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“自衛隊の学校“で起業を決意 家庭教師のオンライン化で社会課題の解決を目指す

「オンライン家庭教師マナリンク」を運営する株式会社NoSchoolの徃西聡氏

「オンライン家庭教師マナリンク」を運営する株式会社NoSchoolの徃西聡氏

 コロナ禍を機にオンライン会議やリモートワークが一般企業に広まったが、教育の領域にもオンライン化の波が押し寄せている。家庭教師も例外ではない。

 従来の家庭教師は、教師が生徒の家庭に出向き、対面授業を行うものだった。それがここ数年、zoomやGoogle Meetなどの会議システムを使って授業を行うオンライン家庭教師が増えている。

 こうした流れを受けて、家庭教師と生徒をオンライン上でマッチングするプラットフォームも登場。その中で、社会人(プロ)の講師に特化したオンライン家庭教師サービスを提供し、堅調に成長するスタートアップがある。2018年創業の株式会社NoSchool(東京都文京区)がそれだ。

 同社が提供する「オンライン家庭教師マナリンク」(以下、マナリンク)は、現在、登録講師670名以上、累計授業数6万件以上に達するなど順調にユーザーを増やしている。同サービスの特徴や開発の経緯、今後の展望を、同社CEOの徃西聡(おうにし あきら)氏に聞いた。

生徒、教師、双方の課題を解決するために

「マナリンク」開発の背景には「生徒、教師がそれぞれ抱える社会課題がある」という。

インタビュー中の徃西氏
インタビュー中の徃西氏

「まず生徒側には、地理的、あるいは環境的な制約により、上質な教育にアクセスできない子がたくさんいます。例えば地方に住んでいて、周りに予備校や塾がない。あるいは、部活が夜遅くまであり、帰宅後に塾に通うのが怖い。または、共働きで、お子様が家庭教師と二人きりで自宅で過ごすことにリスクを感じる保護者もいらっしゃいます。我々は、自宅で受けられるオンライン授業を提供することで、そうした生徒(保護者)側の課題を解決できればと考えています」(徃西氏)

 一方、教師側も「環境や地理的な要因で教育者としてのスキルを活かせない」課題を抱えており、これも解決につなげたいと徃西氏は話す。

「例えば、もともと学校の先生をしていたけれど、子育てを機にキャリアを断念せざるを得なくなった。あるいは定年退職された先生でセカンドキャリアを求めている。または元塾講師で、今は民間企業で働いていて、副業先を探しているなど、さまざまな想いや課題を抱える教育者がいらっしゃいます。せっかくスキルを持っているのに活かせる場がない。そんな方々に、オンライン上で授業を行える環境を提供することで、やりがいがあり、かつ正当な報酬を得る場を提供したいと考えています」

 では他のオンライン家庭教師サービスとの違いはどういった点にあるのだろう。徃西氏はまず「プロの講師のみが登録できること」を強調した。

 一般的な家庭教師の業界では、大学生のアルバイトが講師を務めることが多々ある。それに対して「マナリンク」に登録できるのは、元教師や塾講師など“教育のプロ”と呼べる人のみとなっている。入り口の部分で審査・面談を行い、「教育熱が高い」と感じられる人だけを採用することで「教育の質の高さを担保している」とのことだ。

 家庭教師を“プロの講師”のみに限定することは、運営面でもメリットがある。大学生の場合、家庭教師として活動してくれるのは、基本的に最長4年となる。しかし、社会人の場合、そうした時間的な制限はないため、「社会人の教師の方が、一人ひとりのLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)が高まり、我々運営サイドとしても助かる」という。

 もう一点、他のサービスとの違いとして徃西氏があげたのが「システムを通じて教師をエンパワーメントしていること」だ。

「マナリンク」では、教師に必ず動画を公開してもらい、教育方針やコンテンツの概要を紹介してもらう他、自分自身で講座内容を作ってもらう仕組みになっている。ただ、それだと全て「教師頼りになってしまう」と徃西氏はいう。

 そこで、例えば冬季集中講座を作った際には、生徒をどう集めるべきかを分析ツールを絡めてアドバイスしたり、あるいは授業後に教師から保護者に授業レポートを提出したりするが、そこにもChatGPTを使ってテキスト作成の効率化を支援するなどさまざまなサポートを施しているという。

「パッと見でわかることではないですが、教師がもっと教えやすくなったり、生徒さんがもっと学びやすくなったりするために、システム側で広くサポートすることにこだわっています」

教師をサポートする分析ツールやAI(画像提供:NoSchool)
教師をサポートする分析ツールやAI(画像提供:NoSchool)

“自衛隊の学校”で芽生えた起業への想い

 徃西氏が起業を考えたのは高校生の頃だ。ただし、一般的な高校ではなく、陸上自衛隊少年工科学校に所属していた。

「入学した途端に全寮制で男子は丸坊主で毎日走るといった日々でした。もちろん公務員を否定する気は全くありません。ただ、私としては、そのときにこの先の人生が決まってしまったようで、大きな焦燥感がありました。もっと広い世界で何かにチャレンジしようと考え、25歳で起業することを決めました」

 学校を卒業した徃西氏は、実務経験を積むためにスタートアップに入社。マレーシアに約4年駐在し、新会社を立ち上げるなどさまざまな経験をしたのち、25歳で独立、教育分野で起業した。

「特に教育分野にこだわっていたわけではありません。ただ、その瞬間、瞬間の価値提供で終わるより、『あれがあったから今の自分があるのだな』など、のちのちユーザーに思い出してもらえるようなサービスを作りたいなと。人生の節目にタッチでき、自分のインターネット経験が活かせるものを考えたときに、自然と教育分野が頭に浮かんだのです」

 実は徃西氏は、一度ピボット(事業を方向転換すること)している。最初に立ち上げたのは、「勉強に特化したQ&Aサービス(知恵袋)」だった。

「いろんな質問に対して回答するのは、塾講師や元教師の皆さんです。少しひねっていたのは、弁護士ドットコムさんみたいに、回答を見るなら、会員登録300円が必要としていたところです」

 多数の回答が集まり、トランザクションも増えた。しかし、肝心のマネタイズの部分がうまく機能せず、現在のオンライン家庭教師の事業にピボットすることを決めたという。

「以前の事業でひとつ発見だったのは、たとえ無料であっても回答してくださるような熱心な先生は世の中にたくさんいると気づいたことです。今『マナリンク』でマッチングサービスをしていますが、通常マッチングを始める際にはユーザー集めで苦労するものですよね。しかし『マナリンク』を始める際には、実はQ&Aサービスの事業で回答をしてくれていた先生が、最初から50名ほど参加してくれたのです。これにより、非常に良いスタートを切ることができました」

ユーザー増で新たなリスクも?

 徃西氏らが「マナリンク」をローンチしたのは2020年だ。コロナ禍と重なり、ユーザー数が伸びた。コロナ後も順調にユーザー数が増えている。

 だが、この先さらにユーザーが増えていくことで「新しいリスクが生じるかもしれない」と徃西氏は表情を引き締める。それは「教師と生徒のミスマッチだ」だ。現時点では、システムの細やかな部分にまで気を配り、ミスマッチが生じないよう工夫を徹底している。しかし、この先利用者数が増え、ニーズが多様化すると、現状のままでは、どうしてもミスマッチが生じる可能性があるという。

 その対策をいろいろと模索中だが、例えば、生徒や保護者が教師を選ぶ際に第三者的な視点を持つAIがアドバイスをしたり、授業を行う教師側にもAIがアドバイスしたりと、何か補助的な形でサポートできればと構想しているとのことだ。

「今後の展開としては、とにかく愚直に今のサービスを伸ばしていきたいと考えています。オンライン家庭教師サービスの業界の中で、まだ私たちがトップというわけではありませんので。まずは、ここでNo1を取れればと思います」

 いくらAI技術が進歩しても、人手による教育へのニーズが消滅することはないだろう。ただ、その提供の仕方、享受の仕方は、この先どんどん変化していく必要はあるかもしれない。徃西氏らのサービスがどのような変化を見せていくのか、今後も注視したい。

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有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。