がどんどん楽しくなっていき、こんなに好きなら会社を作ってしまおうと設立したのが、bondaviです」(戸田氏)

「10年後も今と同じように仕事をしていたい」と話す戸田氏。その信念が長く貫かれることを期待したい。

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有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。