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AIと実験ロボットをつなぐ無限ループも登場 「バイオAI」がもたらす創薬現場の変革

「バイオAIサミット2026」に登壇したアイパークインスティチュート株式会社 代表取締役社長の藤本利夫氏

「バイオAIサミット2026」に登壇したアイパークインスティチュート株式会社 代表取締役社長の藤本利夫氏

 AIとバイオテクノロジー(生命工学)を掛け合わせる「バイオAI」の進化が、医療や創薬、生命科学の世界に大きな変革をもたらしている。

 たとえば、米国のEvolutionaryScale社が開発した「ESM3」など、膨大な数のタンパク質データを学習した大規模言語モデルの登場により、自然界に存在しない新たなタンパク質や酵素などをコンピューター上で一から設計することが可能になった。また、グーグルの「AlphaFold 3」など予測・解析AIモデルを活用することで、標的となるタンパク質の立体構造を高精度に予測できるようになり、創薬のスピードも劇的に速くなりつつある。

 こうした中、2026年9月17日、Tokyo Innovation Base(東京都千代田区)にて「バイオAIサミット2026」が開催された。これは、バイオAI協議会(事務局:Craif株式会社)が主催したもので、スタートアップや企業、研究機関、医療機関、行政関係者などが集結し、バイオAIがもたらす産業構造の変化や可能性について意見が交わされた。

 今回はその中でも、アイパークインスティチュート株式会社(神奈川県藤沢市)代表取締役社長 藤本利夫氏による「日本の創薬力向上のために 〜AI創薬基盤の共有による生産性の向上」と題した講演の内容を紹介したい。

数十年解決しない「時間」と「コスト」

 革新的な薬を多数生み出してきた“創薬立国”日本の「創薬力」に「陰りが見える」と、藤本氏は切り出した。

 藤本氏によると「創薬力(生産性)」は、薬の「開発候補品数」「成功確率」「価値(薬価)」を掛け合わせ、これを「時間」と「コスト」で割ることで求められる。それゆえ「創薬力」を高めるためには、「開発候補品数」「成功確率」「価値(薬価)」を上げ、「時間」「コスト」を下げればいいが、日本は「素晴らしいイノベーションが時折生まれるものの」開発スピードが遅く、後れをとる傾向にあるというのだ。

 では、他国の製薬会社はどのようにして「創薬力」を高めているのか。

 まず「開発候補品数」を上げるために活用されているのが、スタートアップ・エコシステムの構築だ。「薬の候補品の数でいくと、6割から7割が中堅もしくは小規模のスタートアップが開発を牽引し、大手はそれを買ってくるというモデルになっています」(藤本氏)

 また「成功確率」の向上は病気のメカニズムの解明などに注力することで実現し、「価値(薬価)」の向上は、主に価格が比較的自由に決められる米国市場に依存することで実現してきたという。

 しかし、製薬会社がいくら努力しても「この10年、20年、全く改善しなかった」要素もあると藤本氏は指摘する。それが「時間」と「コスト」の削減だ。「これをどう改善するかということで、今話題のAI創薬、AIの活用が叫ばれているというわけです」

AI創薬と実験ロボットをつなぐ無限ループ

 ここで藤本氏は、創薬の学術誌『Drug Discovery Today』のある記事を紹介した。

 それによると、3年前の時点でAI創薬で生まれた薬剤候補のうち67が「臨床入り」しており、現時点では100を超えているという。さらに、臨床試験の成功率も、フェーズ1(第I相臨床試験)では「平均値を大きく上回る88%」に達したほか、臨床試験に至るまでの「時間」「コスト」も「約40〜50%削減」された。

「つまり、創薬の効率化が、早期の段階ではほぼ実証されているというのが、AI創薬の現時点での結論と言えるのです」

 こうした結果を受け、欧米の大手製薬各社は創薬の中核プロセスにAIを導入しはじめている。その最たる例が、米国インディアナ州に本社を置く最大手Eli Lilly and Company(以下、イーライリリー)だ。

 同社はエヌビディアと連携し、これまでの膨大な創薬データを全て学習したAIモデルを軸としたAIファクトリー(AI創薬基盤)を立ち上げた。さらにこれを自社の創薬に活用するだけでなく、数十ものバイオテック・スタートアップに提供しているという。

「なぜこんなボランティアみたいなことをするのか。当然彼らはタダではなく、戦略的に行っています」

 藤本氏はイーライリリーの狙いを以下のように分析する。ひとつが、外部のスタートアップにAIモデルを使い込んでもらうことで、基盤を改善し、自社R &Dの精度を上げること。さらに、有望なスタートアップを早期に囲い込むこと。そしてもう一点が「プラットフォームの掌握」だ。

「こうした取り組みにより、どんどんAIモデルが改善し、創薬の効率化が起こってくると、『もはやこのインフラを使わないと創薬が進まない』といったことも起こり得ます。まさにGAFAが行ったインフラの独占化ですね。こうした事態に陥ってしまうことを私は強く恐れています」

 さらに最先端を走る製薬会社では、こうした「AIによる創薬研究」と、ロボットが24時間実験を行う「自律型ラボ」をつなげる試みもはじめている。つまり、AIが薬をデザインして、ロボットが実験する。そして、その実験結果をまたAIに読み込ませる無限ループを形成し、創薬をより一層高速化・効率化・高度化しようというわけだ。

「創薬立国」日本はどう復活するのか?

 こうなってくると、資金力、規模、スピードでは、なかなか日本の民間企業単体では敵わなくなる。そこで藤本氏が日本成長戦略会議などで提言しているのが、政府と民間が共同投資で「AI創薬・自律実験プラットフォーム」を立ち上げることだ。

「このプラットフォームには、各社が安全に使えるデータ基盤があり、GPU(計算リソース)が確保されていて、自律型ロボットを有するラボも共用で使えると。これを使うことを通じて人材とスタートアップが育っていく。要は、創薬のハードルを下げて、スタートアップがどんどん立ち上がり創薬や実験ができるような環境を作ろうという提案です」

 こうした共用のプラットフォームがあれば、スタートアップが成長しやすいことに加え、彼らが使うことでAIモデルの精度が上がり、さらに集中拠点でデータを一括取得していくことで、情報の質や環境が整った高品質データがそろい、競争力も上げやすいとのことだ。

「将来の姿は、こうしたAI創薬基盤で共有できるところは共有し、どんどん精緻化して、各社の強みを発揮できるところに研究者を集中させていく。さらにデータとAIとラボが途切れなくつながった統合型のプラットフォームになっていくのではないかと考えています」

 創薬の生産性を劇的に改善できるのであれば、ぜひ日本型のAI創薬基盤を実現してほしいものだ。またこれにより、バイオテックだけでなく、ロボティクス・スタートアップの活躍の場が大きく広がることも期待したい。

Written by
有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。