Open Innovation Platform
FOLLOW US

技術者、学者、政府関係者……。衆知を集めてブロックチェーンの新ルールを作る〜FIN/SUM 2019 パネルディスカッション

 日本経済新聞社と金融庁が共催した「FIN/SUM(フィンサム)2019」が9月3日〜6日、東京・丸の内で開催された。3日目の5日午前には「ブロックチェーン・エコノミーの新たな国際協調 〜マルチステークホルダー・ガバナンス」と題し、ブロックチェーンの進化によってもたされた分散型金融(DeFi=Decentralized Finance platforms)のガバナンスについてのパネルディスカッションが行われた。

 ビットコイン等の暗号資産が広がり、グローバルな金融システムに重大な変革をもたらすであろう「libra」のような仮想通貨も提案されている。これら新しい技術を用いた金融システムに対応するには、各国政府機関だけでは難しく、当局と広範なステークホルダーとの対話が必要との認識は、2019年6月に福岡で開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議の共同声明においても示されている。

ブロックチェーン・エコノミーの新たな国際協調パネルディスカッションの様子
ブロックチェーン・エコノミーの新たな国際協調パネルディスカッションの様子

 政府関係者、エンジニア、大学などの学会関係者、そしてブロックチェーンを用いて事業を構築する者など、あらゆるステイクスホルダーの衆知を集めて新たなルールを作るにはどう進めるべきか。

 この日モデレータを務めたのはジョージタウン大学研究教授(Research Professor)の松尾真一郎氏。パネリストは金融庁参事官(国際担当)の吉田昭彦氏、アイルランドの財務省でファイナンス・アドバイザリー部門を率いるマイ・サンターマリア氏、さらにブロックストリーム(Blockstream)Vice President of Product Managementのアレン・ピッツェロ氏、そして慶應義塾大学大学院特任教授の鈴木茂哉氏。

* * *

 マルチステークホルダーによる議論を進める方針は定まったが、当面の課題は議論を行うためのコミュニティの形成だ。金融当局とエンジニアはこれまでほとんど接点がなかった。昨今その接点を金融当局が求めているが、やはりまだ距離感はあるようだ。民間からアイルランド財務省に転じたマイ・サンターマリア氏によると、自分が財務省のスタッフとして接触すると、民間時代からの知人でさえも緊張を感じるようだと苦笑交じりに話した。金融庁の吉田氏は日本の金融当局もエンジニアとの接点がほしいので「恐れず近づいてほしい」とのこと。

 また、ブロックチェーンなどの新しい技術分野では、用語の定義や用法が曖昧なものが多く、それがエンジニアとその周辺のコミュニケーションを難しくしている。つまり議論のための共通言語が成熟していないといというのが松尾氏の指摘だ。さらに共通理解のためには「言葉もさることながら、コンテクストも大事」というのは鈴木氏の意見で、エンジニアはドキュメントをきちんと残すべきだという。なぜならネット上に散在する資料を眺めたところで、どれが正しく、どれが最新なのかがわかりにくいため、コンテクストの理解が難しくそれが混乱の一因となっている。

 エンジニア側からはこの指摘に対して、きちんとしたドキュメントや論文として残したいと思いながらも、技術の進展が早すぎるため、その時間的余裕がないこと。また、論文ほど精査されていないが、かわりにホワイトペーパーを公表したり、複数の大学とフィールドスタディーを重ねたりしているとアレン・ピッツェロ氏はエンジニアサイドの状況を述べ、理解を求めた。

 マルチステークホルダーによるルール作りと、その後の運営が成功した例としてインターネットのケースがある。鈴木氏はインターネットのガバナンスに詳しく、この日はICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers ドメイン名やIPアドレスなどの標準化や管理を担当する非営利法人団)の例を挙げて、そのガバナンスと多様な構成メンバーがどのようにして集まったのかを説明した。

 メンバー探しについては、近道はなく、ICANNでも人から人へと、ツテをたどってメンバーを探した。政府関係者へのアプローチは慶應義塾大学の村井純教授の人脈が役に立ち、このように分散するステークホルダーのハブになる人がとても大切だと話した。

 ステークホルダーということでは、いつもその参加が後回しになりがちなのが法律家だ。あらゆる検討場面で法的なチェックが必要となるゆえに、法律家は重要な参加者だとサンターマリア氏が述べると、それに付け加えるように「ブロックチェーンが普及すると規制当局だけで法律を作ることができなくなる。エンジニアが作ったシステムは規制やルールの一部を構成することとなり、法律と同等の働きをする。つまりエンジニアも“法と秩序”を作ることができる」とエンジニアと法律家、規制当局者の意見のすり合わせの重要性をあらためて強調した。

* * *

 パネルの中でサンターマリア氏は、アイルランド政府内ではブロクチェーン・ハッカソンなどで政府関係者が技術への理解を深めた例を紹介した。またブロックストリームのピッツェロ氏は米国ワイオミング州でのブロックチェーン技術を理解するための小さなコミュニティの活動例について話した。

 このように「仮想通貨(暗号資産)仕組みなんてわからない」と公言してきた人と「お役所の人にブロックチェーン技術なんてわかるはずがない」と遠ざかっていた人が、少し歩み寄る例が世界の各地で見られるようになり、ことは少しずつ進んでいる。しかし、マルチスタークホルダーによる議論とルール整備についてはまだまだ課題は多い。ゆえに今回のパネルディスカッションのようにその必要性を再確認し、実施例やノウハウを共有する機会が大切だ。

北元均 Written by
朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。