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まずは不動産から 面倒な相続手続きをオンラインでわかりやすく

「そうぞくドットコム不動産」を運営するAGE technologies 代表取締役CEOの塩原優太氏(写真:taisho)

「そうぞくドットコム不動産」を運営するAGE technologies 代表取締役CEOの塩原優太氏(写真:taisho)

 人が亡くなったときの相続手続きは、細かいものまで含めると、数十種類あると言われている。これらは、書類を取得したり作成したりする必要がある上、役所や銀行など対応機関の窓口に提出するものが多く、相続人の大きな負担となっている。

 特に不動産の相続においては、手続きが非常に煩雑であることなどから、相続手続きを放棄するケースも多く、これが所有者不明の土地が多数発生する原因のひとつとなり社会問題となっている。

 こうした相続にまつわる課題を、デジタルの力で解決しようとしているスタートアップがある。それが株式会社AGE technologies(本社:東京都千代田区)だ。

 同社は2020年に、不動産の相続手続き(名義変更)に特化したオンラインサービス「そうぞくドットコム不動産」を開始。このサービスは、不動産の相続登記を義務化する法律(※)が2021年4月に可決されたことを追い風に、利用者が急増している。

※「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案」

「そうぞくドットコム不動産」のサービス構築の経緯やその特徴について、AGE technologies 代表取締役CEOの塩原優太氏に聞いた。

* * *

「そうぞくドットコム不動産」は、相続によって発生した不動産(住宅、土地)の名義変更手続きをオンライン上で行えるサービスだ。主要なサービスは2つあり、そのひとつが戸籍や住民票など相続手続きに必要な書類の取得サービスだ。

 不動産の相続手続きでは、「誰が相続人か」を証明するために、亡くなった人の(生まれてから死亡するまでの)戸籍謄本が必要になるほか、住民票や固定資産評価証明書など、さまざまな証明書類が必要となる。こうした書類は、郵送で取り寄せることもできるが、請求書類を書いたり、支払いのため「定額小為替」を用意したりと手間がかかる。

「そうぞくドットコム不動産」について説明するAGE technologies 代表取締役CEOの塩原優太氏
AGE technologies 代表取締役CEOの塩原優太氏

「こうした作業を、ウェブ上で依頼するだけで完結する新しいサービスを提供することで、ユーザーの負担を減らそうというのが私たちの狙いです」(塩原氏)

 そして「そうぞくドットコム不動産」のもうひとつの柱となっているのが、不動産相続のための申請書類をウェブ上で作成できるサービスだ。

 不動産の相続手続きでは、相続関係説明図(家系図のようなもの)や遺産分割協議書など、相続人側で作成しなければならない申請書も複数ある。こうした書類は、法務局のサイトからフォーマットをダウンロードして作成することもできるが、「複雑なルールがあり簡単に作成できない」と塩原氏は指摘する。

「自分で作る場合の用紙は、法務局のHPからダウンロードしたり、法務局でもらえたりします。記入サンプルももらえるのですが、相続人が置かれた状況によって書く内容が細々と変わりますし、役所がハンコを押すための余白サイズが決まっているなど、明文化されていないルールがいくつもある。このため普通は、まず間違えます。何度かやり直せば正解にたどり着きますが、その手間と時間がもったいない。

 そこで我々は、利用者がフォーマットに沿って必要な情報を打ち込めば、法務局のルールに則った書類を自動作成できるサービスを提供しています。これにより申請書類を作成する手間と時間を大幅に減らすことができます」 

「定額制」で顧客の不安を取り除く

 さらに「そうぞくドットコム不動産」の大きな特徴が、「定額制」であることだ。

 一般に、不動産の相続手続きを専門家などに依頼すると、「家族関係の複雑さや、亡くなった人の人数、不動産の数などにより、価格が変わることが多い」という。

他手段との価格の比較(画像提供:AGE technologies)
他手段との価格の比較(画像提供:AGE technologies)

 しかし「難易度で価格が変わる」ことは、依頼する側の「実際に手続きしてみないと費用がわからない」という不安につながる。そこで塩原氏らは「ケースによって難易度が変わる」リスクを引き受け、あえて定額でサービスを提供することにした。

 こうした思い切った料金設定が功を奏し、「そうぞくドットコム不動産」は、リリースから1年で登記不動産数が7500件を超えた。

「相続による不動産の名義変更はすでに年間100万件を超え、2040年には160万件ほどに増えると言われています。それに対し、不動産登記の専門家である司法書士は2万人ほど。当然、空き家問題など、国が抱えている不動産相続に関する社会課題を解決していくには、ソリューションが圧倒的に追いつかない状況です。我々としては、この社会課題に向き合う専門家、事業者ら全体で、解決していければというスタンスで取り組んでいます」

起業のヒントは前職での経験

ではどのような経緯で相続ビジネスを始めたのだろう。塩原氏は「起業のきっかけは前職にあった」と話す。

 前職では、事業継承のコンサルティング会社に勤めており、後継者で迷う中小企業の経営者に向けて「関係者全員がWin-Winになる形を提案する仕事」をしていたという。

「この仕事を続けるうちに、日本はこのまま行くと半分くらいの会社が潰れてしまう状況にあるなど、事業承継の問題が非常に深いものであることを知りました」(塩原氏)

 もともと起業を志していた塩原氏は、「こうした大きな課題を抱える事業承継の分野であれば、ITを絡ませて何か事業ができるのではないか」と構想を練り始める。

「ところが経営者の相続はものすごく複雑であるため、デジタルで効率化することの難易度が高い。むしろ優秀な税理士や公認会計士など“人”が入る方が、改善効果が高いと感じるようになりました」

 そこで塩原氏は視点をずらし、「人が亡くなったときにどういう課題があるのか」を考えるようになった。

「そこで一般の方の相続手続きを調べていくと、非常に煩雑でアナログな作業が多いことに気づきました。これらはある程度定型化できそうであったため、デジタルの力を活かせる可能性が高かった。そこでまずは不動産の相続手続きをDX化するビジネスを始めようと考えたのです」

 塩原氏は2018年3月に会社を興し、不動産の相続手続きを効率化するサービスの構築を開始。株式会社デジタルガレージが主催するシードアクセラレータープログラムOpen Network Labに参画。デモデイでは、Best Team Award(最優秀賞)、会場の100名以上の投資家による投票数によるAudience Awardをダブル受賞するなど高い評価を受けた後、2020年に「そうぞくドットコム不動産」を正式リリースした。

 今後の展望を聞くと、不動産だけでなく、預貯金の名義変更、相続税の申告、遺言書の作成など、「そうぞくドットコム」をひとつのブランドとして、「他の相続分野にもサービスの領域を広げていきたい」と塩原氏は意気込む。

 2020年に高齢者の割合が28%を超えるなど、日本は世界で最も高齢者の割合が高い国となった。高齢化で起こる課題をテクノロジーで解決する「Age Tech(エイジテック)」のニーズはさらに高まっていくだろう。その中で塩原氏らがどういった事業を展開していくのか、注目したい。

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有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。