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食品ロスはコロナ禍でどうなったのか フードシェアアプリ「TABETE」開発者に聞く

食品ロス削減につながるフードシェアリングアプリ「TABETE」の利用イメージ(画像提供:コークッキング)

食品ロス削減につながるフードシェアリングアプリ「TABETE」の利用イメージ(画像提供:コークッキング)

 まだ食べられるのに食品が捨てられてしまう、いわゆる「食品ロス」の問題が広く知られるようになって久しい。2019年10 月には「食品ロスの削減の推進に関する法律(食品ロス削減推進法)」が施行され、社会的関心もより高まったように感じられる。

 しかし、一消費者の立場になると、日々の生活の中で食品ロスを意識しながら食品を買うのは意外と難しい。また、企業や飲食店側も簡単に対応できるものではないだろう。

 こうした食品ロスの問題に、「TABETE(タベテ)」というスマートフォンアプリで取り組むのが、株式会社コークッキング(本社:埼玉県東松山市、2015年創業)だ。

 同社はフードシェアリングアプリ「TABETE」で、食品ロスになってしまいそうな食品を抱える店舗と、食品ロスの削減に関心がある消費者をマッチングし、食品ロスの削減につなげている。

 今回は、同社取締役CPOの伊作太一氏に、「TABETE」の事業内容に加え、コロナ禍で食品ロスの状況がどう変化し、そこに同社がどう対応したのかを聞いた。

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「TABETE」の利用画面(画像提供:コークッキング
「TABETE」の利用画面(画像提供:コークッキング

「TABETE」とはどのようなアプリなのか。伊作氏によると、「まだ安全に食べられるけれども売り切るのが難しい食品を、捨てなくて済むようにするソリューション」だという。

 その具体的な使い方はこうだ。まず店側は、売り切るのが難しい商品が発生する可能性があるときに、管理画面上から、食品ロスになりそうな商品を「レスキュー依頼」という形で出品する。

 消費者側は、アプリを立ち上げると自分がいる場所を中心に、レスキュー依頼がある店舗の一覧が表示されるので、帰宅時などに立ち寄れそうな店舗の「レスキュー依頼」を探し、事前予約と決済を済ませ、指定した時間に商品を引き取りに行く。ちなみにレスキュー依頼が出ている商品の多くが「福袋形式」で販売されており、単品に比べ、安く設定されている。

 こうした仕組みにより、ロスになりそうな食品を抱える店舗と、食品ロス削減に関心がある消費者をマッチングし、食品ロスの効率的な削減につなげているという。

 伊作氏によると、現在「TABETE」を利用する飲食店の大多数を占めているのは、「弁当屋やパン屋、惣菜屋などの、いわゆる中食(なかしょく)を扱う店」だという。

「中食を扱う店では、ディスプレイに商品がたくさん並んでいないと、『品ぞろえが悪いからやめよう』とお客さんが来店せず、機会損失につながることが多いと言われています。そのため、廃棄を見込んだ上で、商品を多めに並べる傾向があり、その余剰分を、なんとか最後まで売り切れるようにできないかと、現在は、中食業態の店舗様に注力させてもらっています」

消費とビジネス、両方のアップデートを

株式会社コークッキングCo-founder:取締役CPO 伊作太一氏
株式会社コークッキングCo-founder:取締役CPO 伊作太一氏

 コークッキングが「TABETE」を提供する狙いはどこにあるのか。伊作氏は、「消費者の購入意識」と「食品業界のビジネスのあり方」の2つをアップデートすることが目的だと話す。

 日本は今後、中国やインドなどの食料消費量増加で、輸入に頼っていた食料を十分に確保できなくなるリスクがあると指摘されている。その一方で、「食品ロス」が大量に発生するなど、“食”に関するさまざまな矛盾と課題を抱えている。そうした中で、「人と食の関係性を見直す必要がある」と伊作氏らは考えた。

「その中でまずは、自分が何にお金を払い、食べ物を得ているのかを意識できる人を増やすことが重要だと考えています。『TABETE』で食品を買うということは、消費に“食品ロスを削減する”という意味を付けることできます。そういう意味のある消費を、日常生活でそんなに頑張らなくてもできる方法を提供することで、消費に対する意識のアップデートにつながればと考えているのです」

 一方、現在の食品業界は「薄利多売で、付加価値を作りづらい上、長時間労働などのさまざまな問題を孕む傾向にある」とし、「そうしたビジネスのあり方を脱却し、より効率よく収益を上げる方法を作っていく必要がある」とも指摘する。

「そのための第一歩として、まずは(食品ロスなどで)無駄になっているところをコスト回収できるようにし、食品業界のビジネスのあり方をアップデートできればとの思いもあります」

コロナ禍で食品ロスは変化したのか

 コークッキングが「TABETE」のサービスを開始したのは2018年だ。当時は食品ロスへの関心が高まっていたこともあり、大きな注目を集めた。しかし2020年からの新型コロナウイルスの感染拡大で、飲食業界は大きな影響を受けている。その中で、食品ロスや「TABETE」を取り巻く状況はどう変化しているのだろう。

 まず、最初の緊急事態宣言が出された2020年4月頃の状況について、「問い合わせが急に増えた」と伊作氏は振り返る。

「当時は業界全体で流通が滞っていた他、飲食店に卸していた業者さんが卸先をなくしてしまうなど、いたるところで食材が行き場をなくしていた時期でした。そうしたときに我々が食品ロスに関する活動をしていたこともあり、飲食店からの問い合わせが急に増えました」

 当初月10件ほどだった問い合わせが、コロナ禍以降は、月100件から200件まで増えたという。しかし、その勢いは同年夏に一旦終息する。

「最初の緊急事態宣言が終わった頃に、(コロナ禍もこれで終わり)そろそろ元の状態に戻りそうだという雰囲気になりました。そのときに新規で入ってきていた飲食店が一気に離脱したのです」

 実はこのことが、同社が中食業態の店舗をメインターゲットに据えるきっかけになったという。

「一般の飲食店では、日々のロスを福袋など別の形にして売るのが難しいようでした。その中でも、ちゃんと(TABETEの利用数が)伸びている店の特徴を見ていくと、もともと商品を作って並べていたパン屋などの中食業態の店だったのです。こちらの方が我々のプロダクトにフィットしているのであれば、営業リソースをこちらに集中した方が、食品ロスを効率よく減らことにもつながるだろうと。中食を扱う店舗様に注力するようになってから、最初の緊急事態宣言解除後に停滞していた『TABETE』の利用数が、安定的に伸び始めました」

 コロナ禍におけるユーザーの動向については、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が実施されるたびに、利用数が増える傾向にあるという。

「緊急事態宣言やまん防が実施されるとリモートワークになる人が多く、家の近くの飲食店で食品をレスキューしてくれる人が増えるようです」

 食品ロスの国内全体の量については「減少傾向にある」という。ただそれは、コロナ以前からの「国民運動的な取り組み」が主な原動力となっており、「(TABETEに関心を集める一因にはなったものの)コロナ禍で大きく潮目が変わることはなかった」と感じているとのことだ。

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 今後コークッキングでは、利用店舗をさらに増やし「まずは全国どこでも(密度高く)『TABETE』が使えるようにしていく」という。

 さらに、「現在は余ってしまったものを売り切る対処療法的なソリューション」になっているが、今後は先端技術も取り入れ、「そもそもどうしたら食品ロスの発生を抑制できるか」といった根本的な解決につながる仕組みも開発していく予定とのこと。

 同社の取り組みが、大きな成果につながることを期待したい。

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有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。