充電池で走る電動キックボードの試乗会が、福岡市東区の貝塚運動公園において2週連続で週末に開催された。8月31日には米国のBrid(バード)。翌週の週末には同じく米国のライム(Lime)が自社のサービスを披露した。
次世代交通サービスMaaS(Mobility as a Service)が普及した際には、こうした小型の電動移動手段「パーソナルモビリティー」が、そのラストワンマイル(駅やバス停などから自宅などの目的地まで)の移動手段を担う主役となることが期待されている。しかし日本では現在、電動キックボードはいわゆる「原付」と同じ扱いとなり、運転には免許が必要で、車体を登録しナンバーを取得する必要がある。
欧米の都市では、シェア自転車のように定められたエリアであれば乗り捨て可能なため、手軽に利用されているが、日本でそうした使い方できるようになるまでには、まだまだ超えなければならない規制のハードルが多くある。
9月7日に行われたライムのメディア向けの試乗会に参加した。
ライムは米国ではニュートロン・ホールディングス(Neutron Holdings Inc.)が運営をしており、日本進出にあたってデジタルガレージやKDDIからの出資を受けている。この日の試乗会にあたって冒頭挨拶を行った同社のアジア太平洋戦略の政策、戦略責任者ミチェル・プライス氏によると、ライムはすでに5大陸、25か国、100都市以上で事業を展開し、現在利用されている同社のキックボード数はすでに6500万台以上に達しているという。
さて、キックボードの試乗だが――当然のことながら電動式ゆえに足で漕ぐ人力式のキックボードに比べると大柄で、重量も23.8kgなので軽々と持ち運ぶというわけにはいかない。乗り方は簡単。少し足で漕ぎ出し、右手ハンドルにあるアクセルレバーを指で押し下げると走り出す。ブレーキは左手のレバー。それと後輪上のタイヤカバーの部分がブレーキペダルとなっておりここを踏むとブレーキがかかるようになっている。
乗り心地はというと、試乗コースは多少デコボコした公園内の舗装路だったので、前輪のほぼ真上にあるハンドルを持つ手にはもろに振動が伝わってくる。この日試乗したのは同社の新機種で、前輪にサスペンションが採用されているが、車輪が小さいこともあり、デコボコや段差は苦手なようだ。しかし、慣れてくると運転は快適で、立ったまま水平移動できる感覚は正直、楽しい。
ライムの電動キックボードの高速度は国ごとの規制に従うようになっているが概ね十数キロから20キロ程度。1回の充電で条件にもよるが約40km程度の走行ができる。利用料は都市によってさまざまだが、米国ではまず、ロックを外すと1ドル課金され、その後は利用時間によって料金が決まる。
明るいデザインで思わず自分用に1台欲しくなるが、原則個人への販売はしない。あくまでもシェア自転車と同じように、貸し出しで利用する。充電もライムのスタッフが車体まるごと回収し、充電したものを補充する。ちなみにこのメンテナンス・スタッフを米国では「ライム・ジューサー(Lime Juicer)」と呼んでいるそうだ。
福岡市は、内閣府の国家戦略特として電動キックボードの規制緩和を求めている。また、試乗会が行われた貝塚運動公園に近い九大箱崎キャンパス跡地は「福岡スマートイースト」として再開発を進めており、将来的にはここにできる新しい街に実装するため、AIを活用したバスの運行、ドローンによる輸送などの実証実験も行っている。これらはスマートシティの実現に必要なサービスであるが、より一層のイノベーションや規制緩和がなければ実現しない案件でもあるため、現在は実証実験という形で実績を積み重ねている。
今回の試乗会のように電動キックボードの実証実験は、日本各地でおこなわれている。本格的な普及に向けての規制緩和の可能性について、ミチェル・プライス氏に聞いたところ、現在は原付としての規制の変更を要望しているとのこと。ドイツでも今年になって電動キックボードの利用に関する法律が定められ、免許証なしで利用ができるようになったということで、日本でも規制緩和とルール整備が実施されること希望していると話した。
また、電動キックボードの規制を緩和することは街づくりにも役に立つという。走行データからは、その街の人々がどのように移動しているのかを把握でき、そこから街づくりのヒントが得られる。また、やはりドイツでは車体に別途取り付けたセンサーで、大気汚染の状況など把握するなどの試みも行われているという。
* * *
来年の夏に開催される東京オリンピックには、海外からの多くの観客が訪れ、その中にはすでにライムを利用して人もたくさんいるはずだ。それゆえ日本でライムを普及させるには絶好の機会なのだが……。とミチェル・プライス氏は早期のサービス開始に期待をにじませていた。