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宇宙での“地産地消”を目指した即席ラーメンが登場 その狙いは?味は?

微細藻類ユーグレナが入ったフラスコと「2040年サステナブルラーメン」を手に持つ株式会社ユーグレナの本間哲太郎氏(右下画像:ユーグレナ社提供)

微細藻類ユーグレナが入ったフラスコと「2040年サステナブルラーメン」を手に持つ株式会社ユーグレナの本間哲太郎氏(右下画像:ユーグレナ社提供)

 残念ながら、日本の宇宙ベンチャーispaceによる「HAKUTO-R」は月面に無事着陸することはできなかったが、アメリカ、ロシア、インドなど各国の探査機が2023年度中に月面着陸を目指すなど、宇宙への進出がこれまで以上に加速している。

 この先、宇宙での長期滞在も想定されるわけだが、その実現までは、多くの障壁が残る。その中でも、特に大きな課題とされているのが、「食料」の問題だ。

 現在、宇宙食は、地球上で調理したものを宇宙に輸送するケースがほとんどだ。しかし、人類が宇宙に長期滞在するとなった場合、このままでは大量の食料を地球から繰り返し輸送する必要があり、コストがかかり過ぎてしまう。

 そこで、持続可能な宇宙食のあり方を模索するさまざまな取り組みが進められている。地球と宇宙の食の課題解決をミッションに掲げる共創プログラム「SPACE FOODSPHERE(スペースフードスフィア)」(2020年4月発足)もそのひとつだ。これは、多様なジャンルの企業や団体が集まった産官学連携の取り組みで、宇宙における食料生産・供給および、それに関わる宇宙食料関連マーケットの早期創出が試みられている。

 スペースフードスフィアでは、地球上で調理したものを宇宙空間に持っていく段階を「宇宙食1.0」。地球上から食材だけを持っていき、宇宙空間で調理する段階を「宇宙食2.0」。そして、宇宙空間で育てた食材を、宇宙空間で調理し消費する段階を「宇宙食3.0」と定義し、最終段階である「宇宙食3.0」(宇宙における地産地消)の実現を目指している。

 このスペースフードスフィアの参画企業のひとつである株式会社ユーグレナ(本社:東京都港区)が、2023年3月、宇宙と同じような特殊で閉鎖的な環境下でも生育・栽培できる可能性のある食材を使った即席カップ麺「2040年サステナブルラーメン」を開発した。この取り組みの狙いや展望を、同社ヘルスケアカンパニー経営企画室ブランドマネージャーの本間哲太郎氏に聞いた。

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インタビュー中の本間氏
インタビュー中の本間氏

 ユーグレナ社は、2005年に微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養を世界で初めて実現した企業で、ユーグレナを用いた食品や化粧品事業のほか、バイオ燃料事業やソーシャルビジネスを行っている。そんなユーグレナ社がなぜ宇宙食の開発に挑むことになったのか。

 本間氏によると、同社ではスペースフードスフィアへの参画以前から、ユーグレナをはじめとする微細藻類を宇宙空間で培養する研究を進めており、「もともと宇宙分野とは近しい」という。

 光合成を行うことで、二酸化炭素を吸収して酸素に変え、さらに食料資源にまでなってくれる微細藻類は、地球外における人類の生命維持にも有用だと考えられる。「特に私たちが培養しているユーグレナは、人間に必要とされる59種類の栄養素を含んでいるため、さまざまな環境負荷やストレスがかかる宇宙環境においては、非常に適した食材になるだろう」とのことだ。

「生産効率においてもユーグレナは優れていますので、閉鎖的な空間での健康維持や生態系の維持においても、大きな貢献ができるのではないかと。そういった考えのもと、当社の研究所では、宇宙においてユーグレナを生産する研究にも力を入れています」(本間氏)

 加えて、スペースフードスフィアや、その前身である「Space Food X(※)」への参画を通して、宇宙での長期滞在における食料自給問題の解決に注力するようになり、今回の「2040年サステナブルラーメン」の開発に至ったという。

※JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)の一環として、2019年に発足した宇宙食料マーケット創出プログラム

「現在スペースフードスフィアでは、『2040年に月面に人類が1000人居住するようになる』ことありきで、活動を進めています。そのためには今から『宇宙食3.0』に向けた研究を進めておかなければならず、今回のラーメン開発に至ったというわけです」

宇宙での生産を期待できる食材

「2040年サステナブルラーメン」とはどういったものか。本間氏は、このラーメンの特徴は「宇宙で生産できる可能性がある食材を使っていること」にあると説明する。

 まずスープに使われているのは、ユーグレナと同様に、宇宙での培養に適した食材として同社が研究している微細藻類オーランチオキトリウムだ。オーランチオキトリウムは細胞重量の20%近くがDHA(ドコサヘキサエン酸)で占められ、宇宙空間において不足する魚類含有の必須脂肪酸を効率的に摂取できると期待されている。ちなみに、オーランチオキトリウムをスープに使うことで魚介系の風味になるそうで、当初から「オーランチオキトリウムをスープに使う発想があった」とのことだ。

 麺には、スパゲッティなどに使われるデュラム小麦の原種で、乾燥や暑さに強く、宇宙空間での生産可能性が高いとされるカムット小麦が使われている。そのほか、チャーシューには、ネクストミーツ株式会社(本社:東京都新宿区)が開発する代替肉に、ユーグレナを混ぜ乾燥させたものを。野菜には、乾燥や暑さへの耐性が高いウチワサボテンが使われている。

左上:オーランチオキトリウム、右上:カムット小麦、左下:ユーグレナ入り代替肉、右下:ウチワサボテン(画像提供:ユーグレナ社)
左上:オーランチオキトリウム、右上:カムット小麦、左下:ユーグレナ入り代替肉、右下:ウチワサボテン(画像提供:ユーグレナ社)

 本間氏は、食材に加え、「味にもこだわった」と強調する。

「ただ単に、宇宙でも生産できる可能性のある食材を使うだけではなく、そういった特殊な食材を使っているにも関わらず、ちゃんとおいしいと思えることが大事だと考え、味には非常にこだわりました」

 ユーグレナ社では、1948年創業の老舗食品メーカー、ヤマダイ株式会社(茨城県結城郡)に製造を依頼。即席ラーメンに使用したことがない食材を使いながらも「おいしい」と感じられるよう試作を重ね、実に2年もの開発期間をかけ「2040年サステナブルラーメン」を完成させたとのことだ。

“宇宙ラーメン”の味わいは?

 では実際に「2040年サステナブルラーメン」はどのような味がするのか。試食の機会をいただいたので、その味わいを少しお伝えしたい。

「2040年サステナブルラーメン」試食の様子
「2040年サステナブルラーメン」試食の様子

 まずスープについては、確かに魚介系の風味があり、そこに調味油に入っているショウガの香りが絡むことで、爽やかな味わいになっていた。ほんのり甘みがあるのも特徴で、どこか金目鯛などの煮魚を彷彿させる風味でもあった。麺、チャーシュー、野菜についても、特殊な食材を使っているにも関わらず、何ら違和感はなく、一般的なカップ麺の具材と同じ感覚で食べることができた。総じて、本間氏の言う「味へのこだわり」は、高いレベルで結実しているという印象だった。

 現在、ユーグレナ社では、「2040年サステナブルラーメン」開発の支援者を募るクラウドファンディングを実施している(2023年5月15日まで)。返礼品として「2040年サステナブルラーメン」を送り、感想を広く集めることで、味の改良に活かしていくとのことだ。

「実際に食べていただいた方の生の声を集めることで、今考えている道が正しいのか、正しくないのかの見極めも含め、『宇宙食3.0』を具体化するロードマップ作りにつなげていければと思っています」(本間氏)

 近い将来起こり得るだろう、宇宙における食料問題に目を向けるきっかけとしても、この取り組みが広く認知されることを期待したい。