2014年、米国でグーグルやツイッターのエンジニアとして活動していた上田学氏は、いち早く“IoT(Internet of Things)”の持つ大きな可能性に気づき、Yahoo!出身のイーサン・カン氏とともに、シリコンバレーでMODE,Inc.(本社 : 米国カリフォルニア州サンマテオ)を創業した。MODEは「現場データを活用しビジネス変革を起こすIoTソリューションの提供」を掲げ、東京と、シリコンバレーと二極体制で活動している。これまで、パナソニックくらしビジョナリーファンドなどから資金調達を行い、累計資金調達額は1490万ドルに達している。
IoTソリューションというと、大企業ベンダーが提供するものというイメージがある。どうしてこの分野でMODEが注目されているのか。来日したCEO/Co-Founder上田氏に話を聞くことができた。
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ネット企業は、コンピューターとクラウド上ですべて事業を行っているので、顧客のことや自分たちのサービスのクオリティをよく理解している。そこで得られたデータを分析し、サービスやプロダクトをどんどん良くしていくことが、ここ20年ぐらい米国で行われてきたことだ。リアルなビジネスでも、しっかりデータを取って早いタイミングで改善を繰り返していけばビジネスがよくなるはず、というのが上田氏の提起するメッセージだ。「それをやりたいと考える企業に実現していただけるようにするのがMODEという会社です」(上田氏)
IoTを導入したいと考える企業には、3つの課題があると上田氏は説明する。1つ目はインターネット企業と違い、従来型のビジネスでは地方や海外の工場や支店にデータが点在していること。常に人がいるわけではない現場、例えば山奥のダムや工場からデータを集めるための仕組みを生成するのがむずかしい。2つ目はデータを取り扱い、貯めることだ。IoTの場合、多数のセンサーから途切れなくデータが上がってくる。それを貯めておき、見るときはまとめて取り出すようなシステムが必要だ。「これは今までのインターネットの技術とだいぶ違う。意外とむずかしいところ」と上田氏は語った。3つ目は集めてきたデータをどう見るのかということだ。「データをとにかく集めてみたら何か新しい知見があるかっていうと、それは非常にむずかしい。何か知りたいこと仮説を立てについて、そのためのデータを取ってくる形にしないといけない」(上田氏)
この3つの課題を乗り越えるため、何社も企業を集めて大きなプロジェクトに仕立て、1年半から2年の時間をかけるのが普通だったという。「それをパッケージ化して提供するのがMODEです」と上田氏。
同様のパッケージは、大企業SIベンダーからも提供されているのではと思ったが、MODEには3つの強みがあるという。1つ目はMODE一社でできるというところだ。プロジェクトに何社ものコンソーシアムを作る必要がない。こういうものを計測したいと言われれば、ベストのセンサーを選ぶことができ、さらにセンサーパートナー(現時点で21社)のセンサーはすでにMODEのクラウドに繋がっているものも多くすぐに利用できる。大型ベンダーと比べて「時間は3分の1、コストも10分の1ぐらい」だと上田氏は語った。中堅企業でも十分に許容できる予算感、スピード感だろうと話した。
2つ目が「ベンダー中立性」というところだ。MODEのエンジニアは冗談で自分たちのことを「センサーソムリエ」と言い合うほどセンサーに詳しい。従って、顧客の要望するどんなセンサーも準備でき、「このセンサーを使ったらこのシステムにしか使えない」というベンダーロックインも起きない。いろいろなメーカーのセンサーを統合できる。
「企業が全国に50カ所の工場を作るときも、同時に50カ所建てるわけでもないですよね。時期によって工場のシステムが変わったりすることも珍しくありません。人も入れ替わります。これらバラバラのシステムを統合するときに、弊社のベンダー中立性が強みになります」(上田氏)
3つ目が「システムの安定性と失敗リスクの低さ」だという。MODEは創業した8年前から改良を加えた同じシステムを動かしており、そこに顧客を次々受け入れている。新たにシステムを作るわけではない。動いているシステムは変わらないので、年々手堅く運用できていると上田氏は述べた。大企業ベンダーやSIerは工数で稼ぐビジネスが中心で、プロジェクトごとに新たにシステムを作るという話になりがちだ。MODEは、マルチテナントのクラウドサービスを提供している。つまりずっと使い続けているものなので壊れない、つまり安定性が高いと上田氏は胸を張る。「価格でもスピードでも安定性でも(大企業ベンダーに)勝てると考えます」
今後は、点検作業のように人間が紙とペンを持ってチェックして回るような業務をIoT技術で置き換えていきたいと上田氏は語った。2022年1〜3月にはJR浜松町駅における夜間工事のデジタルツイン化に向けた実証実験に参加した。鉄道工事現場は夜間、限られた時間の中で作業を行う。工事に関わる多数の人が効率的に動く必要があり、一分一秒を争う現場だ。そこで工事関係者に活動量計測センサー付のシューズを履いてもらい、MODEのソリューションで工事関係者の活動状況・バイタルなどを分析してみせたところ高い評価を得られたという。
MODEは米国の企業だが、日本企業のセンサー技術を高く評価している。「日本はセンサー大国」であり、世界の中で大きなシェアを占めると上田氏は答えた。「ハードウェアに強い日本企業こそ、IoTを活用したビジネスで活躍できるはずです」(上田氏)日本のIoTを世界最高水準にすることが私のミッションだと結んだ。