「SNSの時代は終わった」と、投資家でありブロガーのFred Wilsonが2014年に宣言してから、インターネット業界がどこに向かっていくのかが大きな疑問になっている。そうした中、最近のユーザー動向から、 LINEに代表される「チャットアプリ」が注目を浴びていることが明らかになってきた。DG Labでも現在、チャットと人工知能を組み合わせたアプリケーションの開発を進めている。本記事では、こうした開発を通じて得られた知見をもとに、ビジネスの視点からチャットアプリを考察し今後どのようなビジネスチャンスをもたらしていくのかを考察する。
SNSの時代からインスタントメッセージアプリの時代へ
2015年から世界のトップSNSサービスよりインスタントメッセージのアプリの方が増加している。
参照元: BI Intelligence http://www.businessinsider.com/the-messaging-app-report-2015-11
インターネットの変遷
SNSアプリは未だに開発が行われているし、依然としてユーザー数も多いが、SNSの市場は、イノベーションの速度が遅くなってきている。最近では、Twitterよりもチャットアプリ上でニュースが早く拡散する時代になってきている。現実的な話をすると、SNS業界のビジネスは99%がほぼ完成していると言っていいので、これから新しいチャンスをつかみたい会社は、インスタントメッセージの業界にフォーカスした方がいいと言えるだろう。
インターネット全体の歴史を見てみると、その歴史は「Webの時代、SNSの時代、インスタントメッセージの時代」と分けられる。DG Labでは、これからのイノベーションの波はチャットボットになると考えている。ここでは、チャットボットを「インスタントメッセージに人工知能を搭載した技術に基づく対話型のアプリケーション」と定義する。
インスタントメッセージのUIを考える
スマホアプリの市場は飽和状態になっており、アプリを作るだけで成功するのは難しくなっている。ニッチニーズに向けたプロダクトを作るにしてもなかなか新しいものを作れなくなってきている。
ユーザーからすると、新しいアプリをインストールする度に、それぞれのアプリが全く異なるUIで動作するため、分かりづらく、苦痛を感じるところがたくさんある。すると、ユーザーは新しいアプリを試してみようという気がなくなってしまう。
一方で、インスタントメッセージアプリのUIは、どんなアプリを使っても、それほど変わりがないため、基本的な使い方は、誰でも直感的に理解できる。私たちのおばあちゃん世代でもチャットアプリを立ち上げればすぐに使えるようになっている。
そんなチャットアプリから買い物や飛行機を予約できるようになったら楽ではないだろうか。
現在、一般的なスマホユーザーは1日に3つ〜5つのアプリしか使わないと言われている。その理由の一つとして、ユーザーは新しいアプリをダウンロードする度に、新しいUIに慣れなければならず、その度にストレスを感じることがあると言えるかもしれない。チャットアプリのUIは、ほとんど同じでわかりやすく、5歳の子供から80歳の老人まで、誰でも使うことができる。
英語で言うと「barrier of entry」(入り口にある障害)が低くなっているということである。ユーザーが感じる壁は低くなり、プロダクトやサービスを使うまでの障壁が無くなるのでコンバージョンレートが高くなる。
チャットボットの大きなアドバンテージは、「barrier of entry」が低く、誰でも簡単に使うことができることだと言える。
ボットの3つの種類
チャットボットは、新しい形でサービスにアクセスできるようになる仕組みだと考えた方がいいだろう。
チャットボットを開発する方法は、いくつかある。開発する際には、以下の3つの大きなカテゴリーの中からどれを開発するのかを決めてから、会話型のUIをデザインし、開発を始めることを薦める。
1.テキストベース
テキストのみで動作するボット。このチャットボットを開発するためには、高度な自然言語処理の技術が必要となる。
2.Visualボット
現在はボタン型の会話型eコマースが一番作りやすいボットである。ユーザーとインタラクションするためにボタンで選択肢を表示して、ユーザーを誘導する。下記にあるH&Mの例は、ボタン型のUIを使って買い物ができるチャットボットである。ある意味では、ショッピングサイトと被るところが多いと考えられる。
3.Audioベース
Audioベースだと音声認識の技術が必要となるため、開発コストが高くなるリスクがある。これらのチャットボットは、現在パーソナル・アシスタント型のアプリケーションに使われている。
チャットボットのビジネスモデル
人工知能だけでは、技術の話で終わってしまうが、チャットボットを使ったビジネスモデルはどういう形になるのだろうか。人工知能と聞くと混乱するかもしれないが、ある意味ではチャットボットはシンプルだ。お客に製品を売るための新しい入り口になると言えるだろう。
eコマースの販売チャネルを考えてみると、チャットボットの他に色々なアイデアが考えられ、今までのウェブやアプリのサービスが競合となる。そうすると「チャットボットを開発して運用するのは意味がない」という意見も出るだろう。しかし、ここで最も重要なポイントはチャットボットを使うことによって、ユーザーはウェブサイトやスマホアプリを使うより、より簡単に、より早く、商品を買うことができたりサービスを楽しんだりすることできるようになることである。
データの重要性
これからの大きな事業はチャットボットをどんどん開発していくことになるであろう。しかし、人工知能の技術を高めるだけでは、十分ではない。成功するためには、ビッグデータを持つことが重要になっていく。このためDG Labでは、ビッグデータを保有するパートナーと連携して、データと人工知能を組み合わせることで、新たな事業の柱となる技術を開発していく予定だ。
人間らしさを表現する自然言語処理
ユーザーが感じている現在のチャットボットが抱える大きな問題の一つは、「不自然な会話になる」「いらいらする」「面白いけど役に立たない」などといったものだ。これらを解決し、高い知性を持つチャットアプリを実現するには、最新の自然言語処理が必要になる。ボットは言葉を分析するだけではなく、現実世界の意味解析も行う必要があるため、人工知能に現実世界の知識を持つたせることも大切だ。
例えば、ユーザーが「バファリン飲みたい」と発言した場合、人工知能にとっては明確な命令であるため、ルールベースのシンプルな技術で、ユーザーにバファリンの購入ボタンを表示することができる。
一方「頭が痛い」という発言に対しては、より複雑な現実世界の知識を分析して返事をする必要がある。すなわち人工知能が、「頭が痛い人には、風邪薬が必要である」ということを理解し、「風邪薬には、バファリンやアスピリンがある」ということを知った上で、「バファリンとアスピリンのどちらがいいですか」という返事をすることが要求される。
さらに曖昧なケースでは、ユーザーが「気分悪い」と発言した場合であり、人工知能はすぐ解決策を考えて返すのではなく、「どうしたの?どこが痛い?」などといった人間のような返事をする必要がある。
結論:インスタントメッセージアプリは、メッセージ機能を持つアプリではなく、インターネットの入り口として機能し始めている
普通のアプリより会話型エージェントのUIの方がリテンションレートが高いので、マネタイズに関してもバリエーションが多く、ホットな分野だと言える。
チャットアプリに関しては、アメリカよりアジアの方がイノベーションのスピードが早くなっている。アジアにおける代表的なチャットアプリとして、WeChat、カカオトーク、LINEが挙げられるが、現在FacebookはWeChatとLINEの機能を後追いしている形だ。
現在では、インスタントメッセージアプリを立ち上げると、友達と会話をするだけではなく、様々な企業ブランドと繋がることができるため、ネットショッピングをしたり、コンテンツを見たりするために、インスタントメッセージアプリが広く使われている。インスタントメッセージアプリは、今後シンプルなメッセージ交換としての機能だけでなく、その上に企業のウェブサイトやオンラインショッピングのサイトへと繋がるインターネットの入り口としての機能を持ち、インスタントメッセージアプリを中心としたエコシステムが広がるだろう。
チャットボットは、シンプルな形でサービスにアクセスすることができる技術であるため、普段使っているインスタントメッセージのアプリのコンテクストを変えることなく、様々なサービスにアクセスすることができ、ユーザーにとっても使いやすいインターフェースであると同時に、企業にとってもユーザーを獲得しやすくなるというメリットがある。