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テクノロジーの進化を促すレギュレーションのあり方を議論

NCC 2018 TOKYO

NCC 2018 TOKYO

 6月19日、東京六本木ヒルズにおいてTHE NEW CONTEXT CONFERENCE 2018 TOKYO(主催:株式会社デジタルガレージ、株式会社カカクコム、株式会社クレディセゾン)が開催された。

開催の挨拶をする林 郁 株式会社デジタルガレージ 代表取締役 兼 社長執行役員グループCEO(写真提供:庄司健一)

開催の挨拶をする林 郁 株式会社デジタルガレージ 代表取締役 兼 社長執行役員グループCEO(写真提供:庄司健一)

 2005年からスタートしたこの催しは、株式会社デジタルガレージの共同創業者でMITメディアラボ所長を務める伊藤穰一がホストとなり、最先端のインターネット技術やブロックチェーン、人工知能(AI)などその周辺で生まれるビジネスについて、それぞれの分野で活躍する研究者、起業家、有識者などを世界中から集め、議論が行われてきた。

 今回のテーマは「規制とテクノロジー」。イノベーションを起こす企業やスタートアップが、規制とどのように向き合っているか。一方で政府機関などの規制当局は進化し続けるテクノロジーに対しどのような規制を行ってきたのか、金融、医薬などの分野での現在の取り組みや課題が話し合われた。

 基調講演を行なった伊藤穰一はまず、自身も深く関わったインターネットの進化の過程を振り返りながら、かつては巨大通信企業が垂直統合的に管理していたネットワークを、重層的なレイヤーに分解することによりプロフィットもノンプロフィットも参加できる余地ができたこと、それによって、ある階層ではでは旧来のレギュレーションから解放され、イノベーションが生まれやすくなったことを説明した。

 さらに、インターネットの進化により旧来型のモノポリー(ここでは独占的な企業や組織の意味)は解体されたが、ネットワークを巧みに使う新しい種類のモノポリーが誕生したこと、そしてこの先は「新しいモノポリーをどうやってばらすかが重要」との認識を示し、EUで導入された「GDPR(一般データ保護規則)」などの新たな規制が必要となる場面についても言及した。

基調講演を行う伊藤 穰一 株式会社デジタルガレージ 共同創業者 取締役:MITメディアラボ所長(写真提供:庄司健一)

基調講演を行う伊藤 穰一 株式会社デジタルガレージ 共同創業者 取締役:MITメディアラボ所長(写真提供:庄司健一)

 一般的にレギュレーション(規制)はイノベーションを妨げると考えられがちだ。しかし、ここでは必ずしもそうとは言えないケースについても紹介された。例えば、自動車業界では排ガス規制がイノベーションにつながった。また、金融の世界では、イノベーションによって登場したデリバティブ取引や近年では仮想通貨などは、一時的には混乱をもたらすいかがわしいものと見られることもあるが、適切な規制は秩序をもたらし、有用な仕組みとして社会に組み入れられる助けになる。松尾真一郎氏(ジョージタウン大学 研究教授)は、スピーチの中で「レギュレーションはイノベーションの敵ではない。必要なのはまずはイノベーションを起こすこと、そのイノベーションのためにレギュレーションを変えなくてはいけないと思わせるようなものを作ることが重要で、規制を作る側と受ける側がコミュニケーションを重ねることが大事だ」とイノベーションとレギュレーションのあるべき関係を示した。

 他のセッションでは「データとプライバシー」や「メディアの中立性」などについても議論があった。どれも急速に進むイノベーションから生まれた技術やサービスを社会実装する過程で、問題が顕在化し、解決求められている課題だ。

 今年は明治維新から150年ということで、イベントのテーマは「テクノロジーの進化がもたらすレギュレーション維新」となっていたが、幕藩体制を解体して新しいルールと仕組みを作った明治維新のような変革が必要なタイミングが訪れているのかもしれない。

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朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。