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スタートアップ「オノクワ」が目指す 音楽業界の新しいエコシステム

Onokuwaの石谷優樹代表取締役CEO

Onokuwaの石谷優樹代表取締役CEO

 「信用」や「評価」といった価値を仮想通貨で可視化し、流通させることができるようになった。スタートアップ企業のOnokuwa(オノクワ、石谷優樹代表取締役CEO)は、独自の仮想通貨「CLAP」で世界中のクリエイターとファンをつなぎ、ファンの評価によりクリエイターが自由な創作活動をできる「Creator good」(クリエイター・グッド)な世界を目指す。6月には東京・渋谷で初のイベント事業としてライブ「オノフェス #PayYourPrice」を開催した。 

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QRコードが同封されたMili」の3rdアルバム「Millennium Mother」

QRコードが同封されたMili」の3rdアルバム「Millennium Mother」

 CLAPは拍手の意。クリエイターへの賞賛、評価を可視化する手段として発行される。CLAPは、ファンがライブハウスに足を運んだり、CDを購入したり「クリエイティブに触れること」で入手することができる。具体的にはCDに同封、ライブハウスにあるQRコードをアプリで読み込むことでCLAPを得ることができる。円など法定通貨とは切り離され、値が付くことはない。

 入手したCLAPをファンからクリエイターに送ると、デジタル会員証や限定ノベルティなどと交換することができる。また、CLAPを受け取ったクリエイターは、CLAPによってスタジオやライブハウスを支えたり、CDなどパッケージを制作したりすることができるようになる。クリエイターが集めたCLAPの量が、そのクリエイターへのファンの熱量、評価を表す仕組みだ。

 石谷氏は「円に紐付いて循環する経済圏でも、決済や価値の保存でもない、クリエイターの価値・評価基準としての経済圏づくりを目指す。お金が直接的に絡む評価軸を1回排除してみたい」という。

 音楽制作ユニット「Mili(ミリー)」がCLAPの第1弾クリエイターとして参加。4月に発売したサードアルバム「Millennium Mother」にCLAPのQRコードが同封された。 

 将来は、音楽分野以外にもCLAP経済圏を広げ、ファンとクリエイターをつなぐ道具として使い方を模索したいとしている。

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 Onokuwaは2017年8月に創業した。社名は「斧と鍬」の意。「当たり前や常識を壊し、鍬で耕し直して整地したところに、コンテンツ制作の土壌をつくりたい。ブロックチェーンなど最先端のテクノロジーを使いつつ、人間の生活に寄り添うサービスを目指す」との目標を込めた。

 

 石谷氏は1994年生まれの23歳。神戸市出身で関西学院大学在学中の20歳の時、700人規模の音楽フェスを主宰し成功させた。ITスタートアップでのインターンなども経験。2年前、ブロックチェーン技術を知り「世の中が変わるかもしれない、と直感的にワクワクした」という。また「クリエイターが飯を食えない、正当に評価されないといった課題が解決できるかもしれない」と感じたという。

 そんなことを考えていた時、ITスタートアップでのインターン時代に知り合っていたブロックチェーンの専門家、オノクワ共同創業者CSOの森川夢佑斗氏と再会。起業のため大学を中退した。森川氏は京都大学出身で「ブロックチェーン入門」(ベストセラーズ)を著している。

オノフェスの投げ銭の様子(Onokuwa提供)

オノフェスの投げ銭の様子(Onokuwa提供)

 音楽フェスの経験から石谷氏は「フェスでは、たまたま見たアーティストを好きになるといったセレンディピティ、出会いがある。CLAPはファンがクリエイターを発掘する喜びにも貢献できる」とみる。「地方のライブハウスで活動する、ファンの絶対数は少ないけど熱量は多い、そんなアーティストを発掘できたら面白いし、CLAPの価値自体も上がる。将来はイラストレーター、漫画家、アニメ作家などへ領域を広げたい」という。

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 6月にあった「オノフェス」は、「Onokuwa Creation」の一貫。「ROA」「真っ白なキャンバス」などが出演。イベント終了後に、ファンが感じた価値を入場料として支払った。フィンテック系スタートアップのKyash(キャッシュ)と協業し、支払い(投げ銭)にはウォレットアプリ「Kyash」が使われた。290人が来場し、23万円を超える投げ銭があった。

オノフェス。投げ銭はQRコードでも現金でも可能

オノフェス。投げ銭はQRコードでも現金でも可能

 Onokuwa Creationはクリエイターのマネジメント、コンテンツ開発・ イベント制作・マーケティング支援、クリエイタービジネス領域におけるプラットフォーム開発の3点を主に行う、CLAPに続くオノクワの事業。アドバイザーとして『WIRED 日本版』の再創刊時の編集⻑ 、paragraph 代表の⻑崎義紹氏ら3 人を招聘した。

 音楽を始めコンテンツが無料、低廉化している時代に、ユーザーにどうお金を払ってもらうか、クリエイターがどう持続的に活動するか。そんな課題に、オノクワはCLAP経済圏をベースにしたファンとのつながりやリアルイベントを通じ、解を出そうとする。

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北海道新聞で記者を経て現在、東京支社メディア委員。デジタル分野のリサーチ、企画などを担当。共著書・編著に「頭脳対決!棋士vs.コンピュータ」(新潮文庫)、「AIの世紀 カンブリア爆発 ―人間と人工知能の進化と共生」(さくら舎)など。@TTets