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大分県の宇宙港プロジェクトの最新状況は? 〜「第6回宇宙シンポジウム」講演より〜

東京理科大学 スペースシステム創造研究センター主催「第6回宇宙シンポジウム」の登壇者

東京理科大学 スペースシステム創造研究センター主催「第6回宇宙シンポジウム」の登壇者

 2025年3月6日、東京理科大学の神楽坂キャンパス(東京都新宿区)にて、東京理科大学 研究推進機構 総合研究院 スペースシステム創造研究センター(SSI)が主催する「第6回宇宙シンポジウム」が開催された。

 今回はSSIの各ユニット(「教育」「光触媒」「スペースコロニー」「スペースプレーン(宇宙飛行機)」)の研究成果報告に加え、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の川崎一義氏などが登壇した特別講演が行われた。このうち特に興味深かったのが、大分県 商工観光労働部 先端技術挑戦課の上野剛氏による「大分県の宇宙への挑戦」と題された講演だ。

 近年、日本でも宇宙港(スペースポート)設置の取り組みが進んでいるが、その中でも大分県による宇宙港プロジェクトは自治体主体の取り組みのひとつとして注目を集めている。上野氏の講演では、大分県が宇宙港の取り組みを開始した狙いや最新状況などが報告された。

連携相手の倒産も乗り越え

 上野氏によると、大分県の宇宙の取り組みはもともと「民間主導」で始まった。きっかけは地球低軌道環境観測衛星「てんこう」の開発だ。「てんこう」は九州工業大学にいた奥山圭一教授が計画したもので、大分県内の4つの企業が参画し、共同開発した。そのメンバーの表敬訪問を受けた当時の広瀬勝貞知事が宇宙産業の隆盛を予感し、2017年から大分県主体の取り組みを開始したという。

 2019年には「第33回宇宙技術および科学の国際シンポジウム(ISTS)」会場の別府市への誘致が決定。さらに、日本国内で宇宙港の開港を目指す一般社団法人スペースポートジャパン(東京都港区)から、米国のVirgin Orbit社が人工衛星の打ち上げ拠点を探しており、大分空港(大分県国東市)がその候補地として上がっているとの連絡を受けた。

講演中の上野氏
講演中の上野氏

「そんな話が突如舞い降りてきまして、Virgin Orbit社と(2020年に)MoU(基本合意書)を締結し、宇宙港の取り組みを始めたということになります」

 Virgin Orbit社とのプロジェクトは、大分空港を水平型宇宙港として活用するものだった。人工衛星をドッキングさせた航空機を大分空港から離陸させ、空中で人工衛星を切り離すという構想を立てていたが、残念ながら2023年にVirgin Orbit社が倒産したため、この計画は頓挫する。

 しかし、大分県の取り組みはここでは終わらない。米国Sierra Space社からも宇宙往還機Dream Chaser®のアジア拠点として大分空港を活用したいという相談があり、2022年にMoUを締結していたのだ。現在、大分空港を宇宙港として活用する取り組みは、このSierra Space社とのプロジェクトを中心に、兼松株式会社(東京都千代田区)、株式会社三菱UFJ銀行(本店:東京都千代田区)、東京海上日動火災保険株式会社(本店:東京都千代田区)、日本航空株式会社(本社:東京都品川区)らが参画し進められている。

大分の宇宙港の役割は

 大分県が宇宙港を中心に進める取り組みとは具体的にどのようなものだろう。上野氏は前提として、大分県には九州唯一のコンビナートやそこに関連する中小企業、温泉という観光資源を抱えているとし、「そうした大分のポテンシャルと、今後発展していく宇宙を結びつけて、新たな経済循環や価値の創出を目指している」と話す。

 このミッションを実現するために、現在構想しているのが以下のプロジェクトだ。

 まずSierra Space社が種子島宇宙センター(鹿児島県熊毛郡)からロケットに乗せた宇宙往還機Dream Chaser®を発射し、国際宇宙ステーションなどに人やものを輸送する。続いて、国際宇宙ステーションで実験したものなどを積み込み、地球上に戻ってくるが、その戻り先が大分空港となる。そして大分空港に戻ってきた宇宙往還機は、種子島に戻され再び宇宙に飛び立つ。

2025 年 2 月 6 日の大分県などの共同リリースより抜粋
2025 年 2 月 6 日の大分県などの下記共同リリースより抜粋 https://www.pref.oita.jp/uploaded/life/2290036_4420642_misc.pdf

「こういった形で、九州の中を循環する経済圏を作りたいと考えています。非常に大きな話なので、大分だけで取り組む話ではありません。いかに九州や日本経済全体に効果を波及させていくか、そういった視点で考えないといけないプロジェクトだと捉えています」

 なお、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(本社:東京都港区)の調査によると、年に一度の打ち上げによる経済波及効果は「日本全体で約3500億円」「大分県には約350億円」が見込まれているという。直接的な効果としては宇宙港の建設やサプライチェーンなどが、間接的な効果としては、研究開発や教育・人材育成、観光業界などの振興が期待されるとのことだ。

 上野氏によると、現在Dream Chaser®は「設計などが終わり、実機での打ち上げ実験を行う段階」にある。ただ、米国での承認取得が遅れており、現時点では「本年度中に初フライトを行う」予定が立てられているという。

 一方、上野氏らは大分空港にDream Chaser®が着陸することに対する法制度の課題を解決するべく、空港に必要な設備や管制オペレーションのあり方を調査するとともに、内閣府や国交相に法制度の見直しを働きかける準備を進めているとのことだ。

宇宙ビジネスを担う人材の育成も

 もう一点、大分県の取り組みの重要なポイントとなるのが「次世代人材の育成」だ。

「宇宙港のプロジェクトをしていく中で、やはり次世代の人材を育てていかないといけません。最先端の技術に興味を持つ子どもたちをより多く輩出していく必要があると私たちは考えています」(上野氏)

 具体的には、小中高生が宇宙について気軽に学べる「Oita Space Hike」と題したイベントを実施しているほか、東京大学大学院工学系研究科の中須賀教授を講師に招いて、空き缶を使って擬似人工衛星を作る宇宙教室「缶サット」(CanSat)を開催するなどしている。

 さらに注力しているのが高校生への学習機会の提供だ。2024年度から、大分県立国東高校に宇宙に関して学べる「SPACEコース」を開設。全国から入学者を募集し、特に2年次から宇宙関連の学びを深めるカリキュラムを実施する。

 また大分県、国東高校および東京理科大は、文科省の「令和6年宇宙航空科学技術推進委託費 宇宙航空専門人材育成プログラム」に申請し、提案課題「宇宙志向ビジネスを先導する人材を育てるBootcamp in 大分」が採択されている。その中で東京理科大と国東高校の学生が共に宇宙関連企業と将来の宇宙ビジネスについて考えるワークショップ(「スペースビジネスワークショップ」)を開催するなどし、宇宙利用産業を先導する人材の育成に努めているとのことだ。

 今日本各地で、宇宙港を軸に地域産業の活性化を目指す動きが起こっている。そんな中でも大分県の取り組みは、地域産業のみならず、教育現場をも巻き込み人材も育成しようとしている点が大きな特色のひとつと言えるだろう。この取り組みから、将来の日本の宇宙産業を背負って立つような人材が多数生まれることを期待したい。

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有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。