現在開催中(10月20日まで)のCEATEC2023のキーワードは「次世代」。「脱・家電見本市」を掲げてから数年が経過、近年はスタートアップや大学の研究室など次世代の産業を担う組織の参加も増えている。
そうした出展者のひとつが、慶應義塾大学のハプティクス研究センターだ。
触覚技術とも呼ばれるハプティクスは、離れた場所に力触覚を伝える技術。人がモノをつかみ上げる時、それがスポンジのように柔らかいモノなら、壊さないようそっとつかんで持ち上げるが、つかんだときの触覚で「硬い」と判断したならしっかり力を入れて持ち上げる。こうした力加減ができるのは、モノに触れたときに触覚のフィードバックがあるからだ。
ロボットアームで、さまざまなモノをつかんだり、細かな作業をするには、この力触覚の伝達が重要になる。
慶應義塾大学ハプティクス研究センターでは、この技術をリアルハプティクスと呼び、技術開発や社会実装に取り組んできた。
CEATECの会場では、そうした取り組みのひとつ「山岳トンネル掘削作業における自動火薬装填システム」の実機によるデモンストレーションを見ることができた。これは山岳トンネルの掘削面(切羽)直下での火薬の装填を、遠隔地からリアルハプティクスを応用して実施するものだ。
会場で取材対応してくれた大林組トンネル技術部技術第一課課長の渡辺淳氏によると、トンネル掘削工事は、すでにそのほとんどが、機械化、自動化されているという。ただ、トンネル掘削の最前線での火薬の装填作業は、いまだ人手で行っている。機械化できない理由は、火薬を入れるために岩盤にあけた孔に、筒状の火薬をまっすぐ入れるのが、難しいことがある。さらに入れた火薬を孔の一番奥まで、そっと押し込む微妙な作業の力加減もまた難しい。
火薬を入れる孔の奥行きは、1メートルあまり。押し込む力不足で、途中で火薬が止まってしまうと、予定した発破の効果が得られない。かといって強く押し込みすぎると、危ない。
そこで、ハプティクスが役に立つ。
トンネルの中で、火薬を押し込む棒(込め棒)に伝わる感触を、トンネルの外で操作する人の手に、リアルタイムで伝える。トンネルの外から遠隔操作する人はその感触を頼りに、「もうちょい押しても大丈夫かな」と判断し、ゆっくりと操作棒を押し込むと、その動きと力加減がそっくりそのままトンネルの中の込め棒でも再現される。
こうして、微妙な力加減が求められる作業も、カメラ映像と触覚伝送でその場にいるかの如く遠隔操作が行える。
リアルハプティクスを使えば、壁を塗るなどの左官作業のようなかなり微妙な力加減が必要な作業も、遠隔操作が可能になる。建築現場以外でも、医療分野などその応用範囲は広い。またその力加減を記憶しておけば、いつでも、どこでもその作業を再現する事もできるので、熟練工の技の再現にも役に立つ。
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リアルハプティクスの技術そのものは、これまでもCEATECの会場などで大学発の技術として紹介されてきた。今回、同センターの出展場所は、大学やスタートアップが並ぶエリアではなく、より産業寄りの展示エリア「パートナーズパーク」にある。
「すでに、いくつかの実証実験例があるのですが、さらにこの技術の利用を進める段階に来たので、今回はこちらに出展しました」(慶應義塾大学理工学部 野崎貴裕准教授)
かつては最新家電を発表する場だったCEATECは、様変わりして、次世代の技術を展示し、パートナーを募る場所としての役割も果たしている。