今年で8年目を迎えるAIサミットが、ニューヨークで12月6日、7日に開催された。会場には多くのAI関連企業が、自社の製品・サービスを携えて出展した。またIT企業や金融業界、政府の関係者などが多数来場し、生成AIの使用例やAIに関するガバナンス、来年のトレンドなど、さまざまなテーマで行われたセッションに参加した。
2016年から続く今回のニューヨークのAIサミットの会場では、今年も100以上の企業が出展し、最新のAI製品やプログラムを披露していた。
その中のひとつ、ニューヨークに本社を置くグラフェン(Graphen)は、AI技術を使用し店頭で接客する「デジタル・ヒューマン・Aiia(アイア)」を展示しており、その前には長蛇の列ができていた。
同社の技術者であるアヌール・シンハ氏に実演してもらった。スクリーンに映し出されたデジタル・ヒューマンは、上部に取り付けられたカメラで相手の位置を感知し、顧客とアイコンタクトを保つ。客が注文を伝えると、デジタル・ヒューマンは表情を変化させながら返答する。支払いは画面下部に取り付けられたタッチ決済を使用し、コンタクトレスですべて行うことができる。このシステムはニューヨーク市にある2ヵ所のレストランで、すでに実用化されているとのことである。
また、展示会には米国や地元ニューヨークだけではなく、インドのベンガルールで設立しAIソリューションを提供するSahaj(サハージ)など、他地域からも多数の企業が参加していた。
Sahajで自然言語処理(NLP)などを担当するオシン・アナン氏によると「(AIの需要は)アメリカの市場を中心に、世界中で広がっていると思います」。
同社ではインドにおける主要な言語(英語やヒンディー語)以外にも、フランス語、スペイン語、イタリア語、さらにはパンジャブ語やタミール語なども使用し、業種に関わらず世界中のさまざまな顧客に対話型AIソリューションなどを提供しているという。
会期中の2日間には、サイバーセキュリティー・金融・次世代テクノロジー・産業などのテーマごとに部屋が分かれ、200以上の講演やパネル・ディスカッションが行われた。このサミットを主催するInforma Techによると、今回は昨年の2倍となる3500人が参加した。
中でも昨年の11月にオープンAIのChatGPTが公開されて以来、話題の中心に座り続けている「生成AI」。今回のAIサミットでも、主催者によると40以上のセッションが生成AIに関するものであった。
オープンAIのマーケット部門を担当するアダム・ゴールドバーグ氏が登壇した「ビジネスにおける生成AIの意義」と題するパネル・ディスカッションでは、10年後にはすべての分野においてAIが浸透しているだろうという見解に登壇者全員が賛同した。
同セッションにはゴールドバーグ氏以外にも、グーグルやメタ、マイクロソフト、AWS(アマゾン)などの大手IT企業からも登壇していた。ChatGPTの登場によるAI技術の急速な拡大や各産業における実際の使用例、そしてプライバシーやハルシネーションの問題などにも話が及び、会場を埋め尽くした参加者は熱心に耳を傾けていた。
グーグルの生成AIアンバサダーを務めるヒテッシュ・ワドワ氏は「かつてインターネット時代があり、モバイル時代があり、そして今はAI時代に突入しました。現在ではインターネットやモバイルを使わない人がもはやいないように、8年後にはみんなAIを使うようになるのです」と語った。
サミット全体を通してAIの将来に対しては楽観的な意見が多く聞かれたが、同じく「Responsible AI(責任のあるAI)」「Trustworthy AI(信頼のおけるAI)」というワードも多くのセッションで繰り返し耳にした。
「AIが動かす世界」と題したパネル・ディスカッションでは、AIが社会に与える影響とガバナンスの問題が議論された。このディスカッションでは、企業や政府によるAI倫理と規制の問題、イノベーションと規制のバランス、そしてAIに関する法の整備について話し合われた。
Responsible AI Instituteでエグゼクティブ・ディレクターを務めるヴァー・シャンカー氏は、AIガバナンスを構築するにあたり以下の4つの点に注意すべきだと指摘した。
ひとつは、AIモデルの透明性(ブラック・ボックス化問題)。ふたつめが、AIが起こしうる害・リスク。3つめは、AIが個々の労働者の生産性にどのように影響するのか。そして最後に、社会におけるAIの経済的・政治的な責任だ。
さらに、医薬品大手のファイザーでチーフ・プライバシー・オフィサーを務めるパトリス・エッティンガー氏は、各企業がAIを取り入れる際には、組織として明確な方針・原則を事前に相談してまとめ、打ち出すことが自社の信頼を築くことにつながると強調した。
また、「人が動かすAI」と題した別の講演でも、クラウド型財務・人事管理ソフトのワークデイ(Workday)でグローバル・マーケットを担当するインディー・ベインズ氏は「信頼こそが(AI拡大への)礎となるのです」と語った。
同社が12月に発表したレポートでは、「AI/ML(機械学習)の信頼性について懸念を抱いている」と答えた世界のビジネスリーダーは全体の43%を占め、未だに多くの企業がAIの受け入れを躊躇しているのが現状であるとしている。
しかし、ベインズ氏は講演のなかで「AIの拡大にともない、私たちは仕事という概念を新しく改めなければならない」とし、AIを「競争相手」として見るのではなく、人間を補助するための「副操縦士(コパイロット)」として捉えるべきであると語った。
そのためには、これからは「人間を軸とした(human-centric)」AIの開発を進めて行くべきであると強調した。
サミット最後に主催者によって行われた「これから12ヶ月先のトレンド」と題したパネル・ディスカッションでは、これまでの1年間がいわば生成AIに浮かれていた時期であったとの認識を持ちつつ、これからは具体的に各企業がどのようにAIに取り組み、規制していくかについて議論が交わされた。
この議論では、これからの企業はAIを取り入れる際に、早い段階で法務部や広報部などの他の部署を巻き込み、AIに関する自社ガイドラインやリスクへの対処法を確立させることの重要性が話し合われた。
さらに企業にとってAIを取り入れることは、IT部門だけの問題ではなく、営業・経理・マーケティング部など、さまざまな部署に影響を及ぼすため、すべての社員に対するAIのトレーニングの必要性があるということも指摘された。
一方で現在の大きな問題点としては、AIを使いこなせる人材の圧倒的な不足、AIトレーニングを行うための費用、そして世界各国で進められているAI規制の枠組みの確立などが挙げられた。
「これからの市場で成功するためには、AIガバナンスへの投資を行い、顧客や企業パートナー、そして従業員の支援と信頼と得る必要があります。そうでなければ、高速で走っているスポーツカーに、シートベルトを付けずに乗っているようなものですから」(ジョシュア・ビルタ氏、英調査会社オムディア、シニア・リサーチ・ディレクター)
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