「Open Network Lab HOKKAIDO 6th Batch DemoDay」(主催:株式会社D2 Garage 以下、オンラボ北海道)が、札幌市中央区の道新ホールで11月30日に開催された。
オンラボ北海道は2018年にスタートし、コロナが猛威を振るった間も継続され今回が6回目。北海道でも近年、起業家育成の仕組みが整いつつあるが、本プログラムは早くから北海道のスタートアップエコシステムの一角を支えてきた。応募者の数も回を重ねるごとに増え、今回は96件の応募があった。
北海道発のスタートアップと、北海道でならより大きな成果が見込める事業を持つスタートアップが集まり、今回のデモデイでは5チームが登壇した。登壇順にそのピッチ内容を紹介しよう。
株式会社AmaterZ(本社・東京都渋谷区)の代表取締役矢島正一氏は、10月に東京渋谷で行われた「Open Network Lab(主催:株式会社デジタルガレージ)」27期生のデモデイにも登壇している。今回のデモデイで紹介されたIoTセンサーシステム「tukumo(ツクモ)」の機能や利用シーン、特に養鶏場での活用については、すでに当媒体でも紹介しているので、そちらの記事も参照してほしい。
東京でのプログラムと並行する形で、オンラボ北海道に参加し事業を磨いてきたわけだが、「tukumo」の耐久性や機能を活かせるフィールドは、一次産業が盛んで経営規模も大きい北海道にこそ数多くあるということなのだろう。
北海道では、北海道大学と共同してプロジェクトを進めているという。また、このデモの後、数日後にtukumoの設置検討が進んでいる士別に出向くという話題も出ていた。
株式会社キシブル(本社・北海道札幌市)は、2020年の創業以来VR制作のワンストップサービスを提供してきた。同社代表取締役の岸敬介氏が、今回のピッチで紹介したのは、VR教育システムの「iVRES(アイブレス)」だ。
冒頭で、岸氏は今後の人材不足、それに対応するためのDX推進について言及。さらに今後必要となる「タスクシフト」を取り上げた。現状、専門技術やノウハウを後進に伝え、タスクシフトを進めるには、その技術を持った当人が現場で教育をする必要がある。しかし、この方法では参加人数に制限があり、多くの人にタスクを伝えることができない。
iVRESは、VR上でタスクシフト教育ができる仕組みだ。360度カメラを医療や建設の現場に設置し、その様子を撮影する。撮影されたVRコンテンツには「教える人」と「学ぶ人」が同時に複数人アクセスできる。教師と生徒は同じ空間にいながら周りの情景がVRになると、現場の情景を見ながら指導が行なえるので、複雑な情報も伝えることが可能だ。ビデオ教材などとは異なり、教わる側も授業を聞きながら見たい場所を自分の視点から自由に見ることができる。また、授業の様子を保存しておけば、編集作業なしでそのままVR教材となる。
タスクシフトは日本だけでなく、世界中で求められている。まずはニーズの大きいアジア・アフリカに進出し、ビジネスをグローバルに拡大させる計画だ。
株式会社SKIDAY(本社・東京都千代田区)の代表取締役太野垣(たやがき)達也氏は、観光地に設置してライブ配信を行うワイヤレスライブカメラ「DAY CAM(デイカム)」を紹介した。
ライブカメラによる観光地などのリアルタイム配信は、インターネットの草創期からあり、現場の様子を知るのに重宝されているが、配信にはカメラの他、電源、通信回線を必要とするので、その設置場所には制約があり、設置・維持に大きなコストが発生した。
代表の太野垣氏はプロのスキーヤーでもあり、自身の経験を踏まえ、まずスキー場にライブカメラを設置してきた。同社のライブカメラは太陽光で稼働し、LTEで通信するので設置場所に制約がない。そうしたことが評価されて、大型スノーリゾート向けライブカメラ市場では、2年で35%のシェアを達成した。
今後は、スノーリゾート以外の観光地へライブカメラの設置を進めていく。すでにこの秋から北海道内で、STARTUP HOKKAIDO実行委員会と連携し、道内各観光地の紅葉の様子などのライブ映像をSNSへ配信している。
ライブカメラがあれば、観光客は現地に問い合わせずともSNSなどで現地の様子を見て、花や紅葉の見頃を知ることができる。観光地の設置施設側も、問い合わせの電話が減り、また、情報発信のため毎日開花の状況などを確認し、更新配信する手間がなくなる。業務負荷の軽減ににつながっており、その評判は上々だという。
ライブ映像は言語に頼らないコンテンツなので、今後は早期の海外展開も期待できる。すでに「スケーリングのフェイズに入っています」とのことだ。
Floatmeal株式会社(本社・北海道札幌市)のCEO北村もあな氏がデモで紹介したのは、「ウキクサ」だ。
ウキクサとは「浮草」で、水に浮いているあの緑の植物。これまで食料としてあまり利用されてこなかったが、意外にもその成分は高タンパクで、動物性タンパクの代替品として有望だと考えられている。大きさは数ミリと小さいが、生でも食べることができ、食感はシャキシャキしているという。粉末は抹茶のような香りあり、加工食品として利用することができる。
成長が早く、たった1日で2倍に増える。その成長速度は大豆の11倍にもなるという。成長の速さは、環境負荷を下げることにつながるので、いい事ずくめだが、ウキクサを大量生産するにはひとつ問題がある。ウキクサは水に浮かべて栽培するのだが、同じ水中に藻類(そうるい)ブルームが発生してしまう。この藻類には毒性があり、ウキクサの成長も妨げてしまう。除去すればいいのだが、それには多大なコストがかかるっz。
そんなウキクサ生産の課題を解決する、独自のバイオ技術を同社は保有している。有用微生物を利用して藻類を取り除くことができるのだ。この技術を使ってすでに大量生産の実証実験も行なっている。さらに想定では栽培面積あたりの売上高は、イチゴの20倍以上になるという。今後は、このウキクサの研究、自社での栽培と食品原料としての供給。さらには大手メーカーとの協業による商品開発、そして最終的には自社での製品の販売も行う予定だ。
田中一弘氏が代表取締役であるMeTown株式会社(本社・北海道札幌市)は、夕張メロンをNFTアートにする取り組みで、web3界隈では一躍その名が知られるようになった。
今回のピッチで紹介した「eToko(エトコ)」は、NFT技術を活用し、ふるさと納税関係者の課題である“リピーター創出”をサポートする新しいサービスだ。
ふるさと納税は一大産業となったが、同時に自治体間の納税者獲得競争も激しくなりつつある。各自治体とも繰り返し納税してくれるリピーターを確保することに力を入れている。リピートを期待して返礼品にお礼の手紙などを入れているが、読み捨てられてしまいリピーターの創出にはつながっていない。
そこで考え出されたのが「eToko」だ。この仕組みでは、自治体は納税者に返礼品とともにQRコードを送る。受け取った納税者がそれをスキャンすれば寄付証明のNFTカードがデジタル上で発行される。このNFTカードにいろんな役割を持たせてリピーター創出に利用する。例えば、返礼品を受け取った人がレビューを書くと、トークンが貯まる仕組みや、寄付回数によってカードが進化することなどでコレクション性を高めたりする。こうした工夫で、納税者をリピート顧客として取り込んでいこうという仕掛けだ。
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ピッチ後の審査の結果、Floatmeal株式会社が、観客の投票による「Audience Award」と最優秀賞の「Best Team Award」の2冠を同時受賞した。Floatmeal株式会社の北村氏は受賞のコメントで「北海道でビジネスをスタートして、北海道の皆さん一緒に学んだり、応援やサポートを得たりしてきました。ここでのコネクションを活かせるようにしたいと思っています」と喜びのコメントを語った。また、今後の活躍を期待するという意味で、「Special Award」が今回は設定され、株式会社キシブルが受賞した。