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 “かくれフードロス”を循環型フードサイクル構築で解決  

ASTRA FOOD PLAN株式会社 代表取締役社長の加納千裕氏

ASTRA FOOD PLAN株式会社 代表取締役社長の加納千裕氏

 まだ食べることができるのに捨ててしまう。そんなフードロスの問題が、社会課題として認識されるようになって久しい。フードロス削減を目標に掲げるスタートアップも数多く登場しているが、ビジネスが軌道に乗らず、歩みを止めてしまうケースも少なくない。

 そんな中、食品会社や農家、自治体などを巻き込んだ循環型フードサイクルを構築し、フードロス削減の新たな潮流を生み出しつつあるベンチャー企業がある。それが、2020年創業のフードテックベンチャー、ASTRA FOOD PLAN株式会社(埼玉県富士見市)だ。

 同社は、過熱水蒸気(数百度の高温スチーム)技術を使った食品乾燥・殺菌装置「過熱蒸煎機」を開発。この過熱蒸煎機を用いて、食品工場から出る野菜の端材や、生産地で畑に戻される規格外農作物、飲料工場から出る飲料残渣(ざんさ)などを、「ぐるりこ®」と呼ばれる粉末にし、市場に流通(アップサイクル)させることで、“かくれフードロス”の削減を目指している。

 同社の取り組みやビジネスモデル、今後の展望について、代表取締役社長の加納千裕氏に聞いた。

はじめに、食の安全を目指す“夢”ありき

 加納氏によると、ASTRA FOOD PLAN創業の起点は、加納氏の父である加納勉氏が抱いた“夢”にまで遡るという。大手コンビニ会社の役員だった加納勉氏は、「添加物を使わない弁当や惣菜を作ろう」と思い立ち、会社を辞め、食品の栄養分を残したまま殺菌・加熱調理できる可能性がある過熱水蒸気技術の研究開発に打ち込みはじめた。だが、時代を先取りしすぎたせいか、加納勉氏が手がけた事業は全て失敗に終わる。

「今でこそ、過熱水蒸気を使った電子レンジなどが登場していますが、20数年前は製鉄現場で使われていた技術で、食品に転用する人はいませんでした。また、今は従来に比べて添加物を減らしたコンビニ食が一般化していますが、当時は健康よりも効率が重要視されていた時代でした。そういう意味では、父は先見の明があったのだと思います」(加納千裕氏)

 娘である加納千裕氏は、「これで終わるのはもったいない」と、父親といっしょに働いていた吉岡久雄氏と2020年に新会社を立ち上げた。これがASTRA FOOD PLANだ。

過熱蒸煎機(50タイプ)(画像提供:ASTRA FOOD PLAN)
過熱蒸煎機(50タイプ)(画像提供:ASTRA FOOD PLAN)

 その後約1年かけ、加納氏と吉岡氏は過熱水蒸気技術のノウハウと、ある機械メーカーが持っていた熱風乾燥機とを融合させ、食品乾燥・殺菌装置「過熱蒸煎機」を誕生させた。

「できあがったものを見てみると、300度から500度の過熱水蒸気によって、食品の殺菌が可能なうえ、栄養や風味を損なわずに乾燥させることができる装置になっていました。さらに、わずか5〜10秒のスピード乾燥で食品の劣化を防げるほか、ボイラーレスとなり、従来の過熱水蒸気装置と比べ、非常に低コストで運用できるものになりました」(加納氏)

 この過熱蒸煎機の活用法を模索する中で、加納氏が見出したのが、“かくれフードロス(※加納氏の造語)”の削減に活かすことだ。コンビニや大手飲食店などで発生する一般的なフードロスは、AI発注システムの導入などもあり減少しつつあるという。しかし、その前段階である食品メーカーや、食品メーカーに野菜を納めるカット野菜工場などでは、いまだに大量の端材が発生しているほか、畑においても規格外の野菜が大量に廃棄されているという。

「調べていくと、小売店などで発生するフードロスよりも、その前段階で発生するかくれフードロスの方が圧倒的に多いことがわかりました。だったら、こちらも減らさないと意味がないではないかと。そこで私たちは、過熱蒸煎機を使って、かくれフードロスとなっている食品を粉末化し、食べられるものとして(市場に)アップサイクルするビジネスを始めようと考えたのです」

タマネギやゴボウなどさまざまな食品の「ぐるりこ®」が作られている(画像提供:ASTRA FOOD PLAN)
タマネギやゴボウなど様々な食品の「ぐるりこ®」が作られている(画像提供:ASTRA FOOD PLAN)

 ASTRA FOOD PLANでは、過熱蒸煎機で殺菌・乾燥し、粉末化したものを「ぐるりこ®」と名付けた。これは、フリーズドライや熱風乾燥などの従来技術で作ったパウダーと比べ、香りが強く、栄養価も高い。これを、高付加価値パウダーとして、市場に投入しようというわけだ。

 なお、かくれフードロスを削減することは、捨てられている食品をアップサイクルするだけでなく、「他にもさまざまな効果が期待できる」と加納氏は強調する。例えば、野菜の端材などを生ごみとして焼却処理するのに比べ、過熱蒸煎機で乾燥処理すると、結果として「CO2の発生を9割ほど減らせる」。また、新たに作物を作るよりも「効率的に食糧を確保できる」ほか、規格外の野菜などを利用することで、農家に新たな収益をもたらし、「生産者の持続可能性も高められる」という。

「かくれフードロスの削減は、一口にフードロスの社会課題の解決というだけではなく、芋蔓式にいろんな課題を解決できる可能性が高いのです」

“食の循環”を実現する2つの事業モデル

 かくれフードロスは「食品工場で出る端材」と「生産者のところで出る規格外農産物」の2つに大きくわかれるため、ASTRA FOOD PLANではそれぞれに対応したビジネスモデルを用意している。

 食品工場向けに展開しているのが、「過熱蒸煎機レンタル・販売&ぐるりこ®買い取りモデル」だ。これは、過熱蒸煎機を食品会社にレンタル・販売し、その工場内で製造してもらったぐるりこ®を、ASTRA FOOD PLANが買い取り、市場に流通させるというものだ。このモデルは、牛丼チェーン・吉野家の食品工場で出るタマネギの端材を「タマネギぐるりこ®」として市場にアップサイクルするなど、すでに導入事例があるという。

 もう一方の、生産者の規格外農産物については、「地域の食の循環型モデル」を構想している。

「地域の食の循環型モデル」では、まず地域の農産物を扱うJA(農業協同組合)などの事業者が、農産物を生鮮品として流通させるための従来の規格のほかに、パウダー原料としての規格を設ける。そうすることで、これまで捨てられていた(規格外の)農産物も集荷できるようになる。集荷後は過熱蒸煎機を用いてぐるりこ®を製造、それを地域の飲食店や給食業者などに販売する。

「これにより、規格外農産物が地域で循環し、消費されていく仕組みを作ろうとしています」

 この「地域の食の循環型モデル」の実現に向け、現在、加納氏らが注力しているのが「埼玉 食のサーキュラーエコノミープロジェクト」だ。これは、埼玉県の「サーキュラーエコノミー型ビジネス創出事業補助金」に採択された取り組みで、県内でこれまで廃棄されてきた規格外農作物などを、過熱蒸煎機を用いてぐるりこ®にし、大学や自治体、JA、商工会などと連携して商品化するというものだ。

 具体的には、女子栄養大学や日本薬科大学の学生が、ぐるりこ®を使うレシピを開発し、2024年3月まで富士見市内の飲食店で販売している。地域の小中学校の給食メニューにも取り入れられ、加納氏らが実施する食育プログラムとともに提供された。

「埼玉 食のサーキュラーエコノミープロジェクト」の全体イメージ(画像提供:ASTRA FOOD PLAN)
「埼玉 食のサーキュラーエコノミープロジェクト」の全体イメージ(画像提供:ASTRA FOOD PLAN)

「今回の取り組みについては、今年3月末で一旦終了となるものの、次年度も補助金に申し込み、プロジェクトを続ける予定です。また今回は、富士見市を中心とした循環でしたが、次は埼玉県内の大手食品メーカーや小売業者などともつながり、県外にも販売拠点を広げるなど、活動の幅を広げようと考えています。ちなみに、地域活性化とSDGsをからめた取り組みに関心を持つ自治体も増えており、すでに他の自治体などからも、一緒に活動できないかと相談を受けています」

 今後の展望を尋ねると、「直近の目標は、すでに過熱蒸煎機を導入している事業者が作るぐるりこ®を売り切ること」との答えが返ってきた。

将来展望を語る加納氏
将来展望を語る加納氏

「ぐるりこ®が足りなくなる時期がすぐに来ると思います。そうなれば、過熱蒸煎機を導入してくれる次の拠点(食品会社)をどんどん増やそうと考えています。食品会社向け過熱蒸煎機レンタル・販売モデルを横展開することで、これまで捨てていた食品がきちんとお金になり、事業化することが、近い将来の展望です。さらにその先は、ぐるりこ®の用途を食品以外にも広げ、より多く消費する仕組み作りにも注力したいです」

 父の加納勉氏は、ASTRA FOOD PLANの相談役として、事業が堅調に拡大する様子を、目を細めながら眺めているそうだ。親子2代にわたる“夢”が叶い、フードロスの削減が大きく前進することを期待したい。

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有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。