11月4日渋谷パルコで「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2022 Fall」が開催された。
最初のセッションに登壇したLawrence Lessig氏(ハーバード・ロー・スクール教授)は、一般にweb3に持たれている誤解や認識について指摘すると共に、「web3のブランド・マネジメント」の必要性を語り、web3が新しい民主主義の入り口であるという可能性も示した。
続くパネルディスカッションでは伊藤穰一、Lessig氏に加え、Kim Polese氏(Crowd Smart会長)、Ariel Ekblaw氏(Aurelia Institute創業CEO)、原麻由美氏(フレームダブルオー株式会社CEO)、Tim Mansfield氏(コア・コントリビューター)により「Technology and Organization Architecture」についてのパネルディスカッションが行われ、web3による企業活動の変化や新しいビジネスモデルについて、各自が知見を披露した。
※イベントの各セッションの様子はこちらの公式動画でご覧になれます。shorturl.at/fsL05
「Creative Architecture」セッションでは、映画やアニメーションフィルムの資金調達や制作の方法の変革を目指す、分散型ビデオプラットフォーム「Shibuya(Shibuya.xyz)」をローンチしたデジタルアーティストPplpleasr(ピープルフリーザー 本名Emily Yang)氏が基調講演を行った。
これまでは、長編作品の資金調達の方法は限られており、マーケットや映画祭で評判を得なければ、資金の調達は難しかった。そこでPplpleasr氏は、従来型の方法ではない資金調達及びクリエイター支援の方法として「Shibuya」を始めた。著名なクリエイターであるMaciej Kuciara氏の賛同も得てスタートしたこのプラットフォーム名は、むろん東京の“シブヤ”から取ったものだ。
「Shibuya」では、さまざまなコンテンツは無料で見ることができるが、ストーリーなど、コンテンツの中身、方向性に関わりたいときにはお金を支払う仕組みだ。これまで140万ドルの資金を調達できたという。Pplpleasr氏は「コミュニティによる所有こそが未来です。共通の考えを持つ個人が、さまざまなスキルや知識を持ち寄って集まり、共通の目標に向かって取り組んでいます」と述べた。
ここから伊藤穰一、Pplpleasr氏に加え、長谷部健氏(渋谷区長)、スプツニ子!氏(東京藝術大学デザイン科准教授)によるパネルディスカッションに移った。
まず、スプツニ子!氏は2010年頃のWeb2時代の自身デビュー時に触れ、作品が評判になっても制作費を集める方法はなかった、と当時を振り返った。web3によりDAOなどで資金調達ができるようになったが、同時に自身でコミュニティの運営もしなければならない。その結果、アーティストとして創作活動の時間が減ってしまうことが問題と話した。
これに関してPplpleasr氏は、コミュニティを運営する人を雇うということで「自分がクリエイティブプロセスに集中できる時間を作らなくてはならない」と自身の経験を披露。「アーティストと出資者」、「制作現場と資金調達の環境」が同じプラットフォームに乗ることで混在してしまった役割は、web3草創期の問題で、今後は切り分けていく必要があるということだろう。
大学で教えるスプツニ子!氏によると、学生の一部には、NFTアートに対しての懐疑的な見方があるという。web3、その中でも特にNFTアートは「ハイプ・サイクル」で言うところの幻滅期にある。伊藤は、「バブルなクリプトの世界から、(web3は)人に役立つ方向でブランディングにいかないといけないという話になってきた」と述べ、広告代理店での勤務経験もある渋谷区長の長谷部氏に、web3と区政との関わりをたずねた。
例えば渋谷は落書きが多い。これを逆手にとって合法的に落書きをさせる壁を作って、その落書きをNFTにしてみるとか、あるいはスクランブル交差点下に実際に存在しているの地下空間をDAOで運営するといったこと、さらには「そもそも町会の運営などはDAO的だ」(長谷部氏)といったように、長谷部氏も区政の周辺にあるさまざまな可能性を探っている。一方で、地下空間を使うには消防法をクリアする必要があり、町会をDAO化すると「登場人物が子どもからお年寄りまでで、技術を使えないなどの課題もある」(長谷部氏)など、現実の区政にはクリアしなければならないハードルも多い。
世界中を見渡すと、日本に来て仕事をしたいと考えているWeb3関係者は多い。しかし日本国内に決まった住所を持たない外国人が、日本で取引のための銀行口座を持つことは難しい。伊藤によると、ある著名なDAOを展開している海外の起業家が日本に来たがっているが、DAOは法人ではなく、しかも運営者は本名ではない(Web3界隈では運営者・出資者はハンドルネームが多い)。このような場合、ビザの取得、入国は難しい。
長谷部氏は「そのあたり(ビザや銀行口座の問題)は国と交渉するしかない」と話す。匿名での入国などは難しいが、いくつかの問題は渋谷区を“特区”とすることで解決できるかもしれない。シンガポールや欧州の国の中には、その国・都市で起業をしたい外国人を助けてくれる仕組みがあり、渋谷区にもそういう相談窓口があればいいのではという話題も出た。
次のセッションでは国政に関わる政治家からのメッセージが述べられた。
デジタル庁長官河野太郎氏はビデオメッセージで、政府としてWeb3に取り組み、10月からWeb3研究会も開催していると語った。さらに、デジタル庁が共通の機能を提供し、各府省、自治体ごとにバラバラになっている既存のシステムを共通基盤に置き換えるという方針を示した。
さらに、自民党デジタル社会推進本部長平井卓也氏が登壇。DAOについて触れ「社会課題解決につながる可能性がある」と話し、「今週実はこのDAOについて、その法的位置づけをどうするかという議論を具体的に始めました」と政府内の議論の進捗に触れた。
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クロージングのパネルでは、Lawrence Lessig氏と伊藤穰一による振り返りが行われた。
この日の各セッションでも随所に見えたように、web3を実社会で効果的に稼働させるには、政策や制度上の障壁がある。日本では、課題は整理されているのだが、社会実装や実施へのアクションは遅々としている。伊藤は、こうした問題を乗り越えるための、日本が参考にできるなにかいいアイデアはないかと問いかけた。それに対するLessig氏の答えは、「米国には51(50州とワシントン特別区)の“多様性ラボ”がある」とまず事情が異なることを指摘した。米国では州政府が独自の政策をとることができる。そのためフロリダ州がクリプトに積極的であったり、ワイオミング州がDAOの法的位置づけ明らかにしたりすることができる。しかし日本では、渋谷区だけ法律や税制を変えるということはできない。ここに日本の難しさがある。
一方でLessig氏は「静かで清潔な地下鉄の車内」、「暴力的でない警官」など米国ではありえない「日本の文明水準の高さ」を上げ、もっと多くの米国人が日本に来て、そうした経験を持ち帰るといいとも話した。伊藤も指摘していたが、日本を覆う官僚制の弊害は、変化に即応できないことであるが、その裏返しは、安定した社会秩序だ。ただ、こうしたことも含め、日本の社会は日本人が思うほど米国では知られていない。
「(日本人は)誇りを持つべきです。今まで作り上げてきたもの。その理解を他の人と共有すべきです。もっとオープンに文化を広げていただければ」これは、Lessig氏がこの日語った日本へのアドバイスだ。