
喪服レスキュー株式会社 代表取締役(共同代表)の永江悠真氏
高齢化が進む日本では死亡者数が増えている。厚生労働省の「令和6年(2024)人口動態統計(確定数)」によると、2024年の死亡数は約160万人に達し、調査開始以来最多となった。
いわゆる“多死社会”が到来する。一方、近年は冠婚葬祭がいずれも簡素になり、その場に相応しい装いの備えは手薄になってきている。いざという時に喪服の準備が間に合わないことも少なくない。筆者も経験があるが、喪服は持っているが以前着用した時から時間が経っており、いざ着ようと思ったら体型が変わってしまっており着用できない場合もある。
こうした非常時の解決策として、24時間利用可能な無人喪服レンタルサービス「喪服レスキュー」を開発・提供しているスタートアップがある。2022年創業の喪服レスキュー株式会社(本社:東京都中央区)だ。
同社は2026年7月に総額約5億円の資金調達(シリーズA)を実施し、全国主要都市への多店舗展開を急ピッチで進めている。従来の喪服レンタルサービスにはない強みや事業状況、起業の経緯について、代表取締役(共同代表)の永江悠真氏に聞いた。
「喪服レスキュー」とは「一言で言うと、店で試着ができる、セルフサービス(無人店舗)型の喪服レンタルサービス」だと永江氏は説明する。
一般に喪服を用意する際には、紳士服店や百貨店などで購入することが多い。しかし、それなりの出費が発生するうえ、保管の手間もかかる。一方、喪服をインターネット上で購入したり、借りたりできるサービスもあるが、試着ができないうえ、配送に時間がかかってしまう。また、店舗で試着できる喪服レンタルサービスもあるが、利用は開店時間内に限られてしまい、たとえば「明日の葬儀のために、今夜中に喪服を準備しなければならない」といった場合などは役に立たない。
「このように従来のサービスにはそれぞれメリットがあるものの、『すぐに借りたい』『できるだけ費用をおさえたい』『実際に試着して選びたい』といったニーズを一度に満たすことが難しい状況でした。こうしたニーズにまとめて応えられるのが、私たちの『喪服レスキュー』です」
24時間利用可能な無人店舗型サービス「喪服レスキュー」は、夜間早朝でも喪服が必要な際にいつでも利用できるうえ、実物を試着でき、自分に合ったサイズの喪服をその場ですぐに借りられる。また、無人型で運営コストをおさえられる分、利用しやすい価格で提供できるという点も特徴のひとつ。
利用方法もシンプルだ。まず「喪服レスキュー」のウェブサイトにアクセスし、男性の場合、喪服や靴などの必要なアイテムが一式そろう「フルセット」か、喪服とネクタイのみの「ライトプラン」を選ぶ。そして、近くの店舗を選んで来店予約をすると、店舗のスマートロックを解除するための暗証番号が発行される。あとは予約した日時に店舗を訪れ、実際に試着して自分のサイズに合った喪服を選び、そのまま持ち帰ることができる。なお、利用後は、クリーニングの必要もなく、喪服レスキュー店舗に加え、提携する白洋舍の一部店舗に返却すればよい。
筆者も無人店舗を見学したが、ジャケットやズボン、靴などは幅広いサイズが用意されているほか、数珠やふくさ、バッグ、女性向けの真珠のネックレスやイヤリングといった小物類もそろっており、急な弔事でも必要なものを一式用意でき、「そのまま葬儀会場に直行できる」サービスであることが実感できた。
なお、店舗には利用者が感想などを書き込むノートも置かれている。そこには「急いでいる時に助かった」「大切な人が亡くなった時に喪服を用意できて、本当に良かった」といった声が数多く寄せられていた。永江氏は、こうした利用者の声や要望にも目を通し「利用者の痒いところに手が届くよう、細やかな改善を繰り返している」と話す。

永江氏と、共同代表である後藤佑介氏は、どういった経緯で「喪服レスキュー」を立ち上げたのだろう。「私自身は、祖父の葬儀で喪服のサイズが合わなかったことがきっかけになった」と永江氏は振り返る。
「とても可愛がってもらった祖父なのに、喪服のサイズが合わず、葬儀の会場でもそのことばかりが気になってしまい、とても残念な思いをしました。この経験から、喪服をめぐる課題を解決するサービスを考えはじめたのです」

それ以前から永江氏と後藤氏は起業を目指して、互いに事業アイデアを出しては検証を繰り返していた。そうした中で喪服レンタルのサービスであればうまくいくのではないかと意見が合致し、二人で事業化に向けて動き始めたという。
最初の一年は、喪服や葬儀でのマナーなどを紹介するメディアを立ち上げ、情報発信に注力した。その後、実際にどれほどのニーズがあるのかを確かめるために、まずは利用者に直接喪服を「手渡し」で提供するレンタルサービスを開始。想定以上のニーズが確認できたことから、店舗を構え、本格的にサービスを展開することを決意したとのこと。
「最初は新宿や上野などで、利用される方に直接手渡しで喪服を貸し出すサービスとしてスタートしました。今振り返ると、知らない人から手渡しで服を借りるというのは、少し不安に感じてもおかしくないサービスだったと思います。それでも利用してくださる方々がたくさんいて、『とても助かりました』という声をいただきました。そこで、喪服をすぐに用意できないことは、それだけ切迫した課題なのだとあらためて実感し、店舗型でのサービス展開に踏み切ったのです」
2022年12月から無人型店舗でのサービスを開始。当初は「週末起業」だった二人だが、店舗数が2店舗まで増えた時点で永江氏は他の仕事を辞め、事業に専念することを決めた。その後、後藤氏もフルコミットし、2025年からは外部資金も活用しながら、店舗展開を加速させている。
現時点(2026年9月時点)で「喪服レスキュー」の店舗数は25店。さらに「年内に40店舗を目指す」と永江氏は意気込む。着実に店舗網を広げる「喪服レスキュー」だが、今後さらに事業を拡大していくうえで重要になるのが、「急に喪服が必要になった時に、最初に『喪服レスキュー』を思い出してもらえる存在になること」だという。
そこで全国規模での多店舗展開に加えて、老舗クリーニング大手の株式会社白洋舍(本社:東京都大田区)との協業も拡大することで、高品質なクリーニング体制とあわせて、白洋舍の一部店舗でも喪服を返却できるようにするなど、利便性を向上させている。
「こうした取り組みを重ねながら、安心して利用いただけるサービスであることをより多くの方に知っていただき、『喪服が必要になったら喪服レスキュー』と想起してもらえる存在を目指していきたいと考えています」
今後について永江氏は、「まずは全国規模で店舗数を拡大し、必要な時に喪服を受け取れる環境をより多くの地域に広げていきたい」と話す。そのうえで、急な弔事の際にも、必要な喪服を早朝から夜間まで安心して用意できる環境を整え「急な弔事を支える社会インフラ」のような存在を目指していくという。
同社が掲げるパーパス(目的、存在意義)は「前提を疑い、仕組みを問い直し、未来のあたりまえをつくる」というものであり、その言葉が示すように、この先展開する事業については「必ずしも喪服レンタルだけに閉じるものではない」とも話す。
「私たちの事業には、人生のエンディング(終活)に関わる側面もあれば、レンタル・シェアリングや無人店舗といった側面もあります。喪服レスキューを通じて培ってきたこうした強みを生かしながら、喪服レンタルだけに閉じることなく、新たな事業にも挑戦していきたいと考えています」
同社事業のさらなる発展に期待したい。