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ブロックチェーンで「信頼」のプラットフォーム ALISが目指す「なめらかな」インターネットと社会

ブロックチェーンをつかった信頼のプラットフォームを目指すALISの安氏(左)と水沢氏

ブロックチェーンをつかった信頼のプラットフォームを目指すALISの安氏(左)と水沢氏

 インターネットがおかしい。情報格差をなくし、人々がフラットにつながるフェアな世界ができる、と考えられた情報空間。しかし実際は、ページビュー(PV)目当ての粗製乱造コンテンツ、さらにフェイクニュースがあふれる世界になってしまった。SEOハックで必要な情報、価値ある情報にアクセスしにくくなった。こんな「ゆがんだ世界」を、ブロックチェーン技術を使い「信頼」に基づく世界にアップデートできないか。メディア・プラットフォーム「ALIS」プロジェクトが、ICO(Initial Coin Offering、仮想通貨による資金調達「新規仮想通貨公開」)により、約4.3億円の調達に成功した。創業した若者たちは、「信頼」という抽象的な指標を見える化し、いびつなインターネット、いびつな世の中を「なめらかにする」ことをミッションとする。

「世の中はいびつ」

 いびつな情報空間はむしろ、実空間の合わせ鏡なのかもしれない。

 ALISのCEO安昌浩氏(29)は、福岡県北九州市での高校、進学した京都大学での生活でそんないびつさに気がついた。「北九州って治安が悪いんです。それはさておいても、人生を考える上での情報がとても少ない。首都圏、近畿圏との情報格差がすごいんですよ」

 地方の進学校の多くは、地元国立大への進学実績を重視する。安氏は自由な校風にあこがれ京都大学への進学を希望するが、成績は360人中340番目くらい。希望を教師に伝えると、反応は当然のように「馬鹿か」だった。

 発起して見返すように現役で京都大学に進むと「先生の枠の中で、生徒の可能性をつぶしていないか。先生の価値観を変えたい」と思った。

 ところが、京都大学で別のショックを受ける。

 「友人と話すと、親はエリート官僚、医者、著名人で、みな当たり前のように良い教育を受けてきた人ばかり」だった。さらに、就職活動の時期、関東圏の中堅大学にいた同郷の友人から「東京大、京都大、早稲田大、慶応大の学生には一人も会ったことがない」と聞いて驚いた。

 「就活強者、弱者って存在するんですよ。世の中はいびつだな、なんかなめらかじゃないな」と感じた。

信頼のプラットフォーム

 ALISが構想するメディア・プラットフォームは大まかに

  1. 投稿者がコンテンツを投稿する
  2. ユーザーがコンテンツを評価する
  3. 評価されたコンテンツ投稿者にトークン(コミュニティ内のポイント)が配布される
  4. 評価されたコンテンツをいち早く評価したユーザー(キュレーター)にもトークンが配布される

という仕組み。PVベースのコンテンツ評価ではなく、コンテンツとキュレーターの信頼をベースにした評価システムだ。良質なコンテンツの投稿者とそれを評価したユーザーが共にインセンティブを得ることで、PV目当てのあおり記事や信頼度の低い評価者を徐々に減らしていく仕組みとなっている。

 評価は単純なエンゲージメントの数量で計るわけではない。ちょうど、検索アルゴリズムのように、より信用の高いユーザーからの評価はより高くなる。そこで利用されるユーザーの信頼度スコアは、トークンの保有量のほか保有期間、利用頻度などを基に判定される。ただし、突出して影響力を持ったユーザーにトークンが集中しないような設計も取り込む。

 トークンは将来、仮想通貨として取引所に上場されればドルや円、仮想通貨と換金可能となるが、保有量が信頼度スコアに影響するため、売却するインセンティブは減殺される。プラットフォームのユーザー、トークンの需要が増えることでトークンそのものの価値が上昇し、ALISはトークンを放出することで利益を得ることができる。

 これらコンテンツやユーザーの評価、トークンのデータとそれらの承認記録が、改ざん不能なブロックチェーンに保存される。

コミュニティの格差

 創業メンバーでCMOの水澤貴氏(31)は新潟市出身。立命館大学で仲間十数人と学生ベンチャーを立ち上げた。ガラケーにつけるクーポン・ストラップを作り、 学生にはおまけや割引を、店舗は学生の集客につながるという仕組みだった。提携店は順調に増え、事業は軌道に乗り始めた。

 しかし、就活が始まるとちょうどそのタイミングでサービスが回らなくなった。「提携店からお叱り、怒りの電話が殺到して、電話に出るのが怖くなった」ほど。「サークル活動の延長で、お金儲けとか、そもそもの動機がいまいち。だから、長続きしなかった」と振り返る。

 ろくに就活もできなかったところ「ベネッセに拾ってもらった」水澤氏は、ベネッセで生徒向けSNSや学習用タブレットなど新規事業開発を担当し、入社1年で社内のMVPも受賞した。そこで気づいたのは「高校生の間の情報格差がひどい」ことだった。

 「格差ってつまるところ、人とのつながり、コミュニティの格差、社会関係資本にある。女子高生はその時に所属するコミュニティで人生が決まってしまう、と言っても過言ではなない。コミュニティに馴染めない子の逃げ場がネットや塾で、そこは彼・彼女たちのサードプレイスでもある」ことに気がついた。それとともに「サードプレイスでやりたいことが見つかった時に、人間は頑張る方法を知ることができる」ということも。

 「頑張る方法を知ることも、インターネットで解決できるはず。でも、現在のインターネットは誰が信頼できるか分からないし、情報が多すぎて、良い情報を探すことが難しい」

 そんな問題意識が、ベネッセから転職した大手企業で知り合い、同僚となった安氏と重なった。

合意形成アルゴリズムの可能性

 安氏は大学卒業後、大手企業に就職したが、6年で起業すると誓っていた。そこへベネッセから転職してきた水澤氏、ともに仕事をしてきたフリーランスのエンジニア石井壮太氏(35)と出会い、創業メンバー3人が揃った。

 水澤氏が安氏の構想に加わった理由は「熱量」。学生ベンチャーの経験から「熱量のないチームはだめ。新規事業には必ず不確実性と壁があって、出世とか考えると突破できない。世の中に商品やサービスの必要性がないと、モチベーションもつきる。最高の3人が集まった」。

 2017年5月。安氏は東京・八重洲の居酒屋で、ひと仕事を終えた石井氏の慰労会を開いた。慰労会は起業とブロックチェーンの話題で盛り上がった。さらに数日後、水澤氏を含め3人が、東京・丸の内のカフェで、ブロックチェーンについてさらに議論を重ねた。

 ブロックチェーンにこだわったのには伏線があった。2カ月ほど遡る3月にあった社内での小規模な勉強会だ。安氏と水澤氏は、この勉強会で特に信頼する第三者がいない状態(トラストレス)でもビットコインのように「価値」を送受信できるという信頼を担保する仕組み、合意形成アルゴリズムを知り、強く惹かれた。

 合意形成アルゴリズム、プルーフ・オブ・ワーク(Proof of Work、PoW)と呼ばれる仕組みは、悪いことをするより良いことをした方が報酬を得ることができるという「経済的インセンティブ」、さらに現実的にブロックチェーンつまり記録の改ざんは不可能であるということに支えられる。これにより、ブロックチェーンは管理者不在の分散ネットワークで正しく機能する。

 「PoW、合意形成アルゴリズムを知った時、性悪説でありながら信頼の下に記録を保存できるところに可能性を感じた」と安氏。水澤氏も「もともと、トークンエコノミーに関心はあったけど、技術的観点を理解していなかった。ブロックチェーンがコスト削減につながるのはもちろん、中央集権ではなしに信頼を担保する仕組みは応用範囲が広いと感じた」という。

 これをメディアに適用すれば、インターネットを「なめらかにすることができる」と思い至った。信頼できない情報、SEOハックが横行するウェブの世界の問題を解決できるのではないだろうか、と。

 実は、ブロックチェーンを基盤にクリエイターとキュレーターへの報酬で信頼のインセンティブをつくるプラットフォームというALISの構想は、米ソーシャルニュースサービスSteemitからインスパイアされたアイデアだ。

 6月、石井氏が試しに「北米旅行記」をSteemitに投稿したところ、1日で30ドルの報酬を得ることができた。可能性を感じたが、一方でSteemitはトークンが複数あり、一般ユーザーにはトークンの入手方法やサービス全体の理解が難しいと感じた。

 「メディアとしては課題が多い。もっと使い勝手の良いシンプルなメディア、サービスを日本をターゲットにつくる」としてALISを構想した。

 ALISは当初、仮想通貨に特化したメディアとし、信頼のプラットフォームというブランドを確立。グルメや口コミといったジャンルを扱うメディア展開を構想している。

 コンテンツとクリエイターやキュレーターの「信頼データ」を蓄積、つまり信頼を見える化できれば、さまざまな分野で活用できると考えている。そうして、法定通貨、仮想通貨と交換可能なALISトークンが循環する「ALISエコシステム」が形成されるという。 

 「ALIS」は、allianceとwisdomを掛け合わせた造語。「人々が同盟的に知恵を集約するようなものを作りたくて」名付けた。

<あとがき>

 ICOは起業家などが発行したトークンを仮想通貨で販売し資金を調達する手法で、クラウドセールとも呼ばれる。国境を超えて素早く大きな資金を調達できるため、新規株式公開(IPO、Initial Public Offering)に代わる手法として注目されている。

 ALISは、ICOによって目標下限であった11,666ETH(約3.8億円)の調達に12日間で成功。調達した資金で開発やマーケティングにあたる社員を採用し現在、8人で来年4月からのベータ版提供を予定している。 

 ICOに関しては、日本ではまだ法的枠組みがなく、金融庁は個別案件ごとに対処している。ALISはICO実施にあたって弁護士を交え、金融庁や財務局と意見交換を行ったとしている。

■関連リンク

ALIS – Medium https://medium.com/@alismedia

高評価の記事に「トークン」配布 広告に依存しないメディア「ALIS」、ICOで資金調達 – ITmedia NEWS 

田中 徹 Written by
北海道新聞で記者を経て現在、東京支社メディア委員。デジタル分野のリサーチ、企画などを担当。共著書・編著に「頭脳対決!棋士vs.コンピュータ」(新潮文庫)、「AIの世紀 カンブリア爆発 ―人間と人工知能の進化と共生」(さくら舎)など。@TTets