第15回北京国際映画祭にて、観客がVR映画『唐宮夜宴』の体験展示に参加する様子(2025年4月25日撮影、資料写真)。(c)CNS:李嘉薇
【CNS】「すごい、足元の空飛ぶ絨毯に乗って宙を漂ってるみたい!」 広々とした上映エリアには座席が一つもなく、近未来的な雰囲気が漂う。VR(仮想現実)機器を装着した観客は、文物修復のインターン生に「変身」し、視線を動かしながら唐代の洛陽の街を巡り、主人公・唐小妹(Tang Xiaomei)と共に時空を超えた文化遺産探訪の旅へと出発する。
これは2025年に開催された第15回北京国際映画祭(以下「北影節」)で、北京の観客がVR映画『唐宮夜宴』を体験した場面である。最近、この作品は中国の映画上映許可「電審虚字(2025)第001号」を取得し、近い将来、正式に映画館で公開される見通しとなった。
VR映画とは、仮想現実技術を活用して制作され、ヘッドマウントディスプレイなどを通じて鑑賞する映画であり、映画館などの特定の場所で上映される。従来の映画と違い、観客は座席に固定されることなく、立ち上がって「映画の中に入る」ことで、全く新しい観賞体験を楽しむことができる。
「映像がとても綺麗で、体験としても面白かった」と、北京市西城区にある「新華1949文化金融イノベーションパーク」でのVR上映体験を終えた趙潔(Zhao Jie、仮名)さんは話す。「以前は映画は映像としての芸術でしたが、今は「没入体験」として捉えられるようになっています」と、展示チームのスタッフ・尚自豪(Shang Zihao、仮名)さんは語る。北影節がこのユニットを設けたのは、VR技術の進展と国際映画祭の潮流に対応するためだという。
ここ数年、VR映画はカンヌ国際映画祭(Cannes Film Festival)、ヴェネチア国際映画祭(Venice International Film Festival)、東京国際映画祭(TIFF)などの国際映画祭で「標準装備」のように扱われている。上海国際映画祭も昨年、未来型映画館ユニットを新設し、世界中のVR映画26作品を上映。北影節では7年前からVR映像部門が設けられ、今年は「無界・没入ユニット」へと拡大され、VR、AR(拡張現実)、MR(複合現実)、360度スクリーン、三面スクリーン、映像インタラクティブ装置など多様な形式の約40作品が集結している。
映画祭に限らず、中国各地でも「未来の映画館」づくりが進んでいる。江西省(Jiangxi)では省内初の没入型VRインタラクティブシアター「長旅幻影空間」の旗艦店が南昌市(Nanchang)にオープンし、AI+3D+VR技術により「空や海を旅するような」映画体験を実現している。
また、中国初となるXR多ホール型大規模没入シアターも陝西省陝西省(Shaanxi)西安市(Xi’an)に開業し、約3000平方メートルの敷地に3つのシアターホールを備え、『唐宮夜宴』や『隠秘的秦陵』などのVR映画をローテーション上映している。開業以来、観客数はすでに3万人に達し、今後は『龍門金剛』や『流浪地球(英題:The Wandering Earth)』などの新作VR映画の公開も予定されている。
2025年3月、中国国家映画局は「VR映画の秩序ある発展を促進する通知」を発表し、映画産業とVR技術の融合を積極的に支援している。
映画の表現形態は、白黒・無声からカラー、3D、IMAX、そしてVR映画へと進化を遂げてきた。その一方で、映画に新技術が加わることによって芸術性が損なわれないかという懸念もある。「視点が第一人称で映画の中に『存在』できるのは魅力的だが、技術先行で物語性が薄まらないか心配だ」という声もある。
尚自豪さんは「中国のVR映画はまだ始まったばかり。アイデアと可能性はあるが、技術の精度はこれからだ」と語る。
球面シアター業界で働く陳家豪(Chen Jiahao)さんは「この没入型体験には商業的な可能性を感じている」と話すが、「現在のヘッドセット型の視聴スタイルはやや不便。将来的には裸眼での没入型視聴こそが主流になるだろう」と見ている。
中国国家映画局常務副局長・毛羽(Mao Yu)氏は、「伝統的な映画とVR映画は、まるで一本の茎から咲いた双子の蓮のように共に花開くだろう」と述べており、両者の共存という理想が現実になりつつあると語った。【翻訳編集】CNS/AFPBB News|使用条件