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個人でも空き家活用ビジネスを 「最初の一歩」を後押し 「AKIYA Revolution」近日登場

イメージ図(本文とは関係ありません)

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 総務省の「令和5年住宅・土地統計調査」(2023年10月実施)によると、日本国内の空き家は900万戸を超え、増加の一途をたどっている。この状況を改善しようと、空き家をリノベーションして新たな事業を始める動きも見られるが、その多くが不動業者や建築業者によるものであり、個人や小規模事業者にはまだ浸透していないというのが実情だ。

 そんな中、空き家を活用した事業を始めたい個人や小規模事業者に“最初の一歩”を踏み出すきっかけを提供するサービスの開発が始まっている。湘南エリア(鎌倉市、逗子市、葉山町など神奈川県南西部の相模湾沿岸地域)を中心に不動産仲介、建築、まちづくり、空き家再生・利活用に取り組む株式会社エンジョイワークス(本社:神奈川県鎌倉市)が手掛ける「AKIYA Revolution」だ。

「AKIYA Revolution」は、エンジョイワークスと一橋大学ソーシャル・データサイエンス研究科の清水千弘教授などが合同で開発するレコメンドサービスで、対象となる空き家の住所を入力すると、おすすめの活用用途や事業計画を立てるための情報を提示してくれる。

 同サービスの仕組みや開発の狙いを、エンジョイワークス取締役の唐沢優氏に聞いた。(記事内の情報は2025年4月1日時点のものです)

空き家活用の“民主化”を目指して

 唐沢氏によると、空き家をリノベーションして店舗や宿泊施設として活用したいと考える個人や小規模事業者は少なくない。

 しかし、実際に空き家の利活用を始めようとしても「自分がやりたい事業は、(用途地域的に)受け入れられるのか」「リノベーション費用がどのぐらいかかるのか」「ちゃんと儲かるのか」「持続可能なのか」といったことを判断できないケースも多い。また、事業計画を立てるには複数の専門家と相談しながら多様な情報を集める必要があり、多くの手間と時間がかかることがネックになっているという。

 そうした悩みを抱える個人や小規模事業者に、空き家の「最適な利用方法」や「事業計画を立てるための情報」をワンストップで提供するのが「AKIYA Revolution」だ。

 現時点で想定されている利用方法は以下の通り。まず対象となる空き家の住所を入力して「検索」ボタンを押すと、その物件の最寄り駅や周辺の人口に加え、「カフェ」「宿泊施設」「シェアハウス」といったその物件で営むことができる事業(用途地域に合致し、営業が許可される事業)が表示される。さらにそれらの事業の中から「最もおすすめの事業」も表示される。

「『その物件のおすすめ事業はカフェですよ』といったレコメンド情報と、その事業を行なった場合の『収益率』も提示する予定です」(唐沢氏)

 さらに興味深いのは、シミュレーションをもとにした家賃や人件費などを含む「月額費用」や「月額利益」の目安なども表示され、事業計画書の立案にも役立つ点だ。

「このように『おすすめの事業』や『収支シミュレーション』が一斉に出てくると、より現実味が増して『(空き家を活用した事業を)本当にやってみようかな』という気持ちが高まると思うのです。こうした形で、空き家を活用したい個人や小規模事業者の背中を押すようなサービスに仕上げたいと考えています」

「AKIYA Revolution」の開発イメージ(画像提供:エンジョイワークス)
「AKIYA Revolution」の開発イメージ(画像提供:エンジョイワークス)

背景にあるのは、これまでの歩み

 なぜ唐沢氏らは「AKIYA Revolution」の開発に着手したのか。その背景には、エンジョイワークスのこれまでの事業の積み重ねがあるという。

 2007年の創業以来、同社は「みんなでまちづくり」をテーマに掲げ、地域住民がライフスタイル(暮らし方、働き方、生き方)を自ら考え、選択できるような仕掛けを提供し、(地域の課題解決に向けて)共創を促すような5つの事業を展開してきた。唐沢氏らはこれを「不動産業1.0」から「不動産業5.0」という造語で表現している。

エンジョイワークス取締役の唐沢氏(画像提供:エンジョイワークス)
エンジョイワークス取締役の唐沢氏(画像提供:エンジョイワークス)

 創業当初に開始した「不動産業1.0」は、湘南エリアを中心に展開する不動産の仲介業だ。対象物件での生活を想起させる自社メディア(「ENJOY STYLE」)を軸に「友人に湘南エリアを紹介するようなスタイル」で営業活動を展開しているという。

 湘南エリアで不動産仲介業をしていると「古民家をリノベーションしたい」という要望を受けることが少なくない。そこで同社は「不動産業2.0」として設計事務所(エンジョイワークス一級建築士事務所)の運営にも着手した。

 家の設計を始めると、今度は近隣住民とのコミュニケーションが必要になる。これを受けて同社は「Good Neighbors」という子会社を作り、宿泊施設やカフェ、シェアハウスなどの施設運営や場のプロデュースも手掛けるようになった(「不動産業3.0」)。

 2018年に、国交省が「小規模不動産特定共同事業者」という新しい許認可制度を開始した。いわゆる街の不動産業者でも、小口の投資資金を活用して古民家や空き家などの利活用に取り組めるようになるものだが、同社はこの認可をいち早く取得。そのうえで「不動産業4.0」として、遊休不動産活用のための資金調達プラットフォーム「ハロー!RENOVATION」を開発した。これは、空き家などを利活用したい事業者向けの投資型クラウドファンディングで、全国各地に利用が広がっている。

「複数の施設を自分たちでリノベーションしていく中で、銀行からの借り入れだけではない資金調達の手法が必要だと痛感しました。(他の事業者にとっても)このお金の問題を解決するソリューションがない限り、日本の空き家問題は解決しないのではと考え、ファンド事業を始めたというわけです」

 そして現在は、まちづくりを担う「人」を育て、幅広い「ネットワーク」を構築しようと「不動産業5.0」を開始。まちづくり人材を輩出するための「次世代まちづくりスクール」と、全国の同業者とつながるための業界団体「#新しい不動産業研究所」の活動を始めている。

「このように当社は『不動産業1.0』から『不動産業5.0』へと不動産業の領域を拡大させながら、(地域の課題解決に向けた)共創を促すさまざまな仕掛けや機会を提供してきました。しかし、個人や小規模事業者に空き家でのスモールビジネスを促す仕掛けがまだ足りていません。そこで着手したのが今回の『AKIYA Revolution』というわけです」

各地のデータをどう入手するのか?

「AKIYA Revolution」は今年(2025年)6月に対象物件を湘南エリアに絞ったプロトタイプ版をリリースし、その後全国展開していく予定だという。

 プロトタイプ版では、路線価や公示価格など不動産に関係するオープンデータのほか、「不動産業1.0」から「不動産業5.0」を手掛ける中で蓄積してきたさまざまな自社データをAI(人工知能)に投入することで、サービスの精度を向上するとのことだ。しかし、その後の全国展開では「当社が湘南エリアで蓄積したような地域の詳細なデータの入手が課題になる」と唐沢氏は表情を引き締める。

「この解決には『ハロー!RENOVATION』が鍵になると考えています。このプラットフォーム上で我々と同じような思いを持ち、各地域で事業に携わる方々が全国に増えています。その方々をキーマンとして各地のデータをいただくことも考えられます。また『不動産業5.0』で手掛ける業界団体の参加メンバーとパートナーシップを組みながら、各地のデータを提供いただき精度を上げていくことも、今考えられる道筋のひとつです」

 なお、現時点では「AKIYA Revolution」単体で収益を上げることは考えておらず、同ツールで空き家を活用したいと考えた人が、同社が運営する設計事務所や施設運営など他のさまざまなサービスを活用することで収益を上げられれば、とのことだ。

「全国版のリリース後は、我々が全国すべての空き家を請け負えるわけではありませんので、当社と同じ思いを持つ全国の事業者さんのビジネスにつながっていけばと期待しています」

 唐沢氏はこうした取り組みを通して「最終的には“国民総空き家活用”の状態を目指したい」と話す。国民の多くが空き家活用に関心を持てば、空き家問題の解決だけでなく、地域の起業促進や活性化、地方創生にもつながる可能性が高い。まずは6月に予定されているプロトタイプ版の仕上がりに注目だ。

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有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。