現在のモバイルネットワークは第4世代移動通信方式(4G:フォージー)。普段、あまりその恩恵を感じないかもしれないが、それ以前の通信方式に比べると、ずいぶん高速化(100Mbps~※)・大容量化しており、生活やビジネスの基盤になっている。
2020年にはこれがさらに高速・大容量となる第5世代移動通信(5G:ファイブジー)のサービス開始が予定されている。11月9日から11日までの3日間、東京・日本科学未来館で株式会社NTTドコモが開催した「見えてきた、“ちょっと先の未来”~5Gが創る未来のライフスタイル」を訪れ、5Gの導入予定や、5Gが生活やビジネスをどう変えるかを取材した。
※bps(ビーピーエス)は一秒あたりに転送できるデータ量。1M(MB:メガバイト)bpsは1秒間におおよそ100万バイトのデータ転送速度。
5Gとは「高速・大容量」「超高信頼・低遅延」「多数端末の同時接続」を特徴とする次世代の移動通信。2020年には、2010年と比較して移動通信のトラフィック量(ネット上を流れるデータの量)が1000倍以上になると予想されており、現在の通信技術ではこれを捌ききれないことが予想される。そこで5Gでは、20Gbps(ここのGはギガバイトの単位のこと:1GBは約10億のデータ量)という高速通信、1msec(0.001秒)という低遅延、4Gの100倍以上の端末の同時接続(総務省資料「IoT時代に向けた移動通信政策の動向」では100万台/平方キロメートルとされる)を可能にするという。
中村武宏氏(NTTドコモ5G推進室長)によると、5G通信のノンスタンドアローン(現行の通信規格と組み合わせ)よる運用は2017年12月から、そしてスタンドアローン(5Gネットワークの独立稼働)を含む全体の仕様確定は2018年9月を予定している。そう、5Gはもうそこまで来ているのだ。
中村氏によると、5Gによって実現する商用サービスの事例は下記のようなものが想定されるという。
VR(仮想現実)スマートグラス / 自由視点映像 / (スタジアムなどでの)超高密度トラフィック / AR(拡張現実) / 高臨場感 / 高解像度カメラ中継
ドローン管理 / 触覚通信 / 遠隔手術
スマートシティ、スマートホーム / スマートウェラブル / スマートマニュファクチャリング
自動車 / 鉄道 / 観光 / 医療、ヘルスケア / 農業/ 工業 / 防犯、警備など各業界でのさまざまな事業創出
上記からもわかるように5Gには「高速・大容量」はもちろん「高信頼・低遅延」と「多数端末の同時接続」という要素もあり、これがかなり重要だ。
たとえば、工場や建設現場、遠隔医療などで、IoTつまりネット経由で機械などをコントロールするときに、通信速度の遅延が原因で作業のタイミングがずれたり、低品質な通信データによってエラーを起こすようなことがあってはならない。そこで、5Gの「超高信頼・低遅延」が必要とされる。
また、IoTによって多数の機器がネットに接続することになる。例えば工場内の無数のセンサーがネットにつながるだろう。さらに工場だけではなく、IoTは家庭や生活にも入り込んでくる。これまでは、ネットに繋がっているのはパソコンかスマートフォンぐらいだったが、AIスピーカーや家電などの新たな機器が接続されていく。さらに電気のスマートメーター、空調や、見守り、健康管理などのセンサーなどを備え、家そのものがネットにつながるスマートホームなど、多様な端末がつながり、しかもエラーをおこさない通信回線が必須となる。
中村氏は「NTTドコモは東京臨海副都心地区(お台場・青海)および東京スカイツリータウン®周辺を5Gトライアルサイトとして5月よりさまざまな実証実験を行っている」と述べ、現在さまざまな業界のパートナーと共創活動を展開していると語った。
5G通信の使用例として、今回はトヨタ自動車などの企業と共同で行われた「5G通信を用いたコネクテッドカー(情報無線端末としての機能をもった自動車)の実証実験」が紹介された。コネクテッドカー展示ブースには、屋根部分に5G通信に対応したインテルの高性能の小型アンテナを搭載したトヨタの大型ミニバン乗用車「アルファード」が置かれていた。説明員によると以前は大きなアンテナが必要だったが、コンパクトになったということだ。
このコネクテッドカーは走行中、「車載センサー(高解像度カメラ)」から4Kの高画質画像をリアルタイム交通状況として発信することができる。実際にお台場地区において、5Gの基地局を複数設置し、移動しながら連続的に通信を行う実証実験にも成功している。この技術を用いて、将来は車から発信された情報と街中の「インフラセンサー(交通状況を俯瞰してみるカメラ)」情報と組み合わせて、AIが交通状況を高速分析し、関係機関や走行中の自動車に情報を流すことも可能だとという。
実際にコネクテッドカーに実装された5Gは、どれほどの高速通信が可能なのか?展示場に置かれたディスプレイには、コネクテッドカーがやり取りする通信速度がリアルタイムで表示され、ダウンロード速度は約1GB、アップロード速度は約555MBとかなりの速度を示していた。これが走行状況によってまた速度が落ちるのかもしれない。また実際に商用化され、多数の端末が行き交う状態になったら、速度は低下するのかもしれないが、それらを割り引いてもかなりの速度だろう。
これは自動運転も見据えているのかと質問すると、「コネクテッドカー=自動運転車」ではないとの前置きはあったものの、関係は大いにあると説明員はコメントした。一例として、会場で放映された住友電工との実証実験映像を見る。周辺道路や建物、歩行者の状況などの情報を周辺センサーで収集し、コネクテッドカーに送ることで、物陰から出てくる歩行者などを察知して対応する「高度運転支援」の実現ということだ。
また、高速、低遅延のデータ交換は、車両間での瞬時の情報交換も可能にする。これによって、この先の道路状況などを対向車や先行車から取得することも可能になる。こうした技術が実現することによって、自動運転を目指すインフラ構築も一層加速するだろう。