ファイザー株式会社でオープンイノベーションを推進する瀬尾亨氏に、同社の取り組みと、現状の課題などを聞いた。聞き手は東京工業大学情報理工学院 研究員でDG Labのアドバイザーでもある榎本輝也氏。
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榎本:はじめに自己紹介をお願いいたします。
瀬尾:ファイザーの瀬尾と申します。会社ではオープンイノベーションを担当しております。具体的には会社の買収や共同研究、協業、インベスティメントスキームを作ったり、ベンチャーサポートをしたりなど幅広くやっています。
榎本:創薬の分野では、オープンイノベーションがどのような効果を発するのか教えていただけますか。
瀬尾:オープンイノベーションの概念は、社内にないものを外と一緒にやることにより、その技術を使って新しいものを作るということなんですが、今はひとつの会社で全部をやるような時代じゃないんです。絶えず新しい技術を使うためには外とやらざるをえない。そして、実際にそうすることで成果がでている。新しいものを発見するだけでなく、それを次のステップに持っていき、最終的に薬にするためにはすべての過程で、他との協業は必要とだと思います。
榎本:日本でオープンイノベーションを進めるにあたって、難しいポイントは何でしょうか。また今後どうすれば、それを解決できるのでしょうか
瀬尾:日本は基礎的なところは大変優れている、ただそれを応用する段階で、アカデミズム、企業とセクターが分かれているので、そこをスムーズに移行できない。そしてそれぞれの大学の先生や企業がゴールについて違った考え方を持っており、サイエンスの応用についてのコンセンサスが取れていません。そこが大きな問題だと思っています。
さらにマインドセットがあっても、作り上げていくためのシステムが欠けています。それは例えばお金がなかったり、経験者が不足していたり、その分野で起業したいという人が少なかったりといったことで、今後はこれらを改善していく必要があると思います。
榎本:とはいうものの、こうしたシステムをアメリカの真似をして、そのまま導入することが正しいのか疑問に思うのですが、そのあたりに関していかがですか。
瀬尾:正しくないと思います。日本の失敗はアメリカのシステムを正しく理解しないまま、産学連携ということで、ここ十数年やってきたことです。日本の大学や企業のシステムを理解したうえで日本風にアレンジすることなく、知財にフォーカスしすぎています。大学の先生にパテントを獲れというけれど、特許は知財を有効活用するための手段で、それ自体が目的ではないのです。
しかし残念ながら、そういったところがしっかりと議論されないまま、導入されてしまいました。アメリカのシステムを活用するためには、環境やマインドセットを変えていかなくてはならないんですね。そして私たちはそのための行動をやっています。
例えば、去年は大学と一緒に国の資金で、ベンチャーを立ち上げるといったことのサポートをしました。大学の中に残っていると、事業化は不可能です。大学を一歩出てもらって、それを事業化するお手伝いを行っています。
榎本:DG Labもバイオのインキュベーションスペースを作ろうとしているのですが、こういった組織とファイザーが協業できる可能性はあるでしょうか
瀬尾:いいものであれば、当然やります。ただ、バイオのインキュベーション施設などはすでに日本各地にありますが、私の目から見るとどれも成功していない。つまり、次のステップに持って行くことができていないのです。ビジネスとして成り立つインキュベーションセンターであるなら、ファイザーとしても協業できますし、アメリカでは実際にやっています。お互いにメリットのある枠組みができないと、ただ「インキュベーションセンターを一緒にやりましょう」では動くことができないというのが正直なところです。
榎本:なるほど、ちゃんと目的をもって、先のことまで考えてということですね。ありがとうございました。