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植物ゴミから内装空間を全自動で作る 国内スタートアップの新インフラがもたらす建築の未来

株式会社Spacewaspが提供する植物由来の内装空間のイメージ(以下全画像の提供:Spacewasp)

株式会社Spacewaspが提供する植物由来の内装空間のイメージ(以下全画像の提供:Spacewasp)

 現在、建築の内装工事を担う業界では、高齢化や人口減少による技能者不足や建設コストの上昇、工期の長期化が大きな課題となっている。加えて、世界的な環境意識の高まりから、環境対策や持続可能な資材の利用が強く求められるようにもなった。

 こうした課題を、植物由来の内装素材および内装空間を全自動で提供することで解決しようと試みるスタートアップが登場した。それが、2022年に岐阜県岐阜市で設立された株式会社Spacewasp(スペースワスプ)だ。

 同社は、さまざまな産業から排出される植物廃棄物から内装素材を作り、内装を必要とする事業者に提供することで、植物と内装をつなぐサーキュラーエコノミーを構築しようとしている。

 代表取締役の伊勢崎勇人氏に、同社が開発しているサービスの内容と展望を聞いた。

植物と内装を結びつける建築の新インフラ

「当社のターゲットは2つあります」Spacewaspの事業について尋ねると、伊勢崎氏はこう切り出した。

Spacewasp代表取締役の伊勢崎勇人氏
Spacewasp代表取締役の伊勢崎勇人氏

 ターゲットのひとつはホテルやオフィス、店舗、展示会、住宅など内装空間を必要とする事業者。もうひとつが、農業、林業、食品加工業、運輸業(木製パレットを扱う)など大量の植物廃棄物(植物ゴミ)を出している事業者だ。

「この両者を結びつけ、各々の課題解決につなげるのが、当社の事業の立ち位置です」(伊勢崎氏)

 では具体的にどのようなソリューションを開発しているのか。伊勢崎氏によると、開発しているものは2つあり、そのひとつが「植物ゴミから内装素材(内装、家具、建材)を作り出す全自動型の工場」だという。

 ここでいう植物ゴミとは、木屑や植物の茎・根、野菜残渣(ざんさ)、木製パレットや古紙、空き家の木材などを指す。同社の工場では、こうした植物ゴミを粉砕し、特殊な工法によって樹脂製の内装素材を作り出している。

「植物ゴミを出す事業者は、企業によっては、年間数億円も払ってゴミ処理をしているところもあります。それが当社のソリューションを活用いただくことで、ゼロになります。さらに、『(植物ゴミを再利用することで)持続可能性の向上に貢献している』というストーリーを事業イメージに加えられるというメリットもあります」(伊勢崎氏)

 もう一点、注力しているのが「内装空間を施工するための仕組み」作りだ。

 内装を作るための素材を生み出せても、それだけでは内装空間は施工できない。そこで伊勢崎氏らは、(サービス利用者が)空間を3Dスキャニングし、生成AIを使うなどして内装空間を3Dデザインすると、そのデータが自動分割されて、複数の3Dプリンターで製造が開始され、そのパーツが内装現場に運ばれる仕組み(プラットフォーム)を構築しようとしている。

「このパーツを使って、現場ではプラモデルのように簡単に内装空間を組み立てられるようになります。そこに高度な職人技術はいりません。極論、アルバイトでも組み立てられるものになるでしょう。しかも短期間にできて、自由度も高い。そういった内装業界の新しいインフラになり得るものを開発しています」(伊勢崎氏)

 内装空間を必要とする事業者が享受できるメリットとしては、まず専門家がいなくても、建築物の中に内装空間を作れることだ。さらに植物ゴミを出す事業者同様に、植物を原料にした内装空間を作ることで自社イメージの向上にもつなげられるだろう。

 さらに興味深いのは、植物から作った内装空間は樹脂素材でできているため、熱を加えて変形させると、他の内装空間に作り変えることができるという点だ。つまり、一度店舗の内装空間を作ったあとに、オフィスにしたり、住宅にしたり、内装素材を使い回すことができるというわけだ。当然コストも下がり「最初を100とすれば、その3割程度のコストで作り直せる」とのこと。

「しかも最終的には(植物の栄養素として)自然に戻せるのでゴミも出ません。こうした新しい価値を複数提供できるソリューションになると期待しています」(伊勢崎氏)

Spacewaspが開発するソリューションの全体イメージ
Spacewaspが開発するソリューションの全体イメージ

2026年前半には工場を完全自動化

 伊勢崎氏が現在の事業の原点を見出したのは、大学で建築学を学んでいた頃だという。通常、建築学科の学生は建築物を考え提案するものだが、伊勢崎氏は「自然と建築のつながりに強い興味があり、サーキュラーエコノミー的な仕組みを考え、提案していた」とのこと。

 大学卒業後、大手設計事務所を経て、設計事務所や建築3Dプリンターの会社を立ち上げたが、関心は常に「建築業界の新しい動きや課題」に向いていた。それに加え、近年の地球環境の変化に危機感を覚えたことが、Spacewasp設立のきっかけになったという。

「(環境変化には)肌で感じる危うさというものがあって、大量の産業ゴミを出している建築に携わる身として、責任を強く感じました。また将来、我々の子ども世代が環境変化の責任を負わされることを考えると、今のうちにできることは全てやらないといけないと思い、Spacewaspを立ち上げました」(伊勢崎氏)

 ではSpacewaspが開発しているサービスは、現在どういった開発段階にあるのだろう。

 伊勢崎氏によると、「植物ゴミから内装素材を作り出す工場」については、「自社で全ての工程を回せているが、まだひとつの工場としてはまとまっていない」とのこと。

「これらの工程を、次の資金調達(2025年春に実施予定)をした段階で、ひとつの大きな工場を作り、その中に全てまとめようと考えています。さらに、全工程をシステム化して連携させることで、2026年頭ぐらいには全自動型の工場(プロトタイプ)が稼働する予定です」(伊勢崎氏)

 もうひとつの「内装空間を施工するための仕組み」作りも並行して進めており、工場と同じタイミングでの実運用を目指していくという。

「プロトタイプの工場ができた後は、国内7カ所(大量消費地の近く)に工場を作る予定です。さらにその先にはこれを横展開し、グローバルに事業を展開していこうと考えています」(伊勢崎氏)

 ちなみに現段階での事業状況はというと、住友不動産株式会社(本社:東京都新宿区)のインキュベーションオフィス「GROWTH文京飯田橋」や、STATION Ai株式会社(本社:愛知県名古屋市)が運営するオープンイノベーション拠点「STATION Ai」にSpacewaspの製品が納品されるなど、「利用が全国に広がっている」と伊勢崎氏は胸を張る。

「これまでは石油由来の内装素材を使い、多少有害なものが出ても仕方ないといった価値観がありました。しかし、これは今後、再利用できるもの、サステナブルなもの、人体に優しいものを使おうという方向に変わっていくと思います。その中で、我々の植物から内装を作るシステムが建築の新しいインフラとして存在している。そんな世界を実現できればと考えています」(伊勢崎氏)

 実は伊勢崎氏らはすでに海外進出の先の展開も見据えている。近年、宇宙産業が大きな進展を見せているが、宇宙で育てられた植物の廃棄部分を使った内装素材の開発・提供も視野に入れているのだ。

 内装空間というものは、人が生活をしていくうえで常に身近にあるものだ。これが植物由来のものであれば、多くの人が心地よさを感じることは間違いないだろう。宇宙にまで広がるSpacewaspのビジョンが、早々に実現することを期待したい。

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有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。