無線通信の速度はどんどん早くなってきている。4Gの通信速度は最高で1Gbps、5Gは理論上その10倍の速度で通信が可能だ。
ところがこうした通信速度の恩恵を受けることができない広大なエリアがある。それは「海中」だ。海中にも無線通信の需要はある。水中ドローンによる海中探索や水中施設の点検、海底作業の重機の操作などは、現在は有線で遠隔操作するか、ダイバーが対応するしかない。
海中でも無線通信をすることはできる。電波は水中では減衰が激しいため、その方法は「光」または「音」による通信だ。「光」よる通信は、その通信距離に課題がある。青色LEDの光を使った通信については以前、当媒体でも紹介しているが、送受信の距離は5m。その記事の中でも言及しているが、当時(2019年10月)「音」による通信についても課題が多く、実用レベルには遠かったが、この度、NTTグループは、海中音響通信による浅海域(水深30m程度)での伝送速度1Mbps/300mを達成する伝送実験に成功したことを発表した。
海中音響通信を高速化するにあたって、は課題がいくつかあった。ひとつは、音波を発する送波器から、受信する受波器に直接届く直接波以外に、海面や海底などに反射して遅れて届く反射波があることで通信品質が低下してしまう。
もうひとつの課題が、海中の雑音だ。船舶エンジンなどの機械が発する人工の雑音もあるが、海の生物が発する音も通信品質低下の一因となる。特にテッポウエビが発するインパルス性雑音(発砲音)が曲者で、意外なことに海中では頻繁にこの音が拾われてしまうため、その影響も排除する必要があるという。
こうした課題を解決するために、NTTはこれまで独自に技術開発を重ねてきた。その結果、水中音響通信の高速化に向けた「時空間等化技術」、および「環境雑音耐性向上技術」を完成させ、海面反射などで届く遅延波の影響を除去し、海中の雑音の影響も排除できるようになった。
これにより、水深30mにおいて300mの距離で1Mbpsの通信速度を実現。これは従来の10倍以上の速度で、これまではテキストデータの送信がやっとだったのが、SD画質(アナログテレビ相当の画質)の画像送信が可能となった。
この技術を使った、完全遠隔無線制御型水中ドローンも製作されている。海中を移動するドローンから送信された画像を確認しながらの操縦が可能で、NTTグループではこれを用いて海中設備点検を想定した岸壁の劣化状況をリアルタイムに確認するための実証実験を、静岡市の海洋実証フィールドにて実施する。
無線制御のドローンは、ラインの引っ掛かりを気にする必要がないため、有線のものに比べて移動の自由度が遥かに高い。さらに音響通信は、海面の波などの影響を受ける水平方向より、垂直方向の方が一般的には通信がしやすいため、実際には未確認ながら理論上(ドローンが水圧に耐えて動作することなど諸条件を満たせば)は水深300mでも無線操作ができるはずだという。
画像:提供NTT