リアルでの開催は3年ぶりとなる「Open Network Lab HOKKAIDO 5th Batch DemoDay」(主催:株式会社D2 Garage 以下、オンラボ北海道)が、札幌市中央区の道新ホールで11月28日に開催された。
イベントの冒頭、オンラボ北海道と連携をとりながら、ともに北海道のスタートアップシーンの活性化を進めている産学官連携組織「STARTUP CITY SAPPORO」の中本大和スタートアップ推進担当係長から、活動の中間報告が行われた。起業家が輩出しやすい環境を醸成するため、起業予備軍や高校・大学生などがスタートアップについて知り、相談できる環境を整えたり、道内市町村との連携をお膳立したりするなど、オンラボ北海道が始まった5年前には、道内に未整備だったスタートアップ・エコシステムが形を整えつつあることが報告された。
その後、今回のオンラボ北海道5期生のピッチは、5組のチームが自身の事業やサービスの説明を行った。
最初にピッチを行ったのは、藻場の回復活動を支援するShareBe株式会社(本社・東京都渋谷区)のCEO高橋優人氏だ。藻場とは昆布など海藻が生い茂る浅瀬の海底のことで、そこには多くの魚介類が生息している。近年、この藻場がウニによって食べ尽くされるという現象が日本各地で見られるようになり、ウニの駆除に膨大な手間と費用がかかっている。
ウニは通常、高級食材として販売することができるが、厄介なことに藻場を荒らすウニは中身がほとんどなく、商品価値がない。駆除したウニを飼育して中身を太らせ出荷をすればいいのだが、空ウニの養殖は難しいという。
紋別市出身で自身もダイバーでもあり、荒れた藻場を目にしてきた高橋氏が、この問題を解決するためにつくったのが空ウニ養殖キット「kelper(ケルパー)」だ。陸上養殖キットと、ウニの中身を育てる配合飼料をセットで漁協に提供する。現在は実証実験の段階だが、将来的にウニの畜養技術がより安定的に提供できるようになれば、育てたウニの売上を、駆除の費用に回すことができるという。
次に遠友ファーマ株式会社(本社・札幌市北区)の代表取締役の長堀紀子氏が、自社の取り組む「糖鎖を活用した創薬支援」についての解説を試みた。
薬は特定の病気に有効な成分を持っているが、それを病気の細胞に効率よく届けることは難しい。長堀氏によると、服用した薬は血流にのって身体をめぐり、たまたま患部に届いているだけで、届く量は服用した薬の1000分の1に過ぎないという。つまり99%以上が無駄になっている。薬を効率よく届けるには、届け先である細胞の「目印」と、それに合致する薬剤側の「識別子」を合致させればよい。しかし、細胞側にどんな目印があるのかなどのデータが圧倒的に不足している。そこで、注目したのは細胞表面にある「糖鎖」で、これを目印として活用することだ。目的の細胞にある糖鎖の形状に合致した識別子を持つ薬品を作れば、薬を無駄なく効果的に投与することができる。
遠友ファーマは、糖鎖の研究者である北海道大学大学院先端生命科学研究院の西村紳一郎教授の技術シーズを元に起業しており、技術的な優位性は高い。薬を体内の必要な場所に届けるこうしたシステムをDDS(Drug Delivery System)というが、同社は「世界のDDSのリーディングカンパニーとなる」ことを目指している。
自社の会社サービス案内ページに「ローカルをカッコよく!」とのスローガンを掲げる株式会社ロカラ(本社・函館市)からは、代表取締役の中川真吾氏が登壇した。
ロカラはECサイト「道南地元市場」の運営をしており、そこを通じて農家、漁師、食品加工業者といった生産者から多くの相談を受けてきた。売上増を望みながらも、時間がなく手をかけられない、あるいは具体的な施策が思いつかないなど。そういった運営者に対して、月額3万円〜20万円とサポートのレベルによって料金が明確なEC改善サポートサービスをおこなっている。販売データの分析、パッケージング刷新の提案など、サポート内容に特異な点はないが、日頃マーケティングには縁遠い、生産者に寄りそったわかり易いサービスになっており、それだけ成果につながりやすいという。
日本有数の酪農地帯である北海道中標津町出身の連続起業家・大野宏氏が代表取締役を務めるエゾウィン株式会社(本社・北海道標津郡標津町)が提供するのは農業DXを支援するプラットフォーム「Reposaku」だ。
農家1戸あたりの耕地面積は30.2haと、都府県平均の13.7倍(北海道データブック_2021)の規模がある北海道の農家では、目の届く範囲ですべての農作業が行われるわけではない。
牧草の圃場などは、何カ所も管理している農家も多く、刈り取りや収穫時期もまちまちだ。限られた農機と人手で天候にも左右されながら効率よく作業するには、現状の把握と効率的な計画が必要となる。Reposakuはトラクターなど農機のシガーソケットに端末をセットしておけば、農機の稼働状況から作業の進捗状況まで、これまで現地に行って目で確認していた状況を遠隔地から管理できるため作業効率が向上する。人口減少はこれからも続くので、将来的には無人トラクターやドローンなどと組み合わせ、自動化農場を実現させ、日本の食を支えたいというプランも将来計画には盛り込まれている。
最後に登壇したのは、株式会社BUKARU(本社・札幌市中央区)代表取締役の森田敦氏だ。
手掛けるのは、社会問題ともなっている“忙しすぎる先生”を救い出すサービスだ。広く知られるようになったが、残業、休日勤務の原因となり学校の先生を悩ませているのは、「部活動」の問題だ。国もこの問題に気づき、学校だけで部活動をみるのではなく、地域のサポートが得られる方向へと転換する方向性は示しているものの、資金や適当な人材が不足しているといった課題がある。BUKARUは、こうした課題を踏まえた上で、地域での部活指導人材と学校のマッチング、事務作業の軽減、さらにはクラウドファンディングやふるさと納税などを取り入れた、資金手当てのサポートも提供している。先生が部活から開放されるだけでなく、生徒も専門的な指導を受けることができるといったメリットもある。すでに札幌市や当別町では実証実験の取り組みを始めており、地域格差をなくし、スポーツ文化教育を維持することを目指すと話を締めくくった。
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ピッチ後の審査の結果、遠友ファーマ株式会社が、最優秀賞「Best Team Award」と観客の投票による「Audience Award」を受賞した。長堀氏は受賞のコメントで「技術には自身があったのだが、(こうしたプログラムに参加して)伝える力ができた」とオンラボ北海道に参加した成果を語った。また、今後の活躍を期待するという意味で、「Special Award」今回は設定され、エゾウィン株式会社が受賞した。