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「平凡は妙手に勝る」 中国の小学校がAI将棋を導入する理由

寧夏回族自治区銀川市で開催された智力運動会で囲碁対決をする子どもたち(2023年6月10日撮影)。(c)CNS:于晶

寧夏回族自治区銀川市で開催された智力運動会で囲碁対決をする子どもたち(2023年6月10日撮影)。(c)CNS:于晶

【東方新報】中国には、象棋(シャンチー)という将棋がある。日本の縁台将棋のように道ばたの長椅子を囲み、おしゃべりをしながら対局するおじさんたちを時々見かけることがある。

 その競技人口は1億人とも2億人ともいわれ、マージャンや卓球と並ぶ中国の国民的な娯楽である。日本でも、将棋の故大山康晴(Yasuharu Oyama)15世名人が1973年に日中象棋協会(現・日本シャンチー協会)を設立し、熱心に普及したことでも知られる。

象棋の初期配置図
象棋の初期配置図

 シャンチーは7種類16枚の駒を使って2人で対戦するが、将棋と違って取った駒を再び盤上に打ち下ろすことはできない。どちらかというと将棋よりもチェスに似たゲームだ。最近では、中国の象棋界も日本の将棋界と同じように人工知能(AI)の話題で盛り上がっている。

 11月4日まで中国・安徽省(Anhui)合肥市(Hefei)で開催されていた中国のマインドスポーツ大会「第5回全国智力運動会」には、象棋のほか、囲碁やチェス、ブリッジなど6分野58競技に6歳から76歳まで約5000人が参加した。大会会場では、AIとボードゲームの未来をテーマにしたシンポジウムやAIとの対戦体験などの展示も。さながらAIの展示会のようだった。

 中でも注目されたのは、中国の画像認識大手である商湯集団(SenseTime)が2022年8月に発表した家庭向け象棋ロボット「SenseRobot(センスロボット)」だ。標準モデルで約2000元(約4万円)と家電並みの価格ながら、アームで駒を動かすこともできるリアルな対戦体験ができる。その腕前も初心者からプロ級まで26段階に調整することができる。

 すでに象棋の世界では、家庭向けの商品であってもAIは人間よりも強くなってしまっている。2022年10月に上海で実施されたセンスロボットと名人たちの対局では、センスロボットの圧勝だった。象棋よりも複雑だといわれる囲碁の世界でも、AI囲碁ロボット「アルファ碁(AlphaGo)」が2016年に、囲碁世界チャンピオンの韓国の囲碁棋士・李世ドル(イ・セドル、Lee Se-Dol)氏を破っている。

 すでに囲碁や将棋などマインドスポーツのプロの世界では、AIを活用して定石を研究し、その技を磨くのが常識になっている。広東省(Guangdong)広州市(Guangzhou)の小学校では2022年9月から、中国で初めてAIを活用した授業の一環として象棋ロボットを導入し、子どもたちは日々AIと対戦して腕を磨いている。

 もっとも、教育現場へのAI導入に対しては、「AIに勝てないプロ棋士を育てることに意味はあるのか」などと否定的な声があるのも事実だ。AlphaGoに敗れたイ・セドル氏も2019年に引退を表明した際に「自分が(人間の大会で)1位になったとしても、敗北しない存在(AI)がいる」と述べている。

 一方、先ほど紹介した全国智力運動会のシンポジウムでは、「AIを排除するよりも共存して活用する方がずっと生産的」という趣旨の意見が多数派だったという。実際にAIと対戦し、その圧倒的な強さを知ったプロ棋士とアマチュアの感じ方が異なるのは仕方ない。AIへの向き合い方も人それぞれだろう。

「平凡は妙手に勝る」。象棋を日本に広めた大山名人の格言だという。この格言は、AI象棋の導入を決断した中国の小学校にも当てはまりそうだ。AI対策の妙手を探るより、まずは平凡に使ってみる方が良さそうとの判断である。【翻訳編集】東方新報/AFPBB News|使用条件