IndieBioでチーフサイエンスオフィサーを務めるRon Shigeta氏が、バイオテクノロジー分野で、有望なスタートアップを育成する同社の取り組みと、その成果について語った。聞き手はDigital Garage US, Inc.でコミュニティマネージャーを務めるJustin Hall氏。
* * *
Ron Shigeta(以下、Ron): Ron Shigeta, PhDです。IndieBioのチーフサイエンスオフィサーでSOSVの投資パートナーでもあります。私たちは、バイオテクノロジーのスタートアップに対する投資を行っています。そしてバイオテクノロジーが、より人々の役に立つようになればと思っています。
Justin Hall(以下、Justin):なぜIndieBioに関わることになったのですか?
Ron:私は長年、バイオテクノロジー分野での新規ビジネスと関わってきました。Affymetrixという会社で15年間働いています。そして同時にBerkeley Biolabsというバイオテックインキュベーターも始めました。そこは自分のアイデアを試してみたい人々のためのラボです。そして、さらにそこからIndieBioを分社化しました。
Justin:すごいですね。(IndieBioを)始めてからどれくらい経つのですか?
Ron:IndieBioは、今で約3年です。
Justin:スタートアップの文化とバイオテクノロジーの融合が上手く行われていますね。
Ron:そうですね。IndieBioはスタートアップの精神と文化を大事にしています。そうして、小さな新興企業を育てています。私たちはバイオテクノロジーの可能性についてのいわばショーケースになっていると思います。
Justin:あなたたちは技術や知識をうまく組み合わせ、それをマーケットに送り出しているように私には思えるんですが……。
Ron: 学界には、ポスドクと大学院生の供給過剰という課題があります。彼らには仕事がありません。学術的な仕事がなく、産業界でも活躍できる仕事の領域が狭いのです。そういった状況でしたので、アイデアを自分で実現し、商品化し、そしてそれらから直接的な恩恵を受けることができる今の状況は、とてもよいことだと思っています。
それと、バイオテクノロジー関連のコストは下落しています。多くの中古機材が出回り、生物学的なデータを測定するコストも急激に下がっています。こうしたことが同時多発的に急激な進展を見せたため、小さな企業でも、少額の資金で驚くべき成果を示すことができるようになりました。
Justin:なるほど、そのようにしてIndieBioは新興企業を育て来たのですね。もしよければ、あなたのプログラムで将来見込みのありそうな例を少し教えてもらえませんか?
Ron:IndieBioでの起業家たちと一緒に働いていると驚くような経験をすることがあります。彼らの発想は驚くべきものです。その中の一つ、Konikuは神経細胞が搭載された小さなチップを作りました。16個の細胞で構成された小さな脳を作り、コンピューターとやりとりを可能にします。そこからニューロコンピューティングデータを取得し、コンピューティングのためにそれを使用します。この驚くべきアイデアは、多くの神経科学者が積年の願望だったことです。Konikuはそれを現実のものとしました。彼らは、自分たちが作ったその小さなデバイスで、ドローンを操縦しました。それは壮観で、愉快なことでした。
他の例をあげましょう。私たちはより多くの正確なデータを取得する幾つかの会社をサポートしています。彼らは免疫システムや医療研究での細胞プログラミングの問題を解決するため、デバイスを作り、ユーザーや研究者、彼ら自身が使えるデータを生成するプロセスを確立しました。
また、私たちは博士号を持っていない人たちにも資金を提供しています。昨年卒業したばかりの2人の電気技術者に資金を提供しました。彼らは動物の遺伝子をプログラムする小さなチップを作りました。 今まではノックアウトマウスやトランスジェニックマウスを用いて、遺伝子機能の解析をしていましたが、それらは非常に時間がかかり高額です。彼らはそれを100倍以上効率化しました。
Justin:なるほど。ところで今回あなたはデジタルガレージが主催する「New Context Conference 2017」の登壇者としてやってきたのですが、イベントの参加者や日本の人たちに何か伝えたいことはありますか。
Ron:ええ。私は日本のことが好きですし、日本はバイオテクノロジーに対してとても意欲的だと思います。多くの熱心な投資家がいて、そうした人々はバイオテクノロジーがこの先どうなるのかを理解しようと努めています。そのうち世界を驚かすような起業家がでるかもしれませんね。
Justin:バイオテクノロジーは、この先どのような役割を果たしていくと思いますか
Ron:ご存知のように、私たちは漁業資源が不足するという問題に直面しています。天気や気候も大きく変化しています。バイオテクノロジーはこうした問題に対応し得るテクノロジーなのです。そして地球環境と調和をとりつつライフスタイルを維持するために、多くの問題を解決してくれるでしょう。
同時に、人はどれほど大きなインパクトを地球に与えているのかを理解しなければいけません。そして、海産物など食糧を得ることはますます困難になっているのです。10年20年と今の資源の状況は続かないでしょう。そういった意識の高まりが、起業家を生み、問題の解決に向かわせます。
特に若い世代ほど、こうした問題に緊急性を感じています。日本でもこうした意識の高まりを感じました。次世代がこうした問題に取り組むことをうれしく思っています
Justin:素晴らしいですね。本日はありがとうございました。