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【独占インタビュー:Jeremy Rubin – パート1】高校生でビットコインに興味を持ち、MITで普及を推進

マサチューセッツ工科大学(MIT)にてデジタルカレンシー・イニシアティブ(Digital Currency Initiative:DCI)やビットコインクラブを創設し、自身もビットコインコアのデベロッパーであるJeremy Rubin氏に彼の今までの活動やMITで研究されているブロックチェーン関連の話題などを聞いてみた。初来日の同氏の口から語られたのは、今まで日本ではあまり紹介されることのなかったMITの研究についてや、ブロックチェーン(ビットコイン)デベロッパーコミュニティの中で日々行なわれていること、現時点での課題、デベロッパーの育成についてなど多岐に渡る貴重なインタビューとなった。

 このインタビューは、2017年2月にDG Lab主催のブロックチェーンエンジニア育成イベントにトレーナーとして来日した際に、DG Lab Haus編集部が行った独占インタビューのパート1(パート3までを予定)。インタビューの聞き手は、DG Labアドバイザーを務める松尾真一郎氏。

最初にビットコインに興味を持ったのは高校生

松尾真一郎氏(以下、松尾):はじめに自己紹介をお願いできますか?

ジェレミー・ルービン(以下、ジェレミー):私はMITデジタルカレンシーイニシアティブ(DCI)の設立者の一人です。現在は、サンフランシスコを拠点に、フリーランスのビットコインエンジニア、オープンソース、コアデベロッパーとして働いています。

松尾:ビットコインやブロックチェーンの開発に関するこれまでのあなたの経験を説明していただけますか?

ジェレミー:最初にビットコインに興味を持ったのは2011年で、私が高校生の時でした。

松尾:高校生ですか?

ジェレミー:高校生です。興味深いと思いました。そして、私は自分のノートパソコンでマイニング(「マイニング(採掘)」の意味ついてはこちらを参照https://bitcoin.org/ja/faq#what-is-bitcoin-mining)をしてみたと思い、試してみたのですが、それで私の部屋が暖かくなりすぎたので、採掘をやめました。ビットコインスペースで実際のプロジェクトを始めたのは、2013年でした。2013年の夏、私は最初のビットコインをMt.Goxから手に入れました(笑)。そして、秋にTidbitというプロジェクトに取り組みました。Tidbitはウェブサイト上の広告を暗号通貨のマイニングに置き換えるプロジェクトでした。これはいくつかの理由で優れていました。私たちが最近目の当たりにしたように、大規模なニュースサイトに表示されている広告はかなり大きな問題になっていました。Tidbitの目標は、ウェブサイトへの訪問者が、ウェブサイトのコンテンツを見るのに費やした時間に応じて(広告を掲載する代わりに)、ウェブサイトのためにお金を稼ぐ仕組みを作ることでした。これにより、ウェブサイトのコンテンツから離れてしまうことになる広告のリンクを表示してユーザーの関心を削いでしまうことはなくなります。ウェブサイトとしてはコンテンツにユーザーを引きつけておくことでのインセンティブがあるし、最も有益で確実なコンテンツ体験が実現されるでしょう。

 また、プライバシーに関する問題に対して優れたものでした。複数のウェブサイト間でユーザーを追跡する必要がなくなったからです。このように、これは良いものだという多くの理由がありました。しかし、私たちは大規模な訴訟で、ニュージャージー州と大きく争うこととなり、それは何年も続きました。そして、その法廷闘争をきっかけに、私にある岐路が訪れました。それは「より深くビットコインを追求するのか?それとも他のことに重点を置くのか?」ということでした。そこで私は、ビットコインに対し、何か本当に興味深いものを感じ、結果ビットコインを選びました。そしてまた、MITの同級生の多くがその奥深さに気づいているわけではないことにも私は驚きました。それで、私が本当に素晴らしいと思ったことに関する認識や知識をもっと広めることを、自分の使命の一部にしました。

松尾:あなたはMITビットコインクラブとDCIの共同設立者ですよね?

ジェレミー:実はMITビットコインクラブの設立者になったのは、私の友達であるダン・イライツァーのおかげなのです。私たちは、100ドル分のビットコインをMITの全大学生に配布するというMITビットコインプロジェクトと呼ばれるものに一緒に取り組みました。配布したのは2014年の11月だったので、彼らが今でもそれを持っていたら、結構儲かってると思います(笑)。

より多くの人々をビットコインのコミュニティーに参加させるために

松尾:あなたがMITビットコインクラブやMIT DCIのような新しいものを始めた意図はなんですか?

ジェレミー:これらの題材は、学問的にも社会的にも本当に興味深いもので、大きなインパクトを与える余地が多くあると思っています。ただ、非常に扱いにくく、中に飛び込んでいくことも難しいものです。そのため、私は、より多くの人々を、このコミュニティーに参加させる機能を持つ組織を作ることが良い方法だと思いました。DCIを設立したのは、MITのみんなを集め、共通の研究コミュニティーや環境を持つためでした。そして、コミュニティーの連帯機能としてとても重要な、スケーリングビットコインやMITビットコインエキスポのようなイベントを行いました。

松尾:MITビットコインクラブやMITのコミュニティーには何人のメンバーがいますか?

ジェレミー:実は、現在の人数はわかりません。さまざまのブロックチェーンやMITビットコイングループのSlackチームがあり、私はその一つに行ってみましたが、そこでMITの修士課程のために大学で学んでいる友人に会いました。私が、「もしかしてDCIのメンバーなの?」と聞くと、彼女は、「そうです。大きいですよ。今はたくさんの人がいるんです。」と言っていました。つまり、本当に速く成長しているのです。そしてそれは、ネハ(Neha Narula)やJoi Ito(伊藤穰一)、またそこにいる他の人たちの素晴らしいリーダーシップのおかげだと私は思います。

松尾:ご存知の通り、MITメディアラボの規律はある意味では反規律です。MIT、MITビットコインクラブやMIT DCIの良い点は、それが反規律的だということだと思いますが、このコミュニティーはそれによりどのような恩恵を受けていますか?

ジェレミー:MITの素晴らしい点の1つは、視点や興味関心の幅に多様性があることです。そして、誰もが非常に高度な技術レベルの反規律性を持っています。しかし、多くの場合、お互いに離れて、独自で活動しがちです。ビジネス系の学科とコンピュータサイエンス系の学科は実際あまりコミュニケーションしません。私は、DCIの良いところは、場所として、みんなが集まってこの研究を深める共通の会議場として役立つことだと思っています。

 そして、メディアラボ自体も物事についての独特の視点を持っています。そこには素晴らしいコラボレーションがたくさんあります。私は、ネハがシルビオ・ミカリと共にCSAILの次の学期、2017年春のクラスを教えることを知っています。彼らは、コンピュータサイエンスの大学院生のためのあらゆる種類の暗号通貨工学コースを扱います。それは非常に素晴らしいものになるでしょう。

MITにおける最新のブロックチェーン研究について

松尾:あなたは、MITビットコインクラブと MITデジタルカレンシー・イニシアティブの創設者であり初期メンバーでもあるわけですが、あなたはその他のMIT内の活動にも詳しいと思います。MITブロックチェーンの研究についていくつか質問をしたいです。現在、MITではどのような研究が行われていますか?

ジェレミー:私は最近MITで修士課程を修了しました。そこで私は、貨幣(資産)の発行について新しい視点で話をしました。それは、インフレのために貨幣(資産)の発行量を増やすよりむしろ、時間をかけ、支出を促すことによって貨幣(資産)の価値を下げるという考え方です。それが私の研究でした。また、今、シルビオ・ミカリとその他多くのMITの教授たちが、取り組んでいるアルゴランドと呼ばれるプロトコルがありますが、これは本当に興味深い新しいタイプの、ビザンチン障害耐性を持ったコンセンサスプロトコルです。これを応用したプロジェクトもあって、例えば、医療記録をビットコインのブロックチェーンに保存して、この中で記録を管理しようといったものです。アメリカでは、電子カルテの問題はちょっと複雑な構造になっていて、これらを統合するのは難しくなっています。

 また、ゼロキャッシュプロジェクトという送信者も受信者も送金額さえも知られずに取引を行うことができ、かつ、その取引の信頼性がどのように証明されているのか示すことなく所有者を証明できる本当に素晴らしい暗号技術のイノベーションに取り組んでいる人たちもいます。また、全く新しい方法でウォレットを開発できる可能性がある、秘密鍵共有サーバーのプロジェクトもあります。本当に素晴らしい研究がたくさん進んでいます。

対談者

Jeremy Rubin

co-founder of Tidbit, the MIT ビットコイン Project, and the MIT Digital Currency Initiative

マサチューセッツ工科大学にてRonald L. Rivest教授の元、電気工学、及びコンピュータサイエンスの工学修士を修め2016年卒業。ビットコインの技術に精通し、Tidbitの創業、MIITのビットコインプロジェクト、MITデジタルカレンシー・イニシアティブの立ち上げなど数々の実績を持つ。またScaling ビットコインカンファレンスのプログラムチェアーとしても活動する。現在はビットコインコア技術の進化に力を注ぐ傍、ハードウェアや製造技術、関数型プログラミングにも取り組む。また、ロングボードスケーターでもある。

松尾 真一郎

DG Labアドバイザー(ブロックチェーン)
MITメディアラボ研究員 所長リエゾン
BSafe.network共同設立者

シリコンバレーを拠点に活動する、暗号技術と情報セキュリティ分野の研究者。ブロックチェーンをアカデミアの視点から成熟させる活動をしている。

MITメディアラボでは研究員および金融暗号分野の所長リエゾンとして活動するとともに、東京大学生産技術研究所・海外研究員、MagicCube Inc.のチーフセキュリティサイエンティストを務める。

世界初のブロックチェーン専門学術誌LEDGERのエディタであり、W3Cのブロックチェーンカンファレンスのプログラム委員。Pindar Wong氏ともに、ブロックチェーンの学術研究を行う大学による国際研究ネットワークBSafe.networkの構築を行っている。

Written by

DG Lab Chief Technology Officer (Blockchain)

2000年デジタルガレージ入社、エンジニアとしてキャリアを積み、その後プロジェクトマネージャーとして大規模Webシステムの開発を多数経験。2006年に同グループのイーコンテクスト社にてシステム統括を務める。2010年に再びデジタルガレージに戻り、Twitter公式ガイドサイトの開発・運用を統括。また日本初のシリコンバレー型スタートアップインキュベーションプログラムであるOpen Network Labの立ち上げに参画、FTセグメントを兼任しながらCtoCショッピングシステムの開発を統括するなど多方面で豊富な経験を積む。2016年DG Lab設立時にBlockchainカテゴリの技術責任者として着任。各種プロジェクトを遂行中。