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捨てられる漁網のアップサイクルも 海洋汚染解決を目指す 気仙沼発スタートアップamu

気仙沼発スタートアップamuの面々(画像提供:amu)

気仙沼発スタートアップamuの面々(画像提供:amu)

 海洋プラスチックゴミによる海洋汚染が地球規模で広がっている。特に生物に深刻な影響があるとされているのが、海洋を漂う漁網やロープなどの漁具だ。海洋に流出した漁具は、ゴーストギア(漁具の幽霊)とも呼ばれ、海洋生物に多大な被害を与えている。

 こうした課題を、廃漁網をリサイクルすることで解決しようと試みるスタートアップがある。そのひとつが、2023年5月に宮城県気仙沼市にて創業したamu(アム)株式会社だ。amuは、使い終わった漁網を買い取り、繊維やペレット(粒状の合成樹脂)などに変容させた後、市場にアップサイクルする事業を展開している。

 設立の狙いや事業内容、展望について、ファウンダーで代表取締役CEOの加藤広大氏に聞いた。

漁網廃棄の“システムエラー”を修正したい

amu 代表取締役CEOの加藤広大氏(画像提供:amu)
amu 代表取締役CEOの加藤広大氏(画像提供:amu)

 環境省の「我が国での漂着ごみ調査結果(平成30年9月)」によると、日本に漂着するプラスチックゴミの総重量のうち4割以上が漁具由来のものだとされ、海洋生物への影響が危惧されている。こうした状況に対し、漁業関係者に解決を求める向きもあるだろう。しかし、この課題の核心は「漁具を産業廃棄物として捨てる選択肢しかないというシステムエラー」にあると加藤氏は指摘する。

「使い終わった漁具を、産業廃棄物として処理する他に選択肢がないという状況が、こうした課題を生み出している本質的な要因なのではないかと僕たちは考えています。産廃ゴミとして出す際には、当然お金もかかりますし、漁師さんにも負担がかかります。こうした状況に対して僕たちが、『廃棄漁具をリサイクルする』というもうひとつの選択肢を提示できればと考え、事業を展開しています」(加藤氏)

 ではamuはどのようなビジネスを実現しようとしているのか。加藤氏らは、「amuca®(アムカ)」という素材ブランドを立ち上げ、漁師から買い取った廃漁網を、総合化学メーカーなどと協業することでさまざまな形で再生し、アパレルブランドなどを中心に提供しようとしている。

 現在、展開している廃漁網のリサイクル方法は主に3つ。ひとつ目が、比較的物性(状態)の良い廃漁網を化学的に分解し、糸や繊維として再生させる「ケミカルリサイクル」だ。この場合、顧客であるアパレルブランドなどにリサイクルした糸をそのまま販売するケースもあれば、生地メーカーに糸から生地を作ってもらい、それをアパレルブランドなどに販売するケースが想定される。

「amuca®」で展開しているリサイクル商材(画像提供:amu)
「amuca®」で展開しているリサイクル商材(画像提供:amu)

 二つ目が、もう少しシンプルに、廃漁網を細断、洗浄、溶かして、ペレット状にして販売する「マテリアルリサイクル」だ。この場合、物性はやや落ちるものの、比較的容易に作れるため、環境負荷は減る。

 三つ目が、廃漁網を細断し、固めてタイル状にして「建材」として使う方法だ。これは、ケミカルリサイクルもマテリアルリサイクルにも適さない漁網をリサイクルする手段として考案されたという。

「作りたいものが決まっているときには、適切な方法で素材を提供することが大事です。トゥーマッチな加工をしてしまうと、エネルギーも余計に排出してしまいますから。(お客様が)作りたいものに合わせた物性のものをご提案・提供させていただける仕組みづくりを意識しています」(加藤氏)

「気仙沼モデルのスニーカー」のアイデアが契機に

 神奈川県小田原市出身の加藤氏が、宮城県気仙沼市を初めて訪れたのは都内の大学に通っていたときだ。2015年、大学1年生の夏休みに日本全国を旅しようと思いつき、まずは東日本大震災から4年ほど経った気仙沼の様子を見てまわろうと考えた。

 当時の気仙沼には、震災当初から被災地入りしたボランティアの一部がそのまま移住したり現地で起業したりしており、彼らと触れ合った加藤氏は「いつか気仙沼に住みたい」「起業したい」という思いを強く抱いたという。

 その後、東京・渋谷のスタートアップに入社したが、3年経った頃に「気仙沼で起業する」思いを抑えきれなくなり、会社を辞め、総務省の地域おこし協力隊(赴任先で地域協力活動などをしながら移住や起業の準備を進められる制度)の一員として気仙沼に移住し、起業の準備を進めた。

「移住するときに2つのことを決めていました。ひとつが、起業するなら絶対に東京・渋谷でできることはしないこと。起業は渋谷でした方がやはり成長スピードは速いですから、渋谷ではできないことで勝負しないと勝てないなと思ったのです。もうひとつが、その地方に根付いた文化や風習をベースに、世界に通用するビジネスを作ること。この2つをテーマに気仙沼に移住し、起業のタネを探していきました」

 加藤氏が最初に思いついたのは、気仙沼で水揚げされる高品質な水産物を、中間マージンなしで販売するビジネスだった。しかし、これは競合が多く、レッドオーシャンであったため、事業の方向性を転換する。

「その後、水産業に紐づくことは何かないかと、徐々に“静脈”の方に目を向け出しました。これだけ美味しい水産物があるのなら、それを獲るための漁具はどう処理しているのだろうと考えるようになったのです」

 そんなときに「廃棄漁具を使ってスニーカーを作ったら格好良いのでは」という着想を得る。そこから「気仙沼モデルのスニーカーを作ったら、きっと格好良いだろうな」「港町ごとにデザインを変えて展開できたらおもしろいだろうな」とアイデアが次々と湧いた。調べてみると、漁具のリサイクル事業をしている企業はあまり見当たらず、だったら自分が始めてはどうだろうと考えるようになったという。

「そこから徐々に、スニーカーを作るというBtoCのビジネスから、自分で漁具を(服飾などの)素材にリサイクルしていく方向へと事業性を変容させていきました。漁師さんやケミカルメーカーともつながりを築き、6割ほど話がつまった段階で、これならいけるだろうと仲間を誘い、起業したという経緯になります」

“全ての漁網”に対応が強みに

 現段階で収益性はどう見込んでいるのだろう。「結論から言うと、かなり事業性はあると踏んでいる」と加藤氏は自信をのぞかせる。

「収支のバランスは、ケミカルリサイクル、マテリアルリサイクル、建材その他を含め、全て合ってくる想定です。だからこそ、エクイティファイナンス(資金調達)なども行いながら、しっかりと事業として拡大していきたいと考えています」

 現時点で課題があるとすれば、「ロジスティクスの部分」だと加藤氏は分析する。廃漁網を効率よく運ぶためには、回収した港となるべく近い場所で、減容化(砕いて、トラックへの積載効率を上げること)することが重要だ。そのための仕組みづくりや提携先の工場などを増やすことで、コストメリットを出していけると加藤氏は話す。

「ちなみに、海洋プラスチック由来のリサイクルナイロンを作るイタリアの会社がありますが、ここが2020年に、その素材ブランドだけで、320億円の売り上げを計上しています。ここをベンチマークに、追いつけ追い越せと頑張っています」

 現在、漁網のリサイクル事業に取り組む企業は少しずつ増え始めている。そんな中で、amuの強みはどういった点にあるのか。加藤氏は「あらゆる漁網のリサイクルに対応できる」ところに強みがあると説明する。

「今、いくつかの企業が漁網のリサイクルを始めていますが、そのほとんどがケミカルリサイクルできる漁網を対象としています。こうした物性の良い漁網は廃漁網全体の5、6%に過ぎず、それを皆で取り合っている状態です。これは全然本質的ではありません」

 重要なのは、残りの95%の廃漁網も含めた“全ての廃漁網”をどうアップサイクルするかを考えることであり、そこに対応していくことがamuの一番の強みだと加藤氏は強調する。

廃漁網を買い取る様子(画像提供:amu)
廃漁網を買い取る様子(画像提供:amu)

「そのために僕たちは、ケミカルリサイクルだけでなく、マテリアルリサイクルにも対応しますし、それでダメなら建材化してアップサイクルして、付加価値をつける仕組みも構築しています。漁師さんにとっても、漁網の一部だけを買い取るのではなく、全て持って行ってもらえる方が、メリットが大きい。そうやって全ての漁網を引き取っていけば、amuの認知が広まり、どんどん回収依頼が来るようになる。そこを僕たちは目指していて、そのスタンスが圧倒的に他社と違うところだと考えています」

 廃漁網のリサイクル事業を軌道に乗せるには、リサイクルに協力してくれる“仲間”をいかに増やしていくかもポイントになるだろう。加藤氏らの思いが1日でも早く形となり、廃棄漁具の課題解決につながることを期待したい。

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有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。