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米国NASAの火星滞在実験、スタートへ 参加者が意気込み

米航空宇宙局(NASA)の健康・パフォーマンス探査研究(CHAPEA)で使われる模擬火星滞在施設「マーズ・デューン・アルファ」の屋外部分。テキサス州ヒューストンにて(2023年4月11日撮影)。(c)Mark Felix / AFP

米航空宇宙局(NASA)の健康・パフォーマンス探査研究(CHAPEA)で使われる模擬火星滞在施設「マーズ・デューン・アルファ」の屋外部分。テキサス州ヒューストンにて(2023年4月11日撮影)。(c)Mark Felix / AFP

【AFP=時事】火星への滞在が子どもの頃からの夢だったわけではないが、カナダ人生物学者のケリー・ハストン(Kelly Haston)氏(52)は、その準備に貢献するためにこれからの1年間を充てることになった。

「実際にそこ(火星)に滞在していると想定して取り組む」。

 ハストン氏はAFPに、今月末に開始される米航空宇宙局(NASA)の火星滞在シミュレーション計画への参加に当たり、意気込みを語ってくれた。

 計画は「健康・パフォーマンス探査研究(CHAPEA)」と呼ばれ、3回にわたって行われる予定だ。CHAPEAは、米テキサス州ヒューストン(Houston)の宇宙センターに設置された実験施設で実施される。ハストン氏を含む4人のボランティア被験者が1年間、滞在する。施設は3Dプリンターを用いて造られた。

 実際の有人火星ミッションの前に、隔離された環境下で長期間を過ごす宇宙飛行士の行動について評価するのが狙いだ。

 NASAからは、実験では機器の動作不良、水利用の制限といった状況に遭遇することになると予告されたという。ハストン氏は、この他にも「突発的な事態」が待っていると話した。

 外界との交信では、地球・火星間と同様、遅延が生じる。相手にメッセージ(信号)が届くまでに最長20分かかる。返信を受け取るまでには40分を要することになる。

 実験施設は「マーズ・デューン・アルファ(Mars Dune Alpha)」と呼ばれ、160平方メートルほどの広さがある。寝室、ジム、共有スペース、「垂直菜園」などが備わっている。

「火星表面での歩行が体験できる屋外スペースもある」。

「スペースウオーク」を行う際には宇宙服を着る必要があり、ハストン氏は「それが一番楽しみかもしれない」と話した。

■関係はすでに良好

 第1回目のCHAPEAには、ハストン氏の他、エンジニア、救急医、看護師が被験者として参加する。4人とも選定されるまで、面識はなかった。

 リーダーに任命されたハストン氏は「すでに良好な関係を築けている」と言う。1年間の実験を通じ、関係をさらに強めたいと語った。

 4人が臨むのは、人類にとって重要な探査に向けてのシミュレーションだ。ただ、実際に大きなカギを握るのは、掃除や食事の用意といった日常業務をこなす中でいかに協調性を保つことができるか、だ 負傷や急病の際には、施設を一時的に出ることができる。ただ、それ以外の大半の状況については、被験者のみで対処できるよう、さまざまなケースが想定されている。家族に問題が起きた場合、どのようにそれを伝えるかといったことも考慮されている。

■不安も

 ハストン氏にとって最も不安なのは、家族と離ればなれになることと、そうした状況にどうやってなじんでいくかという点だ。連絡手段は主にメールだ。ビデオ会話もたまにできるというが、リアルタイムではない。

 ハストン氏は不安に対処するため、これまでの経験を役立てるつもりだ。研究でアフリカ大陸を訪れた際には、数か月にわたって車やテントで寝泊まりした。5人のグループだった。そうした経験から、隔離される感覚には「慣れているはず」と話す。

 火星表面での滞在をシミュレートする実験は過去にも行われている。ただ、2015~16年にハワイで実施された実験は、NASAが主導したものではなかった。

 NASAは「アルテミス(Artemis)計画」で、有人宇宙船の月面着陸を目指している。同計画を通じて宇宙空間での長期滞在について知見を蓄積し、30年代後半までに火星への有人ミッションを実行する考えだ。【翻訳編集】 AFPBB News|使用条件