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2017年1月17日と18日、米国マサチューセッツ州ケンブリッジ市のMITメディアラボにおいて、第1回「AR in Action Summit」が行われた。AR(Augmented Reality拡張現実)や、その周辺分野の発明者、革新者、投資家、その他のエグゼクティブを集め、最先端技術、研究、トレンド、そして未来に関しての予測などのさまざまな発表が行われた。発表者は70人(パネリストを含むと100人以上)を数え、産業界、学界、政府関係者など1000名を超える参加者が集まった。その分野は工業、流通、救急サービス、医療、軍事関係、博物館、ゲーム、スポーツ、建築、不動産や建設など幅広い業界に及んだ。
サミットは毎朝、参加者全員が講堂に集まり、2時間半の講演会を聞くことからスタートする。その後、3つの会場に分かれ、同時進行でデモ、トーク、パネルディスカッションなどが行われた。
●MITメディアラボFluid Interfaces GroupのディレクターPattie Maes氏は、「Embracing our Cyborg Selve」と題したプレゼンテーションで、ARデザインにおけるユーザ意図の解釈や、モデリングとユーザ感覚とを統合する重要性を強調した。
●ヘルスケアやバイオテクノロジー業界に投資するベンチャーキャピタルであるExcel Venture Managementのマネージングディレクターで、「Evolving Ourselves」の共同執筆であるJuan Enriquez氏は、人間が自分たちを拡張していることは、すなわち自らの知能によって進化を始めていることを示すという視点や、多様化することやデザインしたものの影響について考慮することの道議的な義務について語った。
●ソフトウェアエンジニア、弁護士、ベンチャーキャピタルアドバイザーでDigi-capitalの創設者兼CEO及びTechCrunchに定期的に寄稿しているライターであるTim Merell氏は、VR / AR市場の状況についての発表を行った。(プレゼンテーションは遠隔地からのビデオフィードで行なわれた。プレゼンテーションの内容はTechCrunch 記事のプレビュー)
それによると、AR市場が抑制的である原因のひとつは、ARのアプリケーションの開発が遅れていることだが、利用環境が整うまで、アプリを開発することは、開発者にとってリスクとなるという。ちょうどiPhoneがスマートフォン市場に果たした役割と同様の”ヒーローデバイス”が市場で待たれている。さらに、市場が発展するために取り組まなければならない他の重要な問題は、バッテリー寿命の延長、モバイル接続の増加、通信会社の補助金などだと同氏は考えている。
テクノロジーブロガー、テクノロジーエバンジェリスト、起業家であるRobert Scoble氏は、今後のAR市場に関する見通しについて講演を行った。Scoble氏は今年中にApple社が3Dセンサー付きの透明なガラスのように見えるiPhoneをリリースすると予測している。現在のARはより優れた3Dマッピング技術が必要という。Scoble氏によると今年のCES(コンスーマー・エレクトロニクス・ショー)でApple社が展示会場から光学関連のデモをすべて引き上げるようとCarl Zeiss社に要請した。これは今年、Apple社のスマートグラスが市場に出ることを想像させる。このスマートグラスは、それ自体ではほとんど処理を行わないため、iPhone本体も必要となり、モーショントラッキング機能は、ヘッドホンに搭載されたセンサーで行うという。
今後、すべての企業は物理的なコンポーネントとバーチャルなコンポーネントを両方持つことになり、小売からホテル、車(運転の拡張)、メイクアップの変革(例えば、セフォラ社のARメーク)など多量の新製品が登場することで、日々の生活を変えるビッグバンが起きるだろうと語った。
PTCの社長兼CEOのJim Heppelmann氏は、AR in Actionのゴールドスポンサーとして、IoTとARの接点にある工業企業向けのソフトウェアを提供している。IoTの役割は、製品のライフサイクル管理の一環として、物質界からどのようにデータを取得し、製品の状態、使用状況、およびその環境をどのように把握するかということだ。こうして得られたデータを設計データと統合し、物理的な製品の「デジタルツイン」を作る。Heppelmann氏はARがIoTから完全な価値を引き出すための成功への重要な鍵になる、と信じている。同氏は、このデジタルデータを取り込み、それを、修理、メンテナンスなどのための物理的なオブジェクトに重ねるのにARが活用できると考えている。
医師・科学者で、Singularity Universityの医学部長のDaniel Kraft氏は、「拡張現実と健康と医学の未来」というプレゼンテーションで、ヘルスとウェルネス、教育、診断と治療など、健康と医学のさまざまな部分で使用されているARとVRの例を挙げながら、健康業界においてARとVRに何が起こっているのかを説明した。それによると、AR、VR、AIなどのテクノロジーを組み合わせることで、継続的かつ積極的なウェルネスケアのためのアプリケーションとサービスを開発することができるという。そのために、医療費は従来からサービス賃金に基づいていたため、積極的なウェルネスケアのために新しい支払いモデルを作らなければならないと語った。
ネットワーク技術の先駆者でイーサネットの共同発明者でもあるBob Metcalfe氏は、「AR in Action」の主催者John Werner氏とインタビュースタイルのディスカッションを行った。 メトカーフの法則の起源について説明し、それと関連して、ARのキラーアプリも「人々をつなぐ」ものにならなくてはいけないと話した。
PCとラップトップ・コンピュータ、グラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)、現代のオブジェクト指向プログラミングのパイオニアであるAlan Kay氏は、VRとAR分野の初期の研究についてのエピソード、例えば、はじめの頃はヘッドセットやヘッドマウントディスプレイ(HMD)はとても重かったので、天井から吊り下げる必要があったことなどを語った。
さらに同氏は現在のHMDインターフェイスには3つの重要な問題を指摘した。それは、
IoT開発プラットフォームであるPTC社のThingWorx ProductsのエグゼクティブバイスプレジデントであるMike Campbell氏は、ARを通して手順書を確認しながら、機械を清掃し修理するデモを行った。このことによって、特定のクライアントの現場技術者がサービスできる機械の数が2倍になったという。
Janet Echelman氏は、本人が制作している、都市の公共空間の空中に浮かぶインタラクティブな彫刻について語った。これは、観客が共同で投影する色を選択することができる。また、特定アプリのダウンロードを必要としないようにモバイルウェブブラウザでインタラクティブ機能を利用できるようになっている。
「Future of Sports」の編集長であるJosh McHugh氏は、スポーツにおけるARのいくつかの例を紹介した。スポーツやスポーツ放送は、AR活用の先駆けとなっており、例えば、アメリカンフットボールの「ファーストダウン・アンド・テン・トゥ・ゴー」システムは、テレビ視聴者のためにフィールドの画像上にファーストダウンのマーカーの位置を重ね合わせて見せることができる。また、アメリカンフットボールなどのスポーツでの脳震盪診断に活用されたGoogle Glassの例も紹介した。
UC Santa Barbara大学のFour Eyes Laboratoryの共同ディレクターであるTobias Hollerer氏は、「ARの未来をシミュレートして」というプレゼンテーションで、AR分野での初期の頃、コロンビア大学で行った研究と、現在行っているAllosphereプロジェクトの研究についての講演を行った。
Bing Gordon氏は、2008年からKleiner Perkins Caufield&Byersのゼネラルパートナー&チーフプロダクトオフィサーであり、1998年から2008年にElectronic Artsのチーフクリエイティブオフィサーを務めた。Gordon氏は「ビデオゲームはARの何が予測できるのか(What video games predict for AR.)」のプレゼンテーションを行った。 ゲーマーは複数の情報を同時に処理することを訓練されており、他の感覚よりも視覚から早くそして多くの情報を取得することができる。さらに、エレクトロニック・アーツ社が創作した「さらにBMWの車のダッシュボードのインターフェイスは、ビデオゲームで最初紹介されたインターフェイスに似ているという例を紹介した。
ニューポート・ニュース造船所のエンジニアリング・マネージャーであるPatrick Ryan氏は、航空母艦の塗装における時間と費用を節約するためにARの活用のデモをおこなった。
Steve Mann氏はウェアラブル・コンピューティング分野における発明家、アーティスト、科学者、そしてパイオニアだ。講演は「ウェアラブル・コンピューティングとAR(拡張現実)の43年間」というタイトルのビデオによるものだった。その中で彼がまだ子供だった1970年代に創作した「世界で初めての着用可能なARコンピュータ」の例を紹介した。このARコンピュータでテレビ信号や他の電波をピックアップし、一連のライトを通して視覚的に表現することがでた。彼はこれを「phenomenological augmented reality」(現象論的拡張現実)と呼び、実際の物理現象を示している。さらに、教え子と共同で設立した会社であるInteraxonの脳感知ヘッドバンド、脳とコンピュータインターフェースを提示し、脳波を用いた瞑想の例も紹介した。
Ideas in Actionの創設者で、今回のイベントの企画者であるジョン・ヴェルナー氏によれば、ボストンにはすでにARとVRの分野の強力なコミュニティがあるという。さらに言えば、ボストンは以前から生物学とロボット工学の拠点であり、今後は当然AR分野のハブになるだろうと語った。 Bob Metcalfe氏との議論では、ボストンがAR活動の拠点として提供するものについて、Metcalf氏がボストンには10の主要な研究大学があり、近郊まで含めると100校があるとのべた。それに付け加えてWerner氏はボストン・ケンブリッジ都市圏には大学や大規模なIT企業が多く集まっているだけでなく、この地区の伝統的な主要産業に新しい技術が波及していくことが重要だと語った。