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コラボレーション研究はこうして生まれる@ボストン

MITの自習スペース 写真提供:Rikuo Hasegawa)

MITの自習スペース 写真提供:Rikuo Hasegawa)

 これまでの記事で紹介してきたように、MITメディアラボ では専門分野が違っても隔たりなく交流ができ、気軽に作品の共同制作や共同での研究ができる。今回は、筆者の周辺の人々が実際どのように出会い、コラボレーションにまで至るのかを紹介したい。

 まず、この記事における「コラボ研究」とは企業間や研究機関同士でのオフィシャルな提携ではなく、隣人との共同作業のような比較的ゆるい繋がりのもと行われる研究のことを指す。筆者の所属するSynthetic Neurobiologyグループでもこのようなゆるい繋がりの研究が多く行われている。基本的には、興味関心の対象が共有されていればどのようなテーマでもコラボレーションが発生する。また、お互いが共通する技術を持たなくともコラボレーションは可能で、むしろその方が望ましい結果が生まれることもある。

 筆者のラボには、同じMITメディアラボでも専門性が全く異なるDesign FictionやMediated Matterなどに所属する研究員がよく現れる。目的は趣味の話や、ブレインストーミングなのだが、これがきっかけとなり、共同プロジェクトが生まれることが多い。同僚が関わった最近の例だと、Design Fictionグループが、脳波で精子の動きをコントロールする作品を制作する際に、脳波を検出する技術やMIT McGovern研究所にあるラボの設備などを提供した。(https://damprod.media.mit.edu/x/2017/05/12/wonder_LIU_MS_2017.pdf

 自分自身は作品の共同制作などでのコラボレーションはまだ経験がないが、今のところ、主に有機合成に強い人や顕微鏡や解析ツール開発を得意とする人とのコラボ研究が多い。また、最近は、ブロックチェーンを応用し、研究成果をオープンでセキュアなものにし、多くの研究者たちがプロジェクトに参加できるようにすることで、研究を加速する仕組みづくりに興味があるので、同ラボでブロックチェーン技術を専門に研究しているDigital Currency Initiativeの友人と作戦会議中である。

 このような出会いは、わざわざ他のラボに足を運ばなくても大学内のパーティや基調講演でも可能だ。同僚には、LGBTQ+のイベントや音楽のライブでの出会いから研究に繋がった者もいる。ボストンでは大学や病院、研究所、スタートアップなどの研究機関が密集しているため、学内学外問わずにこのような出会いが日常的に起こりうる。コラボ研究の開始後も、お互い近所にあるというのは何かと便利なものだ。実際、筆者と同僚たちも、コラボ先の研究室があるハーバード大学のWyss Instituteまで自転車でサンプルや資料を取りに行くことがよくあった。

 なかには、このような関係性はかえって競争力を弱めてしまい、研究の質が下がってしまうのではないかと思う人もいるだろう。しかし、現場ではこのようなゆるい繋がりのおかげで常日頃から、年齢や身分などは一切気にせず、まるで文化祭を必死で作り上げようとする若い学生たちのような勢いでディスカッションが繰り広げられている。学際的な研究分野においては、このようなオープンな交流なくしてイノベーションを起こすのは難しいのではないだろうか?

 本記事で紹介したこのようなコラボレーションは何もボストンに限られたことではなく、どこでも行うことができる。これまで以上に学際的な研究が求められるこれからの時代では 、研究者同士の幅広い交流によって生まれる化学反応が科学を推進していくのだと感じる。 世の研究者たちはコンフォータブルゾーン外でも、もう少し肩の力を抜いてゆるい関係を築いてみてもいいのではないだろうか。必要なリソースや知見は案外隣人が持っていたりするものだ。

 

 

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