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ジャパンモビリティーショーで見た 小さくても新しいクルマ 新しい挑戦 

上段左から会場の東京ビッグサイト、会場入口、スバル、ソニー&ホンダ、BYD、トヨタ、日産

上段左から会場の東京ビッグサイト、会場入口、スバル、ソニー・ホンダ、BYD、トヨタ、日産

「ジャパンモビリティーショー(JAPAN MOBILITY SHOW 2023 主催:一般社団法人 日本自動車工業会、以下JMS)」が11月5日まで東京ビッグサイトで開催中だ。2019年までは「東京モーターショー」として隔年開催されてきた日本最大のモーターショーは、モビリティ関連企業や、スタートアップまでも取り込んで、前回の192社を上回る475社の出展者を集めた。

 25日のプレスデーの模様や、日本の主要自動車メーカー各社の展示については、すでに多くの報道がなされているので、ここでは触れない。ここで紹介するのは、会場内で見かけた新興メーカーが作る小型EVやユニークな車両の様子などだ。

ファブレスで軽商用EV

軽商用EV「PUZZLE(パズル)」
軽商用EV「PUZZLE(パズル)」

 HW ELECTRO株式会社(本社・東京都江東区)は、軽商用EVを扱っている日本のスタートアップだ。これまでも海外製のEVを日本向けに改造した車体を取り扱ってきたが、今回のJMSではオリジナルの新型車、軽商用EV「PUZZLE(パズル)」のコンセプトカーを発表した。オリジナルと言っても同社は工場を持たないファブレスメーカーだ。設計・デザインを行い製造は外部に委託する。「200万円程で200km走る小型EVを目指す」というだけあって、共通部品を増やし量産に向けて合理化をはかるなどの工夫も凝らされている。

軽商用EV「PUZZLE」運転席
「PUZZLE」運転席

 展示してある実車は、大きく見えるもののサイズは軽自動車規格。そのサイズいっぱいを活用した四角いデザインで、シンプルな形状ながら、既存の商用車とは一線を画すユニークさを持っている。EVはよく“家電”に例えられるが、これはさしずめ“デザイン家電”。デザインだけではなく、カーコンセプトも現代風で、移動する社会インフラとして、非常時の電力供給源となることを想定していることに加え、緊急時に必要なファーストエイドキットやバールなども常備されている。

 パーツを組み合わせ、完成車を作ることができるEVの時代になれば、ファブレスメーカーが主力になると言われてきた。これまでパソコン、スマホなどファブレスで成長してきたのは海外メーカーだが、EVでは、日本にもそうした新しい製造スタイルのスタートアップがあらわれてきた。

不動産M&Aから小型EV

J-BEVU株式会社の「E-リザード」
J-BEVU株式会社の「E-リザード」

「PHEV」と車体に書かれた紫の小型車。こちらはJ-BEVU株式会社の「E-リザード」だ。

「バッテリー+50ccエンジン」で航続距離は100km。このモデルには鉛蓄電池のみのモデルもあり、航続距離は50kmながらこちらはJMS向け特別価格でなんと税込み79万円だ。

E-ドラゴン
E-ドラゴン

 会場にはもう1タイプのEV「E-ドラゴン」の実車も展示してある。飾り気のない展示ブースに、異色の小型EVが2車種。いったいどういった経緯で、この車たちは生まれたのか、話を聞いてみたくなった。

 会場で対応してくれたのは、同社取締役の内海桂樹さん。話を聞いて驚いたのは、同社の本業は不動産のM&Aで、自動車製造は全くの畑違い。しかし、取り扱う不動産案件の中には自動車関連の工場なども含まれる。つまり、ここ数年日本では車の生産が縮小しつつあり、関連の企業、工場、さらには人材までが“売り”に出されているのだ。そうした“日本の資産”を上手く活用し、素早く事業を立ち上げた。

 クルマづくりは2021年頃スタートしたばかり。それでありながら、「E-ドラゴン」のデザインは、カーデザイナーの由良拓也氏のデザイン事務所に所属していた人が、また「E-リザード」の設計は、日野自動車出身者が手掛けている。車の開発に関しては自己資金でここまで来た、この先については「この金型で50台生産できるのです。それを全部販売したらまた、次のを考えようかなと」とのこと。まさに“アジャイル”な生産と経営。日本車技術の優れたところを引き継ぎながら、日本企業とは思えないスピート感が素晴らしい。

トヨタの「サウナ」

サウナカー「NUKUMARU(ぬくまる)」
サウナカー「NUKUMARU(ぬくまる)」

 白木の内装が目立つ、サウナカーが展示されていた。キャンピングカーやアウトドアのメーカーが手掛けたものかと思いきや、展示の主はトヨタ自動車の先端技術カンパニー。「売るだけでなく利用についても提案していく必要があるなという事でこうした車もつくっています」とのこと。超巨大企業にも開拓者の魂が。

充電器、ミスト発生機など
車体後部の充電器、ミスト発生機など

 車内に備えられているサウナはミストサウナで、必要な水の量は一人分で500mlもあれば充分とのこと。サウナのあとの水風呂はないものの、車内にはシャワー設備もあり、これで洗髪すればサッパリできる。車体後部には、電源、サウナミスト発生装置、それに容量20リットルの水タンク。

 このサウナカーの名称は「NUKUMARU(ぬくまる)」。展示されていたのは最新の1台で、すでに完成済の第1号車は、長野県飯山市で高齢者向けの入浴サービスに活躍しているらしい。福祉車両には浴槽で入浴できるサービスを提供しているいわゆる「お風呂カー」もあるが、ミストサウナ(シャワー)は浴槽への入浴に比べて、提供する方もされる方も手軽に使える。「風呂に入るのは面倒で」という高齢者も、温かい場所で座って入るミストサウナなら具合がいいということだ。

 サウナカーが展示されていたエリアには、ここ数年ブームのキャンピングカーも多数展示されていた。この場所は主要メーカーの巨大展示エリアが並ぶ東館の奥のホールにあるが、週末に来場するファミリー層には、このエリアあたりが一番楽しいかもしれない。

スタートアップも参戦

スタートアップの展示エリア「Startup Future Factory」
スタートアップの展示エリア「Startup Future Factory」
自動運転除雪車
自動運転除雪車

 東京ビッグサイトの西館には、スタートアップの展示エリア「Startup Future Factory」がある。こちらには、モビリティ関連企業のスタートアップが参加しており、本サイトの記事でも紹介したことがある有人ガス気球で宇宙を目指す株式会社岩谷技研や、ラストワンマイルの自動運転ロボットカーなどを開発する株式会社ZMPなども出展している。他にも、再生可能エネルギーで自走する自動運転のヨットや、その技術を応用した自動運転除雪車にチャレンジするエバーブルーテクノロジーズ株式会社のようなスタートアップも。

 JMSでは日本の産業界を牽引してきた、巨大な自動車会社と、今後日本の産業界を支えるであろうスタートアップを並列して見ることができるので、未来のトヨタ、ホンダを探しに是非こちらにも足を運んでほしい。

Written by
朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。