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空港アクセスの新たな手段にも 片道レンタカー「カタレン」の目指す先は

アウトレット片道レンタカーのマッチングサービス「カタレン」(画像はイメージです)

アウトレット片道レンタカーのマッチングサービス「カタレン」(画像はイメージです)

 東京から関西方面に旅行するときに、多くの人が移動手段として選ぶのは新幹線だ。しかし、片道だけレンタカーを借りて、道中さまざまな寄り道をし、観光を終えたら、帰りは新幹線といった旅行もあっていいだろう。

 だが一般的なレンタカーでは、車両を片道だけ利用する場合は、乗り捨て(ワンウェイ)料金が加わるので割高になる。そのため、日本ではこうした自由な旅行に踏み切る人は少ないのが実情だ。

 そんな中、片道専用レンタカーのマッチングサービス「カタレン」を開発・提供し、堅調に成長を続けるスタートアップがある。それが、2020年創業のPathfinder株式会社(東京都渋谷区)だ。

「カタレン」は、出発店舗・返却店舗が固定された片道専用のレンタカーとユーザーをマッチングするサービスだ。ユーザーはレンタカーを片道利用できるうえ、乗り捨て料金を大幅に削減できる。2022年3月のベータ版サービスの開始から着実に利用者数を伸ばし、現在登録者数は当初の約10 倍にまで増えている。

「カタレン」ではなぜ乗り捨て料金を削減できるのか。どのような事業戦略や展望を描いているのか。同社代表取締役の小野崎悠介氏に話を聞いた。

これでまでにない“三方よし”のビジネスモデル

Pathfinder代表取締役の小野崎悠介氏(画像提供:Pathfinder)

 現在、レンタカーを片道で利用する人は少なく、直近一年だと、全ユーザーのうち10%ほどしかいない。その理由は「乗り捨て料金が高いから」だと小野崎氏は指摘する。

「例えば、一般的なレンタカー会社で、一泊二日で普通車を借りると1万円ほどかかります。しかし、例えば東京で借りて京都の営業所で返すとなると、プラス3万円ほど乗り捨て料金が上乗せされます」(小野崎氏)

 この料金設定には正当な理由がある。日本では車庫法(「自動車の保管場所の確保等に関する法律」)によって、車両の保管場所は、営業所などの“本拠地から2km以内”と定められている。そのため、東京で登録されたレンタカーが京都で乗り捨てられた場合は、レンタカー会社は一定期間内に回送業者に依頼し、東京の営業所に戻す必要がある。この回送コストが、ユーザーが支払う料金に上乗せされるのだ。

 この状況は、レンタカー会社側にも不利益をもたらす。「車両の移動コストが高い」がゆえに、地域間で車両を融通できない。それが「車両の稼働率の低下」を招いてしまう。こうしたレンタカー会社が抱える課題と、ユーザー側の課題を一挙に解決するのが「カタレン」だと小野崎氏は説明する。

「カタレン」の特徴は、「車両を移動してほしい」レンタカー会社側のニーズと、「レンタカーを片道だけ利用したい」ユーザー側のニーズをマッチングさせる点にある。つまり、小野崎氏らは、レンタカー会社から「移動してほしい車」や「戻さないといけない車」の情報を集め、それらのルートに合致する「片道利用したいユーザー」に “アウトレットレンタカー”として安価で貸し出しをしている。これにより、レンタカー会社側は「車両の移動コストを低減」でき、ユーザー側は「片道レンタカーを安く利用できる」ようになるというわけだ。

「『カタレン』のビジネスモデルは、レンタカー会社、ユーザーの双方にメリットをもたらします。さらに当社も両方から収益を上げる仕組みとなっており、いわゆる“三方よし”のモデルとなっています。こうしたビジネスモデルはこれまでなく、我々は特許を取得しています」

「カタレン」のビジネスモデル(画像提供:Pathfinder)

 なお、レンタカー車両の回送は「全国合計で年間約576万回」も行われており、「非常に大きなニーズがある」と小野崎氏は自信を見せる。

「通常のレンタカー会社が”動脈”だとしたら、我々は”静脈”のようなものになり、ぐるぐる回せるようになればと考えています。これにより、いろんなところへの車の回遊性・誘導性が高まることを目指しています」

新たな空港アクセスの実現に向けて

 小野崎氏らは「カタレン」のサービスを、人口密度が高く、片道のレンタカーニーズが多い東名阪(東京、名古屋、大阪)間と首都圏からスタートした。さらにこの先は、空港間移動や縦断・横断のニーズが多い北海道や九州での事業展開を経たうえで、「その他の地方にも拡大していく」基本戦略を描いているという。

「カタレン」の事業展開で特に興味深いのが、空港と提携したサービスの構築に力を入れている点だ。Pathfinderと成田国際空港株式会社(千葉県成田市)およびレンタカー事業などを手掛ける株式会社MIC(神奈川県横浜市)は、成田空港内の駐車場と東京や横浜などの主要都市を結ぶ「カタレン」の実証実験を2022年10月より開始。その良好な結果を受け、今年(2024年)10月から本格的な事業「成田空港専用片道レンタカー(カタレン for Narita)」を開始した。

 小野崎氏は、本プロジェクトが実運用に漕ぎつけられた主な理由として「既存の交通機関との棲み分けができた点」をあげる。

 空港では日中だけでなく、深夜や早朝のフライトも行われている。しかし、電車やバスは深夜早朝には動いておらず、深夜早朝にフライトがある人は早めに移動し、空港内で長い時間を潰すといったことが頻繁に行われている。こうした時間帯に空港を利用する人から、24時間利用できる「カタレン」は高い評価を受けたというわけだ。

「現在、成田空港様では、新しい滑走路(C滑走路)を作っており、それが完成すると、空港利用者がさらに増えることが予想されます。そうした中で、当然、今以上に深夜早朝の移動ニーズが増えることが想定され、我々のサービスがそうしたニーズに合致するのではとのご期待をいただいています」

事業拡大の“スピード”に課題も

 複数の大手レンタカー会社と提携するなど、「カタレン」は順調に事業を拡大している。しかし、小野崎氏は「(地方での)事業の拡大スピードを加速できない」ことに課題を感じていると話す。

「まず現時点では、あまりニーズが多くない地方から地方への片道レンタカーのマッチングは難しいというのが実情です。加えて、大手のレンタカー会社様は、実は全てが直営ではなく、地方ではほとんどがフランチャイズ経営となっています。このため、大手のレンタカー会社様と提携を結んだとしても、その後に、地方のフランチャイズ経営の会社さん一社一社から了承を得ていかないといけません。このため(地方では)、一気に事業を広げる形に持っていきにくい、というのが懸念点としてあります」

 この課題の解決のために小野崎氏らが取り組もうとしているのが、車両の回送業者の取り込みだ。先述したように、片道使用されたレンタカーはナンバーが登録された地域に車両を返す必要があるが、その回送作業を担っているのが回送業者だ。「カタレン」は言ってみれば、この回送業をディスラプト(破壊)する側だが、先にこの回送業者を傘下に取り込んでしまい、変革スピードを一気に加速するのが狙いだという。

「時間がかかるとはいえ、すでに大手レンタカー会社様の了承は得ているので、いわゆる参入障壁はありません。少なくとも日本市場においては、少し時間をかければ十二分に獲っていけると確信しています」

見据えるのは、MaaS×自動運転の世界

 もう一点興味深いのが、小野崎氏らが「カタレン」の事業拡大の先にMaaS(Mobility as a Service)や自動運転社会の実現を見据えていることだ。

 MaaSとは、複数の交通手段を最適に組み合わせ、検索や予約、決済を一括で行える交通サービスのことだ。その代表的なものはGoogleマップだが、現時点では、電車や飛行機などはルートに提示されるものの、レンタカーやカーシェアを利用した移動手段は提示されない。なぜなら、日本ではレンタカーやカーシェアの片道利用が一般化されていないからだ。

 この「欠けているラストピース」を埋めるのが「カタレン」だと小野崎氏はいう。つまり「カタレン」が普及することでレンタカーの乗り捨てが一般化し、MaaSの実現に近づけられるというわけだ。

「(Googleマップの)ルートにレンタカー利用を表示することは、地方の観光地で実証実験を行う予定があります。あるタクシー空白地帯でのルート検索で、カーシェア併用ルートを提示できるようにしていく予定です」

 さらに小野崎氏らはMaaSの先、MaaSと自動運転を掛け合わせた社会の実現も視野に入れている。「カタレン」の仕組みや、蓄積された移動データは自動配車を最適化する基盤になると考えている。「(最終的に)我々はそこを狙っています」と力強く述べた。

Pathfinderのビジョンイメージ(画像提供:Pathfinder)

 まず片道レンタカーのサービスを提供し、そこで蓄積された移動データを将来のMaaSや自動運転社会の実現につなげる試みは非常にユニークで面白い。海外では、レンタカーの配車や乗り捨て後の回収に、自動運転や遠隔操作技術を導入する試みが進んでいる。日本でも小野崎氏らのビジョンがいち早く実現し、移動がより自由なものとなることを期待したい。

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