
「Japan DX Week 春2026」で登壇したMODE創業者兼CEOの上田学氏
2026年に入ってから、AIの進化が目覚ましい。特に、目標を与えると、その実現に向かって、人間のように計画を立て、ツールを使い分けてタスクを実行する「AIエージェント」の開発が急加速している。ただ、報道やSNSから断片的な情報は入ってくるものの、現在の開発状況の全体像を把握しきれていない人も多いのではないだろうか。
2026年4月8日から10日まで、東京ビッグサイト(東京都江東区)にて「Japan DX Week 春2026」が開催された。その中でMODE, Inc.(米国オフィス:サンフランシスコ、東京オフィス:東京千代田区)の創業者でCEOの上田学氏が登壇し、「世界は“働くAI”へ向かっている──シリコンバレーが見ているその先の未来」と題した講演を行った。
米国シリコンバレーに約25年拠点を構える上田氏の講演をもとに、「AIエージェント元年」と言われた2025年から2026年春にかけての、AIエージェント開発の最新動向を整理し、来たるべきAIエージェントとの協働時代の働き方を探ってみたい。
冒頭、上田氏は、現在のAI業界はオープンAI(ChatGPT)、グーグル(Gemini)、アンソロピック(Claude)の3社が「三国志のように」三つ巴でしのぎを削っている状態だとし、熾烈な戦いの中で最大のキーワードとなるのが「AIエージェント」だと述べた。
2022年ごろに生成AIが広まった際には「チャットボットのような対話型」で、質問をするとそれに対して答えを返してくれるものが主流だった。しかし現在では「質問をしたら答えてくれるだけではなく、目標を与えると、そこから作業をし続けて、作業が終わるまで仕事をしてくれる『AIエージェント』へと移行しつつある」という。
ただ、2025年は「AIエージェント元年」と呼ばれたが、実際のところ「あまり変化がなかった」というのが上田氏の感想だ。
「唯一あったのが『コーディングエージェント』と呼ばれるソフトを開発するAIです。アンソロピック社の『Claude Code』というものがそれで、『こんなプログラムを作って』と指示を出すと作ってくれます」(上田氏)
「Claude Code」はアンソロピック社のエンジニアが「こんなものがあると便利だ」と開発したもので、世に出したところ「1年間で約6000億円」を売り上げるビッグビジネスになったという。このツールの登場でプログラムの書き方が変わったエンジニアも多い。
ただし、コーディングエージェントはエンジニア業界への影響力は大きかったものの、一般的なビジネスパーソンにはそこまで影響は及ばなかった。そんな中で今年に入り、AIエージェントの怒涛の進化が始まったと上田氏はいう。
上田氏がまず挙げたのが、グーグルが公表した「Stitch」というデザインとコード生成を自動化するAIツールだ。
通常、アプリやソフトウェアを開発する際には、デザイナーに「こういう画面(UI)を作って」と依頼し、出来上がってきたものに修正依頼をして完成度を高めていく。しかし「Stitch」を使えば、「こんなデザインのアプリを作ってほしい」と頼むと、数分でデザインが出来上がってくる。もしイメージと違えば、さらに修正依頼を投げれば、数分後に修正が加わったデザインが上がってくるため、作業効率が格段に良くなる。
実際に上田氏も「Stitch」を使ってアプリを作ったところ、「デザイナーを雇わなくても(コードを一行も書かずとも)全部自分でできた」とし、デザインの領域にもAIエージェントが入り込んできたことを紹介した。
さらに衝撃的だったのが「OpenClaw(旧ClawdBot/Moltbot)」の登場だという。
「シリコンバレーにいると時々起こるのですが、周りにいる人がみんなその(ツールや製品の)話をしているってことがあります。1月末に発表された『OpenClaw』もそのひとつ。カフェでコーヒーを注文していると、その周りにいる人たちが皆『OpenClawやってみた?』『OpenClaw触った?』と話をしていて、会社に行っても同僚が皆同じ話をしていました。それくらい一気にブームになったのです」
「OpenClaw」とは、オーストリア出身のプログラマーであるピーター・スタインバーガー氏(現在オープンAIに所属)が開発したオープンソース型のパーソナルAIエージェントだ。それまでのAIがクラウド上にいて、何か聞いたら答えてくれるものだったのに対して、「OpenClaw」は自分のパソコン上で動き、自分専用の秘書のような役割を果たしてくれる。
「いくつか特徴がありますが、まず(OpenClaw自身が)パソコンの操作ができます。パソコンの操作ができるので、たとえば、自分(ユーザー)が撮った写真や書いた文章を探してきてというと、フォルダ内から引っ張ってきてくれる。また、自分の予定が書かれたカレンダーにアクセスして作業してくれるなど、ちょっとした秘書を雇ったような感じでとても役に立ちます」
ただし、一点大きな欠点があるという。「とても“DIY色”が強く、自己責任でやってください、という感じなので、セキュリティなども全然考えられていない」とのことだ。たとえば「何かのパスワードを教えて」と依頼すると、パソコン内のメモから探してきて、勝手に教えてしまうこともあるという。
「『OpenClaw』がなぜ流行ったかというと、こんなことができるんだという可能性を、セキュリティを無視することで皆に見せてくれた。自己責任でやってくださいという形ではあるけれど、(セキュリティの)柵がなければちゃんと動くことを示してくれたのです」
さらに「OpenClaw」ブームの熱が冷めやらぬ中、アンソロピック社から「Claude Cowork」がリリースされた。これもパソコン上で動くもので、人間に代わって、さまざまなツールを使い複雑なタスクを完遂できる自律型AIエージェントだ。
「たとえば、『パソコン内のフォルダから領収書を見つけ、領収書の宛名と金額と日付を、エクセルのシートに情報を整理してまとめて』と依頼すると、できてしまいます。こういう雑用をAIがずっとやってくれる時代になってきたのです。先ほどご説明した『OpenClaw』の、DIYでいろいろやってみようというところから、わずか1、2ヶ月くらいの間に、セキュリティも安定し、ソフトウェアとして提供できて、一般の人が使えるものが出てきた。この動きの早さも大きなポイントです」
上田氏は、こうした急速に進化するAIエージェントの特徴として、指示された作業を複数のタスクに分解して「マルチステップで処理できること」。必要に応じて「適切なツールを選択・活用できること」、そして「長時間稼働できること」の3つを挙げた。
こうなってくると、いよいよ「AIが我々の仕事を奪う」ようになるのでは、と考えてしまうが、上田氏は「多分そうはならない」と分析する。ただし「仕事の内容には多大な影響を与えるだろう」という。
たとえば、営業マンが顧客のところに出向く前に、その会社のことを調べるといった「リサーチ業務」はAIエージェントが担う。他にもさまざまなプレゼンテーション用の「資料を作る作業」は、ツール操作ができるAIエージェントが担うようになるのではないかと予測する。
「こうしたことを含め、人間はAIのマネージャーにならなければいけないと思います。言われた作業をするのではなく、〇〇君この作業をやっておいてね。〇〇さんこれをやっておいてね、といったように仕事を振る側のポジションにいると、非常にAIの恩恵を受けられるのではないでしょうか」
さらに、この考えを発展させると「AIの組織ができあがる」(上田氏)。
「先ほど『OpenClaw』の説明の際に『秘書になってくれる』とお伝えしましたが、秘書は一人ではなく、チームを作ることもできます。マルチエージェントというのですが、いろんなリサーチ専用のAIや、レビュー専用のAI、報告専用のAIなどを作ってチームを編成して、彼らに仕事を分担させることができる。つまり、AIのチームを作って仕事をするといった形に、この先は変化していくかもしれません」
AIの進化は早いが、人がどのように対応すべきか検討する余地は十分にある。働き方の変化を冷静に見極め、気構え過ぎずに生き抜きたいものだ。