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オーダーメイド遺伝子編集で乳児の希少疾患を治療 世界初 米国

米国フィラデルフィア小児病院で治療を受けたKJ・マルドゥーンちゃん(中央)。心臓専門医のキラン・ムスヌル氏(右)と小児科医のレベッカ・アーレンスニクラス氏。同病院提供(撮影日不明)。(c)Children's Hospital of Philadelphia/AFP

米国フィラデルフィア小児病院で治療を受けたKJ・マルドゥーンちゃん(中央)。心臓専門医のキラン・ムスヌル氏(右)と小児科医のレベッカ・アーレンスニクラス氏。同病院提供(撮影日不明)。(c)Children's Hospital of Philadelphia/AFP

【AFP=時事】米国で、オーダーメイドの遺伝子編集技術を用いた治療が初めて行われ、希少疾患の患者に新たな希望をもたらしている。医療チームは15日、米医学誌「ニューイングランド医学ジャーナル」に研究結果を発表した。

 世界初のこの治療を受けたのは、生後9か月半の男児KJ・マルドゥーンちゃん。生後間もなく、カルバミルリン酸合成酵素(CPS1)欠損症というまれな遺伝性疾患と診断された。CPS1欠損症は、肝機能に必要な酵素を作る遺伝子の変異によって起こるもので、体内の代謝によって生じる特定の有毒な老廃物を排出できなくなる。

 治療を行ったフィラデルフィア小児病院が公開した動画の中で、母親のニコールさんは「『CPS1欠損症』をグーグル検索すると、出てくるのは致死率か肝移植の話ばかり」と語った。厳しい予後が予想される中、医師らはこれまでに例のない治療法を提案した。DNAの特定箇所を分子レベルで切断・修復する「クリスパー・キャス9(CRISPR-Cas9)」という技術で、2020年にノーベル化学賞を受賞した手法だ。

 父親のカイルさんは、「わが子が重い病気にかかっていて、肝移植を選ぶか、これまで誰にも使われたことのない薬を試すかという、極めて難しい決断を迫られた」と語った。最終的に両親は、KJちゃんのためだけに作られた薬剤を使うことを選んだ。

 この薬剤は、数十億あるDNA塩基の中で誤っている箇所を修復するよう設計されている。小児遺伝学を専門とする医療チームの一員、レベッカ・アーレンス=ニクラス医師は「この薬は本当にKJちゃんだけのために設計されたもの。彼が持つ遺伝子変異は彼だけのものであり、まさに個別化医療だ」と述べた。

 薬剤が肝臓に到達すると、含まれている「分子のはさみ」が細胞内に入り、変異した遺伝子を編集する。医療チームは、今回の結果は他の遺伝性疾患を持つ人々にとっても希望となるものだとしている。

 治療後、KJちゃんはそれまで禁じられていたタンパク質を多く含む食事がとれるようになり、薬の量も減っている。今後も治療の安全性と効果を確認するため、長期的な経過観察が必要だという。

 アーレンス=ニクラス医師は、「将来的に彼が薬をほとんど、あるいはまったく必要としなくなることを期待している」と述べ、「彼がこの手法の最初の恩恵を受けた患者となり、今後は患者一人ひとりに合わせた形で応用されていくことを願っている」と語った。【翻訳編集】 AFPBB News|使用条件